不妊治療に向けて実施される男性側の検査は、主に精液検査(精子検査)になります。世界保健機構 WHOの診断基準に基づいた一般精液検査では、普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で観察して「精子数」「運動率」「形態」等をカウントし、基準値に達していなければ「男性不妊」という診断が下されます。
現状では、大半の男性不妊治療では顕微授精に展開されます。顕微授精においては1匹でも精子がいれば、人の手を介して人工的に授精させることが可能になります。つまり、顕微授精という技術は、受精に必要な精子が1匹で良いこと、また人工的に受精率を上げられること等の利便性を備えていますので、適応範囲が広がり、生殖補助医療の主流になっています。
しかし、一般精液検査では検知することができない、要するに「見逃している!精子に隠された問題」があります。その問題を克服できない顕微授精にはリスクを伴います。
この重要な点を解りやすく解説します。是非とも読んでいただき、上手な妊活にお役立てください。
目次
一般精液検査では、精子の質を正確に診断できない!
WHOの診断基準に基づいた一般精液検査では、位相差顕微鏡を用いて「精子数」「運動率」「精子形態」といった外見的要素を観察します。つまり、顕微鏡で見た目だけで精子の良し悪しを大まかに観察しているにすぎません。
結論から申し上げれば、この一般精液検査では、健康な命に繋がる精子側の実力「精子妊孕性=精子の質」を正確に判定することはできません。皆さんは「WHOの診断基準なのに・・・どうして?」と思われることでしょう。これから詳しく解説していきます。
運動精子の中には、受精できない!受精させると危険!な精子が混在
治療現場では「元気に泳いでいる精子=良好精子」という認識にありますので、運動精子が治療に用いられています。しかし実は、一般精液検査で「正常であると判定された運動精子」であっても、位相差顕微鏡で見えない「機能異常」が隠れ潜んでいる場合があります。つまり、一般精液検査では見つけることができない「精子の質的に異常がある運動精子」が存在するということです。
精子の質的な異常、機能異常の中で最も問題になるのは、精子DNAの損傷です。一般的なヒトの体を構成する細胞(体細胞)であれば、DNAが損傷してしまった場合には その傷ついたDNAを修復する機構(DNA修復機構)が備わっていますので、DNA修復能力によって回復させることが可能です。しかしヒト精子の場合は、精子形成過程でDNA修復能力を消失するという特殊な性質がありますので、傷ついたDNAが修復されないまま「DNA損傷精子」として残存してきます。
【重要ポイント】最も怖い点は、DNA損傷をはじめとした機能異常を有している運動精子が顕微授精で人工的に授精させられ、妊娠、出産に至った場合には、生まれてくる子供に何かしらの異常を発生させるリスクがある点です(詳細は後述)。
「運動精子が1匹いる!」だけで顕微授精を行うのは高リスク!
現行の顕微授精に用いる1匹の精子選定基準は「頭部形態(頭部外周形状)が楕円で泳いでいることが確認できた精子」という外見的な基準です。この「運動精子=良好精子」とする考え方の基軸には「精子の中に隠れ潜んだ異常を持つ精子は存在しないだろう?」という精子性善説があります。
しかし繰り返しになりますが、運動精子でも隠れたところに精子機能異常が混在し、人工的に授精させることにリスクを伴う場合は多々あります。つまり、ヒト精子においては性善説は成立しません。また不妊治療の対象になる男性不妊の方の精子には その傾向が強く見られますので、注意が必要です。
【重要ポイント】顕微授精という技術にDNA損傷をはじめとする多様な精子の質的(機能)異常を治すことができれば安全な命の誕生に繋げることができますが、残念ながら、顕微授精は単に「精子の数が少ない」という精子の量的(精子数)不足を補う技術であり、精子の質的異常を克服できる技術ではありません。だからこそ、事前に精子機能異常が「あるのか、ないのか」を正確に調べることができること、また機能異常を有する精子を積極的に「排除」できる技術があることが重要になります。
安全性の高い顕微授精を行うには・・・
「命を生み出す」生殖補助医療の実施においては、安全が何よりも優先されなくてはなりません。とくに人工的に授精をさせることを可能にしてしまう顕微授精の実施に際しては、事前の精子検査で「精子が質的に正常か」「精子機能異常が隠れていないのか」「穿刺できる安全なレベルの精子なのか」を正確に見極める必要があります。つまり、精子品質を安全管理して、安心して治療に用いることができる、安全な精子を選別できることが必要不可欠です。
正常な機能を有した高品質な精子を卵子に穿刺注入できる、安全性の高い顕微授精の実施は、以下の2つのケースに絞られます。
1.もともと高品質精子の比率が高いケース:たとえ精子の数が少なくても、もともと精液中の高品質精子比率が高いケースでは、顕微授精を行っても ある程度の安全性が確保できるでしょう。
2.高度な技術により、高品質精子を選別できるケース:精液中の高品質精子比率が低いケースでも、高品質精子を選別できる高度な技術を有しているならば、顕微授精の安全性は損なわれないでしょう。
とはいえ・・・
★ 機能異常のない、高品質精子に関する「知識」
★ 機能異常を正確に「調べる」ことができる高精度な「検査技術」
★ 機能異常精子を積極的に「排除」できる高度な「分離技術」
が普及していない現状です。
【注意ポイント】正直なところ、安全な顕微授精を実施できるために必要な「高品質精子の評価と選別」を実施できる施設が極めて少ないのが実情です。
黒田IMRの「精子の質を正確に調べられる」高精度な精子検査を紹介
黒田IMR 院長を含む精子研究チーム(詳細は、黒田IMRホームページを参照ください)が開発した分子生物学的な手法による高精度な精子検査では、一般精液検査で観察できない「精子の中に隠れた異常」を正確に検知できるようになりました。
事前に精子の質の良し悪しを正確に把握することにより、精子側から治療の安全性と有効性を向上させられます。結果として、成功への近道になります。治療を開始する前に精子精密検査をして、是非とも上手な妊活をしてください。
まとめ
顕微授精をかなりの回数繰り返していても全く成果に繋がらない!顕微授精反復不成功のご夫婦は、精子精密検査を受けて下さい。成果に繋がらない原因は、一般精液検査で見逃されてしまった「隠れた精子機能異常」かもしれません。
やみくもにリスクの高い顕微授精を繰り返すのではなく、まずは高品質精子の有無を調べて「顕微授精しても大丈夫な、安全な精子であるか否か」を見極めることをお勧めします。