公開日:2019.02.26 
更新日:2023.09.15

精子異常は治せるの?

監修者 | 黒田 優佳子
男性不妊治療の専門である黒田IMRの院長

精子学の研究者であり医師である視点から、
不妊治療における誤解やリスクを解説

精子異常は治せるの?

不妊の約半数は男性側に原因がある男性不妊ですが、その約90%を占めているのは「精子異常(精子形成障害)」です。精子異常は精子数の減少や運動率の低下といった通常の顕微鏡で観察して見た目だけでわかる場合もありますが、多くは通常の顕微鏡では見えない精子の中に潜んでいる「隠れ精子異常」として現れます。具体的に言えば、精子DNA損傷をはじめとする多様な機能異常であったり、精子の頭の中に隠れた構造の異常だったりします。

また精子異常の種類と程度、すなわち「どのような精子異常が隠れているのか?」「その精子異常が、どの程度重篤なのか?」には大きな個人差があり、一律同じ異常パターンではありません。ということは、精子異常を引き起こす原因は複雑であるということです。具体的に言えば、この精子異常の背景には「新生突然変異de novo mutation」という遺伝子の突然変異による異常が関与しています。

最近、「精子の老化に伴う質の低下」が話題となっていますが、精子の問題には生まれつきの遺伝子異常が関与している場合が多いため、卵子の老化のように加齢と共に進行するという単純な話ではありません。遺伝子異常を治すことはできませんので、実際には深刻な場合が多いのが男性不妊の現状です。

精子老化の原因とは精子の妊孕性は予測可能なのか?

先天的な精子異常の発生原因

精子の元となる細胞は始原生殖細胞といわれ、通常の細胞と同様な丸い形を呈しています。一方でご存知のよう、精子はオタマジャクシの形をしています。つまり、精子は形成される過程で細胞の形が劇的に変化して造られます。この点からも想像できますが、精子の形成には多くの遺伝子が関与しています。そのため、染色体上の遺伝子に様々な異常が突発的に発生(遺伝子が突然変異)し得るのです。

少し難しい話になりますが、特定の細胞(例えば、精子や卵子、赤血球)を除き、ヒトの正常な細胞核には23対(計46本)の染色体が入っています。その内訳ですが、22対(44本)の常染色体と1対(2本)の性染色体で構成され、通常それぞれの対を構成する染色体の片方は母親から、もう片方は父親から受け継ぎ、1対2本というようにペアーになっています。

染色体が1対2本でペアーになっていることにより、1本の染色体上のDNAに異常が起きても残りのもう1本の正常なDNAをコピーして修復することができるので、正常な遺伝情報が保たれる仕組みになっています。まさに常染色体の22対(44本)は、大きさ、形、遺伝子の位置と数が同一で、常染色体の対の1本1本には対応する各遺伝子が片方ずつあるため、これらの染色体上の遺伝子は各自のバックアップをもっていることになります。

一方で、23番目の性染色体1対は、受精した胚が女性になるか男性になるかを決定するXまたはY染色体になりますが、いくつかの点で、性染色体の機能は常染色体とは異なります。

女性になる胚はX染色体だけを2本ペアー(1本は母親、もう1本は父親由来)で持っているという一般的な構成になっています。X染色体は、Y染色体より多くの遺伝子で構成されていますので、形も大きく、女性である性を決定する以外の機能を持つ多くの遺伝子を含んでいます。一方で、男性になる胚はX染色体(母親由来)とY染色体(父親由来)を1本ずつ持つ形を取り、ペアーになっていません。その1本しかないY染色体はX染色体より小さく、男性であることを決定する遺伝子の他、少数の他の遺伝子で構成されています。この1本しかないY染色体がX染色体の働きを抑えて精子形成を司ることにより男性になります。つまり「精子形成を司るY染色体が1本しかない」という特殊な構成になっているため、1本のY染色体上のDNAに異常が起きた場合に対になっている残りのもう1本の正常なDNAをコピーして修復することができません。その結果として、修復できなかったDNAの異常が精子異常を発生させる根本的な原因になるケースが多いのです。

このDNA異常が常染色体とX染色体に起きた場合には流産の原因となることが多く、淘汰圧力(自然淘汰)がかかります。一方でY染色体に生じるDNA異常は非致死性(生命維持に無関係)ですので、遺伝子異常があっても流産(自然淘汰)とならず、妊娠・出産へとつながる可能性があります。結果として、淘汰をすり抜けたY染色体の異常は、成人してから精子異常という形で発覚するということです。

Y染色体上の遺伝子異常(新生突然変異という)を背景にもつ精子異常は、前述しましたが精子数の減少や運動率の低下という形で見られる場合もありますが、多くは精子の中に隠れた多様な機能異常や形態異常として現れます。またY染色体に生じた非致死性の遺伝子異常は一度発現すると、親から子へと垂直伝播します。

数千万年のヒト生殖の歴史の中では軽微なY染色体異常が累積し、精子の機能異常や形態異常が一層複雑化してきました。異常の累積の結果、重症となった場合は精巣で精子を造ること自体が停止してしまいます。

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男性不妊は治療困難なケースが多い

前述しましたが、精子異常の種類と程度には大きな個人差があり、一律同じ異常パターンではありません。つまり、精子異常の背景には多様な遺伝子異常の組み合わせ(遺伝子多型)があるということです。

この点を踏まえますと、「男性不妊はおそらく女性不妊の10倍ほどにものぼるのではないか」と推測することができます。また原因が明らかになることの方が極めて少ないことからも、治療困難なケースが多いのが真実です。

精子異常の種類と程度、すなわち「どのような精子異常が隠れているのか?」「その精子異常が、どの程度重篤なのか?」という点が生殖補助医療の成否に大きく影響しますが、現在一般的に行われている精子検査では見極めることはできません。ぜひ、治療を開始される前に黒田IMRの精子精密検査を試みてください。時間的にも経済的にも効率的です。

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監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
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