顕微授精のリスクとは?│事例や子供への影響について

2022.04.27
顕微授精のリスクとは?│事例や子供への影響について

顕微授精とは

そもそも生殖補助医療は、精子数が少ないのならば、「限られた精子で受精の可能性を高めるために」、また同時に、運動能が低いならば、「卵子に泳ぎ辿り着くまでのエネルギー消費を少しでも抑えるために」という考えから、精子をできるだけ卵子の近くに届けることを目指してきた技術です。その点では、精子1匹を卵子に注入して人工的に授精させることができる顕微授精という技術は、最も合理的な手法として生殖補助医療の主流になりました。

これまで顕微授精においては、「どのようにして精子を卵子に入れるか?」という、技術面に関しては詳細に論議してきましたが、「どのような精子を選ぶのか?」については「頭部が楕円をした元気に泳いでいる精子=良好精子」という漠然とした精子性善説のイメージで行われ、明確な基準がないままに進められてきました。そして、「運動精子を1匹でも確保できれば、顕微授精で妊娠・出産できます。顕微授精は安全です。多くの元気な赤ちゃんが誕生しています。顕微授精が精子の問題を解決しました」と語られてきています。実際、15人に1人は生殖補助医療で生まれており、その大半を顕微授精が占めていますので、顕微授精でたくさんの赤ちゃんが生まれていることは事実です。

しかし実は、ヒト精子の場合には性善説が成り立ちません。つまり、良好精子とされる運動精子の中にも、DNA損傷や頭部に空胞を認めるもの、さらに卵子に侵入する機能が障害されているもの等の多様な異常が隠れ潜んでいる精子(品質の悪い隠れ精子異常)が存在しますので、運動しているということだけでは、全ての精子の品質を保証できないということです。ですから、健康な命を誕生させるために安全な顕微授精を行うには、異常のない健康な精子を選別しなくてはならないという重任があります。

精子1匹を確保できれば人工的に授精させることができる顕微授精の利便性は高いですが、逆に言えば、顕微授精は、本来、受精しては困る異常な精子(もしくは、本来受精できない異常な精子)でも人の手を介して人工的に授精を可能にしてしまうという点では、とても怖い技術になります。同時に、顕微授精は、精子の異常を治す(精子の品質を補償する)ことができる技術ではありませんので、顕微授精に用いる精子の状態によっては、生まれてくる子どもの健康への影響が生じる可能性があります。つまり、『安全に命を誕生させるために、顕微授精は、精子の状態が悪い(精子の品質の悪い)方には不向きである』というのも事実です。

ここに顕微授精の落とし穴、リスクがあるということが、あまり知られていませんが、このコラムを通して是非、正確な知識を付けてください。この顕微授精の弱点を回避し得てはじめて精子側から健康な命を誕生させられるのです。

顕微授精のリスク│生まれてくる子供たちの影響

写真は、重度な造精機能障害の運動精子です。見た目だけでも精子の形が明らかに崩れていて、頭の形が楕円の精子は全くいません。重度の場合は、このような形態異常が進行するだけではなく、同時に、多様な精子の機能異常(精子の質的異常)も付帯して進行してきます。しかも、精子異常を起こす背景には、新生点突然変異という遺伝子異常が関与しています。その遺伝子異常の組み合わせは個人で複雑に異なりますので、精子異常の表れ方(種類や程度)には個人差が大きいのです。

重度な造精機能障害の運動精子

造精機能障において、単に造られる精子の数が減るだけ(つまり、多様な精子機能異常を付帯しない)ならば、「1匹でも精子がいれば、妊娠できる可能性をつくる」顕微授精という技術はとても合理的な方法です。しかし実際には、遺伝子異常による造精機能障害が殆どですから、遺伝子異常に対応できない(遺伝子異常を治せない)顕微授精は、本来、造精機能障害には不向きであり、安全面の視点からは適応外になるのです。つまり、顕微授精に用いる精子の状態によっては、生まれてくる子どもの健康への影響が生じる可能性がありますので、『安全に命を誕生させるために、顕微授精は、精子の状態が悪い(精子の品質の悪い)方には不向きである』ということです。

精子選定の明確な基準がないまま「楕円頭部の運動精子=良好精子」という漠然とした精子性善説のイメージで行っている、現行の顕微授精の安全性は保証されている訳ではないことを知ってください。

大半の不妊治療施設では、胚培養士が顕微授精を担当しています。胚培養士は、現場の分業化(効率化)に伴って登場しましたが、実は認定資格に基づき(国家資格ではなく)医療行為を行っている立場にあります。ですから、「どの精子を選んで顕微授精を行うべきか」を最終判断する胚培養士の責任は極めて重くなります。

医療側は、精子の状態がどこまで悪くなったら、不妊治療を断念するのか、治療限界について真摯に論議すべきではないでしょうか。勿論、「治療をやる、やめる」を最終的に決めるのは夫婦ですが、そのためにも治療者側、患者側の双方が、精子側の科学的根拠に基づいた正確な情報を共有することが極めて重要になります。

先天異常

顕微授精は生殖補助医療技術の約80%を占めるまで普及しましたので、結果として顕微授精でたくさんの赤ちゃんが生まれていることは事実です。しかし上述しましたが、顕微授精に用いる精子の状態によっては、生まれてくる子どもの健康への影響が生じる可能性があります。

これまでに欧米では、顕微授精で生まれた子どもに先天異常の発症率が自然に妊娠して生まれた子どもに比べて有意に高いことを述べた論文が多数報告されています(MJ. Davies, VM. Moore, KJ. Willson, et.al. Reproductive Technologies and the Risk of Birth Defects, The New England Journal of Medicine, 366: 1803-1813. 2012)。

2015年にはコロンビア大学教授のピーター・ベアマン氏らにより『American Journal of Public Health』という雑誌に「大規模な疫学調査の結果、顕微授精に代表される生殖補助医療で生まれた子どもは、自然妊娠で誕生した子どもに比べて自閉症スペクトラム障害(社会性、コミュニケーション、行動面の困難を伴う発達障害の総称)であるリスクが2倍である」というデータも報告されました。

その内容はアメリカ政府のアメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に所管され、海外では「顕微授精と自閉症スペクトラム障害の関係の間に因果関係がないとは言い切れない」という見解を出しています。

一方、日本でも、2011年には厚生労働省科学研究班の生殖補助医療出生児に関する調査において、顕微授精・胚盤胞培養・胚盤胞凍結保存の人工操作を加えるほど出生時体重が増加することが報告され、これはゲノムインプリンティング異常(遺伝子の働きを調整する仕組みに異常が出る病態)による胎児過剰発育である可能性が指摘されましたが、なぜか日本においては不妊治療従事者の間で「顕微授精は安全です。自然妊娠と同じ位のリスクしかありません。元気なお子さんが生まれています」と語られ続けています。

繰り返しになりますが、顕微授精による出生児の安全性に関しては未だ不明な点が多く、逆に言えば、顕微授精が自閉症スペクトラム障害を含む神経発達障害にどの程度の影響を与えているかについての因果関係については、現時点において明確に証明されている訳ではありません。実際、先天異常と顕微授精との間に因果関係がないということを科学的に証明することは極めて困難です。だからこそ、安全保証が明確に立証できていない現況にあるからこそ、因果関係があるという前提で危機管理をすべきではないでしょうか。

多胎妊娠

生殖補助医療において妊娠率を上げるために、胚移植の数を単一ではなく、複数個にする場合がありますが、その結果、多胎妊娠になる可能性が生じます。
多胎妊娠に伴うリスクとしては、単胎妊娠に比べて妊娠中に合併症が起こりやすいことが知られています。具体的に言えば、悪阻(重度なつわり)、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、子宮内胎児発育遅延、胎児形態異常、子宮内胎児死亡、血栓症などです。その合併症の中では、早産の頻度が高くなっています。その程度が、児の予後に大きく関わりますが、近年では新生児医療技術の発達により、早産で生まれた児の予後は改善されています。

みなさんには、多胎妊娠はハイリスクであるということを認識していただくこと、また多胎妊娠の場合には専門性の高い病院で妊娠経過を見守っていく必要があることをお伝えしたいと思います。

流産

前述しましたが、ヒト精子においては性善説が成立しませんので、一見 正常に見える精子の中にも、アポトーシスが誘発されたDNAが傷ついた異常精子が修復されないまま精液中に混在してきます。精子側のDNA損傷は、受精して卵子に侵入した後に卵子側のDNA修復機構に依存して修復されますが、体外の培養液中で どの程度修復されるかはわかりません。もしDNA損傷精子が未修復のままの状態 もしくは 不完全に修復された状態で顕微授精により卵子に注入されると、卵子側のアポトーシス情報伝達系が活性化されて胚DNA損傷を誘発する可能性があり、それは染色体異常に繋がります。その一部は流産により淘汰されますが、一部はそのまま発育して出産に至ります。

繰り返しになりますが、顕微授精は、精子DNA損傷の異常を治す(精子の品質を補償する)ことができる技術ではありません。また本来受精しては困る異常精子でも人工的に授精を可能にしてしまう技術でもありますので、顕微授精に用いる精子の状態によっては、生まれてくる子どもの健康への影響が生じる可能性があります。この顕微授精のリスクも知った上で、夫婦毎に安全かつ適切な治療を選択することが極めて重要です。

顕微授精が全く成功しなかった実例

【ケース1】妻30代後半。精子には問題なし。卵子の老化が不妊原因とされ、顕微授精を繰り返してきたが、全く成功せず。精子精密検査をしたら、重篤な精子異常が発覚、治療断念を視野に。

当院受診前に通っていたクリニックでは「精子数も運動率は良好で、男性不妊ではありませんので、不妊原因は卵子の問題です」「間もなく40歳、急がないと時間がありません。諦めずに頑張りましょう」と言われ、顕微授精を8回繰り返された夫婦のケース。前医では、受精率が極めて悪く、8回の顕微授精の内、1回しか胚移植に至りませんでしたが、不成功に終わりました(総治療費は諸雑費を含めて約500万円)。

当院で精子の精密検査を実施した結果、確かに精子数や運動率等の見た目には全く問題が認められず、現行の検査では「良好精子」といわれる基準を十分に満たしていましたが、運動精子のDNAの構造を解析したところ、約80%の精子DNAに傷(切断)がついていることが明らかになりました(精子DNA損傷率 約80%)。同時に、他の精子機能異常率も高く、多重精子異常のタイプであることがわかり、その背景には遺伝子異常があることが裏付けられました。この総合的な結果を踏まえ、この夫婦には「治療断念」という見解をお伝えせざるを得ませんでした。

その直後、妻の怒りが爆発しました。今まで「高い治療費がかかる」「精子採取が精神的な苦痛だ」「君が歳を取っているから妊娠しないんだ」と夫から罵倒され、屈辱に耐えてきた苦しみを話し出しました。

よく夫婦で話し合うようにいい、帰宅していただきましたが、その後、奥様から「不妊治療を通して、夫との性格の不一致を認識せざるを得ないという結論に至り、離婚しました」と報告がありました。何とも心の痛むエピソードです。

 

【ケース2】妻40歳。精子の状態が悪いといわれ、顕微授精を繰り返してきたが、全く成功せず。精子精密検査をしたら、重篤な精子異常が発覚し、治療断念を視野に。妻は納得できず、以前の医師のもとへ戻る。

当院で精子の精密検査を実施した結果、乏精子症のみならず、ケース1と同様、遺伝子異常による重篤な多重精子異常のタイプであることがわかりました。精子精密検査の厳しい結果から、この夫婦には「治療断念」という見解をお伝えせざるを得ませんでした。夫は自分に原因があることを理解し、「やっと治療をやめられる」と安堵しました。一方で、妻は青天の霹靂で「ここまで治療をがんばったのに、今さら諦めるなんてできない」と言い残し、「妊娠するまで一緒にがんばりましょう」と言ってくれる前医のもとに戻り、引き続き顕微授精を繰り返しました。約2年後、再び当院を来院し、「やはり言われた通りでした」とおっしゃり、精子の再検査と治療を依頼されましたが、同じ厳しい結果を得て、治療断念を説得し、今度は納得されました。

 

【ケース3】20代後半の夫婦。原因不明の不妊症で、顕微授精を繰り返してきたが、全く成功せず。精子精密検査をしたら、重篤な精子異常が発覚。

当院受診前に2施設の不妊治療施設を受診しましたが、どちらでも「精子と卵子の状態は良好で、問題ありません」「原因不明の不妊症です」と診断され、計6回の顕微授精を行いました。受精率が極めて悪く、全く胚移植に至りませんでした。(総治療費は諸雑費を含めて300万円)。担当医からは「若いから、いつかは妊娠できますよ。気長にやりましょう」と言われていたとのことです。

当院で精子の精密検査を実施した結果、確かに精子数や運動率等の見た目には全く問題が認められず、現行の検査では「良好精子」といわれる基準を十分に満たしていました。しかし、運動精子のDNA損傷率が約90%と極めて高く、同時に、他の精子機能異常率も高く、多重精子異常のタイプであることがわかりました。異常率が高い頻度で、しかも複数の精子異常が見つかる場合には、背景に遺伝子異常が潜んでいる可能性があることを説明し、「治療は厳しく、治療限界を視野に入れて考えてください」と見解を伝えました。夫婦は結果を真摯に受け止めて、「これまで顕微授精をしてもうまくいかない理由が、よくわかりました」と冷静に返答くださいました。

しかし数日後、夫の両親が当院を来院されました。両親は感情的に「精子の悪い子を生んだ覚えはない」「どういうことか、説明してくれ」と強い口調でおっしゃいました。そこで、患者夫婦の同意を得た上で、科学的根拠に基づいた正確な精子情報を詳しく開示したところ、「厳しい現実を受け止めざるを得ないです」と涙を流されてお帰りになりました。

このケースは、夫婦の年齢が若く、現行の精子検査の評価法においては良好精子だっただけに、もし精子の精密検査をしないまま転院を繰り返していたら、ひたすら顕微授精が繰り返され、夫婦の心と体と治療費の負担が継続されたのではないでしょうか。

顕微授精に向いていない方

上述しましたが、顕微鏡で観察した際に、精子数や運動率、精子の形態等、見た目には全く問題が認められず、現行の検査では「良好精子」といわれる基準を十分に満たしていても、見かけだけでは見極められない、多様な精子機能異常(DNA損傷をはじめとする精子の質的異常)が隠れ潜んでいます。以下に隠れ異常精子の写真を紹介します。

隠れ異常精子①:写真は同一精子ですが、頭部形態良好で先体も正常である運動精子(左)にも、見えないところに空胞が隠れている(右)のがわかります。

隠れ異常精子②:写真は同一精子ですが、頭部形態良好で空胞率も低い運動精子(右)にも、先体欠損が隠れている(左)のがわかります。

隠れ異常精子③:頭部形態良好な運動精子にもDNA損傷(右)が隠れています(詳細は精子精密検査の項目を参照ください)。

NDA断片化精子

一方で、顕微授精は、単に精子の数が少ないという精子の量(精子数)的不足を補う技術であり、DNA損傷をはじめとする精子の質的異常(機能異常)をカバーすることはできないこと、また、その精子異常の背景には遺伝子異常が関与している可能性が高いことを解説してきました。つまり、言い換えれば、『精子の質を上げることができない顕微授精は、精子の状態が悪い(精子の品質の悪い)方には最も不向きな治療になる』ということです。

だからこそ、健康な命を誕生させることを目的とした、安全な顕微授精を実現させるためには、精子数や運動率だけではなく、見かけだけでは見極められない、隠れたところに潜んでいる多様な精子機能異常を正確に把握(精子品質管理)することこそが極めて重要であり必要であることを、これまで繰り返しお話してきました。もう少しわかり易くお話します。

多くの不妊治療施設では「精液の状態が悪いから、顕微授精しかありません」「精子は1匹でもいれば妊娠できます」と語られています。しかし、本来、精子側から安全な顕微授精を実施するためには、実施する前に精子機能の精密検査を行った結果、精子が質的に良好である(精子機能が正常で、品質に問題がない)、すなわち卵子に穿刺注入できる安全なレベルの精子であることを確認することが必須であり、品質管理し得た精子だからこそ安全な顕微授精の実施が可能になるのです。この点が、顕微授精実施の前提となりますが、世間一般にこれらの前提が普及していない現況にありますので、実は顕微授精の実施はより慎重であるべきなのです。

例えば、見た目がよくても精子機能が異常である運動精子を用いて顕微授精を行った結果、妊娠・出産できたとしても、生まれてくる子どもへのリスクに繋がる可能性は否定できません。精子機能を軽視した現状の顕微授精は安全であると言い切ることはできません。この点を解決しなければ男性不妊の問題は解決しません。

顕微授精に向いている方

顕微授精の見落とされている問題点について繰り返して解説したいと思います。顕微授精は、あくまで精子の数の不足を補う技術であり、精子の質(機能)の異常を治せる技術ではないという点を誤解してはいけません。

つまり、言い換えれば、『精子の質を上げることができない顕微授精は、精子の状態が悪い(精子の品質が悪い)方には最も不向きな治療になる』訳ですが、なぜか、患者夫婦の多くは、担当医師から「精液の状態が悪いから、顕微授精しかありません」「精子は1匹でもいれば妊娠できます」と説明されています。

この説明内容を正確に言い直すならば、精子側から安全な顕微授精を実施するためには、「精液の段階では状態が悪い(見た目の精子の数が少ない・動きが悪い等)ですが、精子を選別する技術努力をした上で、多項目の精密検査を行った結果、精子の品質が良好(DNA損傷率が低い・他の精子機能の異常率も低い等)であることを確認できました。しかし、得られた精子が極めて少ないため、顕微授精の治療を選択します」という説明になります。

生殖補助医療においては、顕微授精のみならず、リスクマネージメントの観点から、精子DNA損傷をはじめとする多様な機能異常精子を積極的に排除する技術が必須なのです。それにもかかわらず、その精子側の技術努力が極めて乏しく、精子機能を軽視した現状の顕微授精は安全であると言い切ることはできません。

顕微授精のリスク減少の取り組みについて

私たち精子研究チームは、長年にわたり、臨床の現場に役立てることができる「ヒト精子」の基礎研究を重ねて参りました。その中で、精子の選別技術の高度化に成功し、高精度な精子検査(精子精密検査)の確立に繋がりました。その両者の技術を駆使することにより、必要な精子数を極限まで節約できる新しい体外受精法(人工卵管法という)の開発にも至りました。人工卵管法により、精子の品質管理という面でリスクが残る可能性がある、現行の顕微授精を回避できるようになりました。

精子を卵子に注入する顕微授精が急速に普及した理由の一つには、体外受精で卵子にたくさんの精子をふりかけても、「受精しなかったらどうしよう」という不安が消えない一面があります。そこで、治療の前に精子の状態を精密に調べて、頭部に卵子に侵入するために必要な酵素が入った袋(先体)が正常か、さらに卵子への侵入準備ができているか(先体機能が正常)等、精子の機能に関する正確な情報を事前に把握できていれば、体外受精に伴う不安はかなり解消されます。

人工卵管法では、非常に狭い空間内での体外受精になりますので、従来の体外受精の100分の1以下という極めて少ない精子でも受精が可能になりました(従来の体外受精では、卵子が入った約1mlの培養液に運動精子を約10万匹加えます)。

世間一般に、高度な精子選別や精子精密検査の技術、さらには人工卵管法の技術等が普及していない現況にありますので、残念ながら、現行の顕微授精の実施においては、より慎重になるべき意識を持っていただきたいと思います。

まとめ

顕微授精を実施する前に、精子の質を調べる精密検査をなるべく早い時点でやりましょう。その結果により、方向性が見えてきます。
詳細は、精子機能検査の項目を参照ください。
精密検査で精子の機能をしっかり調べて、精子が質的に良好である(精子機能が正常で、品質に問題がない)、すなわち顕微授精に用いることができる安全なレベルの精子であることを確認することが必須であり、顕微授精実施の前提となります。

世間一般にこれらの前提が普及していない現況にありますので、顕微授精の実施は、より慎重になるべきではないでしょうか。

監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
日経woman

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