奇形精子を極力下げるためには?顕微授精の際の注意点や改善方法とは?

2022.04.08
奇形精子を極力下げるためには?顕微授精の際の注意点や改善方法とは?

奇形精子症とは?

正常な精子の形は、漠然とオタマジャクシのような形と思われていることでしょう。もう少し具体的に言えば、精子頭部の外周形状が楕円形(頭の形が楕円形)で、真っ直ぐ長い尾部との連結がスムーズな形をした精子をいいます。このような正常な形をしていない精子を一般的には「奇形精子」といっています。

正常な精子:楕円形の頭部と真っ直ぐ長い尾部と、両者をスムーズに連結している中片部を有する正常形態の精子です。

一見正常な精子に見える、軽度な奇形精子:楕円形に見える頭部に真っ直ぐ長い尾部が連結した、一見正常に見える精子ですが、よく見ると頭の形が大小不同の精子奇形が目立ちます。また、頭部と尾部を連結する中片部には、未成熟性に伴う肥大傾向が認められます。

WHOのガイドラインでは、通常の顕微鏡で観察した時に、正常形態率の正常値は4%に設定していますので、「奇形精子症」は、精子奇形率(全体における奇形精子の比率)が96%以上の場合をいいます。健常な男子でも正常な精子の割合は20%以下とされていますので、実際のところ「いかに形態が正常な精子が少ないのか」ということです。

奇形精子症の原因

一般的に精子奇形になる原因として、精索静脈瘤や抗がん剤等の造精機能(精子形成)に影響を与える要因、また過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲等の身近な問題が指摘されています。つまり、精子が正常に形成されたけれども、その後の環境因子(後天性因子)により変性する(形が崩れて異常な形になる)といった認識がされています。この場合は、通常の顕微鏡で観察した際の形態の変化は少ない傾向にあります。

一方で、不妊治療の現場において問題になるケースの大半は、通常の顕微鏡で明らかに異常とわかるような重度な異常形態をした奇形精子になります。このような重篤な奇形精子の原因は、生まれつき(先天性因子)の遺伝子の異常(先天異常)による精子形成障害です。

 

重度な奇形精子: 一見、楕円形に見える頭部ですが、よく見ると頭の形が大小不同であることがわかります。また大半の尾部は、明らかに欠損、短縮しており、尾部の形成に重度な異常が認められます。同時に、中片部の未成熟性が強く、重度に肥大しています。

奇形精子の原因となる先天異常(遺伝子の異常による精子形成障害)の様式としては、①受精段階における遺伝子の異常と、②初期発生段階におけるモザイクによる異常があります。
前者の場合は、左右の精巣を合わせて22-26本全ての精細管が機能不全(精子形成の停止、異常精子の産生)に陥ってしまいますが、後者の場合は、例えば 1-2本の精細管が正常であれば、少量ですが正常の形をした精子が産生されます。

奇形精子症の危険性について

ここで、あまり知られていませんが、生殖補助医療において最も危険な点を指摘したいと思います。楕円頭部の運動精子、すなわち一見 精子の形が正常で「奇形精子ではない」と認識できる運動精子の中に、通常の顕微鏡では検知できない異常、「隠れ造精機能障害=隠れ精子形成障害=隠れ精子異常」が潜んでいるケースも多く、この隠れ精子異常の背景においても、遺伝子の問題(先天異常)が関与しているという点です。
つまり、明らかな奇形精子であれば、いくら顕微授精を繰り返しても結果に繋がらないことはご理解いただけることと思いますが、奇形精子ではない、一見 正常な形をした精子でも目に見えない異常(隠れ精子異常)が潜んでいる場合もあり、しかも先天異常ですので、いくら治療を反復しても結果に繋がる可能性が低いということです。その見極めが妊孕性(妊娠できる可能性)を論じるには不可欠になります。

奇形精子症の診断方法

奇形精子症の診断方法は、顕微鏡にて以下3つを確認します。

・頭部
・尾部
・頭部と尻部の間を連結している中片部

(1)頭部の形態は、外周形状が楕円形(頭の形が楕円形)であれば正常とされていますが、実際には、金平糖のような形をしたものや細長いもの、大小不同なもの等、多様な頭部形態異常の奇形精子も多く、むしろ頭部形態正常の精子の方が少ないというのが事実なのです。
(2)尾部に関しては、真っ直ぐ長い尾部をしているものが正常とされています。しかし、精子が造られる過程で不完全な状態で尾部の形成が停止してしまった欠損・短縮尾部のものや、ヘラ状の太いもの、またコイル状になっているもの等、頭部形態の異常と同様に、様々な尾部形態異常の奇形精子も多くみられます。
(3)正常な中片部は細く、頭部と尾部の連結間はスムーズですが、未成熟な中片部はエリマキトカゲの様に太く、肥大傾向を認めます。

上述したように、通常の顕微鏡で観察した時に、一見、オタマジャクシのような正常な形をした精子にみえても、よく観察してみると、正常な形をしていない「奇形精子」がたくさん確認できます。

WHOのガイドラインでは、通常の顕微鏡で観察した時に、正常形態率の正常値を4%に設定していますので、「奇形精子症」は、精子奇形率(全体における奇形精子の比率)が96%以上の場合をいいます。健常な男子でも正常な精子の割合は20%以下とされていますので、実際のところ「いかに形態が正常な精子が少ないのか」ということです。

奇形精子症の治療方法

精子奇形になる原因が、精索静脈瘤や抗がん剤等の造精機能(精子形成)に影響を与える要因、また過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲等の場合、つまり、精子が正常に形成されたけれども、その後の環境因子(後天性因子)により変性して奇形精子になる場合は、基礎疾患の治療を試みたり、それぞれの原因を取り除くことによって、精子の形態が回復して精子奇形率の改善を期待できます。

一方で、不妊治療の現場において問題になるケースの大半は、通常の顕微鏡で明らかに異常とわかるような重度な異常形態をした奇形精子になります。このような重篤な奇形精子の原因は、生まれつき(先天性因子)の遺伝子の異常(先天異常)による精子形成障害ですので、治療が困難になるケースが多いというのが現実です。最近の研究結果を踏まえると、頭部の形態が異常(頭部外周形状の異常や頭部の中に潜む空胞の残留等)になる原因として、精子形成過程における最終段階のプロタミン架橋の不備である可能性が強く疑われています。

前述しましたが、奇形精子の原因となる先天異常(遺伝子の異常による精子形成障害)の様式としては、①受精段階における遺伝子異常と、②初期発生段階におけるモザイクによる異常があります。前者の場合は、左右の精巣を合わせて22-26本全ての精細管が機能不全となり、精子形成の停止や異常精子の産生に陥りますので、改善する方法はなく、本人の精子を用いた不妊治療は不可能になってしまいます。

一方で、後者の場合は、例えば正常な精細管が1-2本でも残っていれば、異常精子群に正常精子が少量混在することになりますので、高精度な精子選別技術を用いて正常な精子を分離(奇形精子を排除)することができれば治療の対象になります。しかし、この場合も、遺伝子に問題があることが精子奇形を誘導しているため、薬やサプリメントによる改善は期待できず、不妊治療が難航する傾向にあります。

生活習慣で改善できること

精子奇形になる原因の内、過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲等の後天性環境因子が原因になっている場合には、過労ストレスを軽減させるためにも、なるべく睡眠時間を確保できるようにして、またバランスのとれた食事や適度な運動を取り入れることは大事です。それぞれの原因を取り除くことによって、精子の形態が改善する可能性もあります。
しかし実際のところ、不妊治療の現場において問題になるケースの大半は、先天性の遺伝子異常(先天異常)が原因で精子の形態異常が重篤になっている奇形精子症ですので、治療が困難になるケースが多く、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません。
精子奇形のみならず、精子異常の原因になる遺伝子異常は、『新生突然変異』といわれます。この場合、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起き、しかも、その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので、大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。

食生活

活性酸素を減らそうと、サプリメントを飲んでいる人も多いかと思いますが、活性酸素には4種類あり、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質で全ての活性酸素に対応できるものはありません。ですから、特定の活性酸素に対応する抗酸化物質を高濃度に含むサプリメントを飲むより、様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)やお茶、大豆などをバランス良く取る方が効果的です。
日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、バランスよく、多くの品目を摂取するように心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

運動

過度な運動をすると、活性酸素が増え過ぎた状態(酸化ストレス)になり、細胞のDNAや細胞膜、動脈の内膜等を傷つけることがあり、その結果、老化やがん、心臓の病気に繋がる可能性が生じます。しかし、私たちの体の細胞には、活性酸素で傷ついた細胞を修復したり、排除してくれる仕組みがありますので、何事も過度にならない限りは心配しないで大丈夫です。
日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、適度な運動を心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

サプリメント

医薬品は「病気の診断、治療、予防に使用することを目的とした薬品」と法律で定められていますが、サプリメントは医薬品以外をいい、あくまでも「補充」を意味し、「食品」と定義されています。
外来で話している患者夫婦の大半は、「医薬品には専門家に管理してもらわないと危険なイメージがありますが、サプリメントは自然のものだから自分で管理できて安心です」といいます。確かに医薬品には必ず副作用がありますし、よく効く薬ほど副作用も強く、使い方を間違えると大変危険ですので、専門家による管理が必要です。一方で、サプリメントは食品ですから、自身の判断で食べてもさほど危険がありませんが、逆に言えば、あまり効果を期待できないということです。

① 亜鉛は精子を増やすの?

亜鉛は、鉄の次に体内に多い必須微量元素で、細胞の増殖に不可欠です。前立腺液の中の亜鉛濃度は、血清(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分)の300倍以上で、精巣では盛んに精子が形成(細胞増殖)されています。そのような点から、亜鉛を摂取することにより精子が増える?といった発想が定着しています。
不妊治療施設で「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取していますが、あまり知られていない注意点があります。それは、亜鉛の過剰摂取が、銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招くという点ですので、長期摂取はお勧めできません。
通常の食事をしていれば、1日10ミリグラム程度は摂取していますので、亜鉛の欠乏や、逆に亜鉛の過剰摂取を心配する必要はありません。亜鉛をはじめとする必須微量元素は、少しの過剰摂取でも中毒に結びつく危険性がありますので、多くの品目を食す(偏食を避ける)という食事習慣が、一番安全かつ簡単な摂取法になります。

②アルギニンは精子を増やすの?

亜鉛サプリメント同様に、「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、精子サプリとして注目されているアルギニンを取られています。精子のDNAを構成するタンパク質のプロタミン内におけるアルギニンの占める割合が高いという点から、アルギニンを摂取することにより精子が増える?といった発想になったのでしょうか。
しかし、アルギニンは、非必須アミノ酸に分類され、体内で造ることができます。つまり、アルギニンは、通常の食生活をしていれば体内で過不足なく造られますので、サプリメントとして摂取する必要がありません。アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。

③ コエンザイムQ10は精子を増やすの?

細胞内小器官のミトコンドリアは、ブドウ糖を水と炭酸ガスに分解してエネルギーを作りますが、その最終工程で活性酸素を必要とします。精子サプリとして注目されているコエンザイムQ10ですが、活性酸素と水素から水を造る反応を助けます。
コエンザイムQ10が加齢とともに減少することから、アンチエイジングサプリメントや、抗酸化作用に着目した造精機能(精子形成)改善サプリメントとして利用されていますが、加齢により減るのは、必要とするエネルギー基礎代謝が減るからです。
コエンザイムQ10は、もともと体内で必要とされるエネルギーに合わせて生成、分解できる物質ですので、積極的に摂取する必要もないというのが真実です。コエンザイムQ10をたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。

結論、サプリメントで「精子は増えません!」

「精子の状態が悪い」といわれた妊娠したい夫婦が、「これを飲めば精子が増える」という情報に心を動かされる気持ちはわかります。
しかし、繰り返しお話してきましたが残念ながら、精子異常の背景には遺伝子の問題(先天異常)が関与しているケースが殆どですので、サプリメントでどうにかなる問題ではありません。

インターネット情報は、「できること」を強調しがちです。「できないこと」もたくさんあることを知ってください。

ブリーフよりトランクス?

一般的に造精機能を維持するためには、精巣上体を含め、精巣の周囲が体温より低いことが必須であることから、ぴったりとしたブリーフで体温を高めることが良くないという考え方が定着し、「精巣にはブリーフよりも通気性の高いトランクスがいい」という話は良く出てきます。熱を貯めないというイメージではブリーフよりトランクスの方が良いように感じますが、ぴったりのブリーフ着用の方が、みなさん不妊だという話は聞いたことがありません。

ノートパソコンが精巣に悪影響?

また、日々の診療の中で、ノートパソコンを膝において作業することにより、精巣の周囲に熱が貯まり、造精機能に障害を与えるのではないか?という質問も多いですが、最近のノートパソコンは省電力であり、発熱は最小限に抑えられています。パソコン自体の熱の影響よりも、同じ姿勢で長時間のパソコン作業をすることによる下半身の血行不良が生じる可能性があり、この血行不良が精子を造る精巣に悪影響を及ぼすのかもしれません。あまり長時間にならないように気をつけて作業すれば、さほど神経質になる必要はありません。

生活改善をしてもNGな場合も

ここで、繰り返しになりますが、不妊治療の現場において問題になるケースの大半は、先天性の遺伝子異常(先天異常)が原因で精子の形態異常が重篤になっている奇形精子症ですので、治療が困難になるケースが多く、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません。

また一方で、楕円頭部の運動精子、すなわち一見 精子の形が正常で「奇形精子ではない」と認識できる運動精子の中に、通常の顕微鏡では検知できない異常、「隠れ造精機能障害=隠れ精子形成障害=隠れ精子異常」が潜んでいるケースも多いのも事実です。この隠れ精子異常の背景においても、遺伝子の問題(先天異常)が関与していますので、このような場合も、食生活を改善するとか、適度な運動をするとか、そのような身近な環境を整えても残念ながら効果を期待できないということです。

このように精子の問題には遺伝子異常が関与している場合が殆どです。前述しましたが、精子奇形のみならず、精子異常の原因になる遺伝子異常は、『新生突然変異』といわれ、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起きます。その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので、大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。

まとめ

奇形精子症と判断された方へのメッセージですが、精子の質を調べる精密検査をなるべく早い時点でやりましょう。その結果により、方向性が見えてきます。
詳細は、精子機能検査の項目を参照ください。

監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
日経woman

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