「精子の老化」の原因は ?「精子の妊孕性」は予測可能なのか?

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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今では男性不妊に関する情報も増えてきましたので「精子の問題」も以前より身近になってきましたが、「不妊は女性の問題」「女性の年齢が上がると妊娠し難くなるから、若いうちに産まなくては!」と言われてきた時代も長く続きました。そのような背景がありますので、どうしても「卵子の老化」ばかりが注目され、話題になりました。

世間一般では35歳以上になると卵子の老化が急激に進むと語られ、これを卵子の老化」と言っていますが、学術的には 年齢と共に卵巣組織単位重量あたりの原始卵胞(将来成熟した卵子に成長する可能性を備えた未成熟な卵子を一つ入れている袋)の数が急速に減ることを言います。簡単に言えば「加齢に伴う卵子の質の低下」を意味します。

卵子の質的な低下には個人差がありますので「35歳以上になると・・・」というのは、あくまでも「一つの平均値にすぎない」という程度の目安に留めてほしいです。重要ポイント、35歳以上という平均値ではなく「自身の卵子の質が、年齢に比して良いのか悪いのか?」ということ、つまり「個人における卵子品質の位置づけ」を見極めることが重要なのです。

精子の老化について、精子の妊孕性は予測可能か
目次

近年、やっと着目されてきた「精子」

近年着目されてきた精子

「卵子」に比べて全く注目されていなかった「精子」でしたが、最近になり やっと関心が持たれるようになってきました。なぜならば、精子研究の進歩に伴って、不妊になる約半数は男性側の「精子に何かしらの問題」がある「精子異常」のケースであり、男性不妊が意外と多いことが認知されるようになったからです。

世間一般では卵子の老化と同様に、加齢と共に「精子の老化」が進み、「精子の質が下がる」といったイメージで語られています。日本生殖医学会においても、精子は加齢に伴い老化する傾向があるという報告もあります。しかし一方で、精子の質の低下に加齢の影響は低いとする報告もあり、加齢による精子の質の低下に関しては統一された見解がありません。

以下に詳しく解説していますが、正直なところ、精子の老化、精子の質的な低下の主たる原因は「先天性の遺伝子の問題」にありますので、加齢に直結するわけではありません。つまり、解りやすく言えば、若い男性でも精子の状態が極めて悪い方がいらっしゃる一方で、高齢男性でも精子の状態が極めて良好な方もいらっしゃるということです。

実は、精子の老化には「遺伝子の異常」が関与しているので厄介!

実は、大半の精子の質的な異常は『新生突然変異』という、父親から受け継いた遺伝子ではなく、突発的に発生した不運な遺伝子の突然変異(遺伝情報DNAのコピーミス)に起因して発症してきます。つまり、遺伝子異常が関与している場合が多いということで、加齢に伴って精子が老化するという単純な話ではないということです。

遺伝子の突然変異が複雑に関与した結果が、多様な精子の質的な異常として現れますので、言い換えれば、男性不妊の大半を占める精子異常が先天異常(先天性、生まれつき)ということです。結果として、男性不妊治療は難航する傾向があります。ここに男性不妊、精子の問題の難しさがあります(詳細は次に・・・)。

現在では、精子側の妊孕性を ある程度予測可能に!

治療現場では、男性不妊の大半を占める精子異常に関しては、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡で観察して「精子の産生量(精子数)が少ない」とか、「精子の運動率が低い」といった点ばかりが指摘されています。しかし、最も重要で最も怖い点は位相差顕微鏡では見えない(検知できない)精子の中に隠れ潜んだ異常(これを『隠れ精子異常という)が多様に認められるという点、またその背景には遺伝子異常が関与している場合が多く治療困難なケースもある一方で、生まれてくる子供に何かしらの影響を及ぼす可能性があり、精子の問題は深刻化する点にあります。

そこで、私たち精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページを参照ください)は、隠れ精子異常を正確に検知するため、分子生物学的な解析技術を確立しました。この高精度な精子検査法により、多様な隠れ機能異常を精密に調べられるようになりました。その結果、事前に(治療開始前に)精子妊孕性(妊娠させられる精子力)に関する科学的根拠に基づいた詳細情報を取得できるようになりましたので、精子側からの治療の見通しをある程度予測できるまでになりました。

まとめ

なかなか妊娠できない、不妊治療を続けていても全く成果に繋がらない場合には、検出できていない隠れ異常精子が原因かもしれません。精子機精密検査を受けてみましょう。新しい治療展開に繋がる可能性もあります。

黒田IMRは、精子側の関連技術に特化しています。その背景には、院長が現在に至るまでの約40年、ヒト精子の研究を専攻し、研究チームと共に、安全かつ有効な精子側の関連技術を開発してきたという裏付けがあります。とくに男性不妊の検査と治療に力を注いでいますので、ご心配の方は一度ご相談にいらしてください。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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