公開日:2022.06.07 
更新日:2024.01.30

精子の役割とは?妊娠や出生児にも影響する精子DNAの重要性について解説

監修者 | 黒田 優佳子
男性不妊治療の専門である黒田IMRの院長

精子学の研究者であり医師である視点から、
不妊治療における誤解やリスクを解説

精子の役割とは?妊娠や出生児にも影響する精子DNAの重要性について解説

そもそも精子はどのように出来ているのか?

精子は、頭部と尾部(しっぽ)とその両者を連結している中片部(首にあたる部分)で構成されています。ヒト精子の形態は「オタマジャクシの形」をしていますが、精子になる元の細胞は、通常の細胞と同じ「円形」をしています(下図参照)。元になる細胞は思春期を迎えると精巣内で細胞分裂を開始して精子を造り始めます。造られた精子は未成熟の状態にありますが、精巣上体(精巣の横にある臓器)に移動して成熟を進めていきます。そして、およそ74日を要してオタマジャクシの形の精子が造られます。

精子を造り出す造精機能が正常な男性は、毎回 数億匹もの精子を射精しますので、おそらく生涯で1兆匹以上になります。精子は卵子のように途中まで造っておいて備蓄するということはできませんので、精子になる元の細胞からその都度 精子を造らなくてはならず、どうしても質より量になります。

精子発生の仕組み

精子の役割とは?

オタマジャクシの形をした精子は、頭部と尾部と中片部で構成されているとお話しましたが、それぞれ重要な役割を持っています。

頭部には、遺伝情報を担う「DNA」と受精する際に重要な機能を果たす「先体」が収納されています。精子DNAは、出生児の半分の遺伝情報を担います(残りの半分の遺伝情報は卵子DNAが担います)。また先体は、精子頭部の前半部を覆う袋状の小器官で、その中には卵子に侵入する際に必要な加水分解酵素が入っております。この酵素が卵子と接着するときに放出されることにより、精子が卵子に侵入できるようになります。すなわち、精子頭部には極めて重要な役割がありますので、頭部の構造や機能に関する解析は、精子の質的な評価には必要不可欠になります。

尾部は単純に精子が泳ぐために必要な足となっていますが、精子頭部と尾部をつなぐ中片部には、エネルギー(ATP、詳細は省きます)を産出するミトコンドリアという小器官が存在し、主に精子運動との関連が指摘されています。また一方で、この中片部には胚分割に重要な役割を果たす中心体と呼ばれる小器官も存在することから、卵子分割に関与する可能性も否定できません。ですから、精子の質的な評価に中片部の解析も欠かせません。

妊娠や出生児にも影響する精子DNAの重要性について

精子頭部に遺伝情報を担うDNAが収納されているとお話しましたが、実は正常の造精機能を備える男性でも、様々な原因によって精子DNAが損傷され、その傷ついたDNAが修復されないままDNA損傷精子として残存しています。つまり、良好精子の指標とされている運動精子の中にDNA損傷精子が混在するというわけです。

DNAがひどく傷ついた精子は受精しませんし、たとえ受精しても発生は進みませんので、胚の発生停止や流産(自然淘汰)により、命の誕生にまで至りません。一方で、わずかな精子DNAの傷ならば、受精する機能に問題がなければ受精して発生が進んでしまう可能性があります。運が良ければ、受精した後に卵子側のDNA修復機構が精子のDNAの傷を修復してくれます。しかし、その修復が未修復もしくは不完全に終わってしまった場合には、胚DNA損傷、染色体異常に繋がります。そのほとんどは流産により淘汰されますが、一部はそのまま発育して出産に至り、出生児の健康に影響を及ぼすリスクが残ります。

ここで着目すべき点は、精子DNA損傷の有無のみならず、精子の質の善し悪しは、妊娠率にも影響しますが、生まれてくる子供の健常性に影響を及ぼすリスクがある点です。ですから、精子側から安全な不妊治療をするためには、精子の品質管理をすることは極めて重要になります。

なぜ、顕微授精は危ないの?男性不妊に特化した当院ならでは治療方針

まとめ

精子の質を上げたい方は、「精子が生成されるサイクルとは?健康的な精子の生成で気を付けること」のコラムを参照ください。

精子が生成されるサイクルとは?健康的な精子の生成で気を付けること

また精子の質を調べる精密検査を受けたい方は、「精液検査の採取手順とは?持ち込みの場合に気を付ける事も解説」のコラム内の「新しい精液検査│これまで見逃されてきた、隠れた精子異常を見極める」という項目を参照ください。

精液検査の採取手順とは?持ち込みの場合に気を付ける事も解説:新しい精液検査│これまで見逃されてきた、隠れた精子異常を見極める

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監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
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