生殖医療の主流である顕微授精 生殖補助医療は、できるだけ卵子の近くに精子を届けることを目指してきた技術です。その根底には、精子の数が少ないのであれば「限られた精子で受精の可能性を高める」、精子の運動能力が低いならば「精子が卵子に泳ぎ着くまでの精子のエネルギー消費を少しでも抑える」といった考え方があります。
生殖補助医療の中でも顕微授精という技術は、1匹の精子を卵子に注入し人工的に授精させることができるという合理的な方法 です。「受精に必要な精子数が1匹でいいこと」、また「受精率を上げられること」等の利便性から、顕微授精が用いられる範囲が急速に広がり、今や生殖補助医療の授精法の約80%を占めています。
我が国の少子化問題が深刻化する中、現在、およそ14人に1人が生殖補助医療で誕生していますので、顕微授精によって たくさんの赤ちゃんが産まれているのも事実です。しかし、現行の顕微授精には『大きな問題』が残されています。→この現行の顕微授精抱える『大きな問題』詳しくは後述します。
顕微授精のこれまでこれまで顕微授精においては、「どのようにして」精子を卵子に入れるか?という技術面については、詳細に論議されてきました。一方で「どのような」精子を選ぶのか?という1匹の精子を選ぶ基準に関しては、学術的に検討されることなく、未だに「頭部が楕円形をした運動精子=良好精子」という漠然とした精子性善説のイメージ で行われています。つまり、明確な科学的な根拠に基づいた医療(EBM:Evidence-Based Medicine)がないままに精子を選定しています。実は、明確な根拠がないままに選定した精子、ここに『大きな問題、リスク』があります。→詳しくは後述します。
それにもかかわらず、現在でも多くの不妊治療施設において、「運動精子を1匹でも確保できれば、顕微授精で妊娠が可能です」「顕微授精は安全です」「多くの元気な赤ちゃんが誕生しています」「顕微授精が精子の問題を解決しました」等の精子に関する説明がなされています。
顕微授精の弱点・顕微授精の問題点前述しましたように、顕微授精に供する精子の選定は、「運動精子=良好精子」という、精子性善説に基づいて行われている現状ですが、そもそも、ヒトの精子には性善説が成り立ちません。 実は、見た目が「良好」と判断された運動精子の中にも、「DNAが損傷しているもの」や「頭部に空胞があるもの」「卵子に侵入する機能に障害があるもの」等、多様な機能異常が隠れ潜んでいます。つまり、『運動精子≠良好精子』ということです。このような精子の中に隠れた品質の悪い精子のことを、黒田IMRでは『隠れ精子異常』と呼んでいます。
健康な命を誕生させるための安全な顕微授精を実施するには、隠れ異常精子を避けて、異常のない品質の良い精子を選び出さなくてはなりません。しかし、性善説に基づいた精子選定による現行の顕微授精では、受精すると危険な隠れ異常精子を人工的に授精させてしまうリスクがあります。ここに大きな問題があります。この点が軽視されていることは、命を誕生させる『生殖医療において最も怖い点』です。
顕微授精は、単に「精子の数が少ない」という精子の量的な不足のみを補える技術であり、DNA損傷をはじめとする精子の質的な異常(精子機能)を克服できる技術ではありません。 そのため、精子の状態が悪ければ、当然ながら生まれてくる子供の健康にも悪い影響が生じる可能性があり、精子側のEBMに基づいた詳細情報がないままに実施する現行の顕微授精は、『重大なリスクにつながる弱点』を持ち合わせています。つまり、"顕微授精は、精子の状態(精子の品質)が悪い方には不向きな生殖補助医療技術"になります。
胚培養士の責任と生殖医療のあり方多くの不妊治療施設では、「胚培養士」が顕微授精の実施を担当しています。胚培養士は、生殖医療現場の分業化(効率化)に伴って登場した、認定資格に基づく職業です。医師や看護師のような国家資格を持った医療従事者ではありませんが、「どの精子を選ぶべきか」を最終的に判断した上で、顕微授精を実施して命を誕生させる医療行為に関わっていますので、胚培養士の責任は重大です。
本来ならば、私たち医師は、「精子の選定から顕微授精の実施に至るまで」一連の工程を胚培養士に任せきりにするのではなく、安全な命の誕生に向けて「精子の状態が、どこまで悪くなったら不妊治療を断念すべきなのか」という『治療限界』について真摯に論議すべき ではないでしょうか。もちろん、治療の継続・断念を最終的に決定するのは、治療を受けているご夫婦であることには変わりませんが、私は、生殖補助医療を行う医療従事者の一人として、精子側のEBMに基づいた詳細情報を患者側ご夫婦に提供できた上で、正しい治療法(安全で有効な不妊治療)を選択していただくことが極めて重要であると考えています。
精子の機能異常の有無と顕微授精の是非以下の写真は、重度な造精機能障害の運動精子の様子です。
重度な造精機能障害の運動精子
見た目だけでも精子の形が明らかに崩れ、頭の形が楕円形の精子は全くいないことがわかります。重度な造精機能障害(精子異常)の場合、形態異常だけでなく、併せて多様な隠れ異常(DNA損傷をはじめとする精子の機能異常)も進行しているケースが殆ど です。
精子の機能異常が起こる背景には「新生点突然変異」という遺伝子異常が関与しており、実際には遺伝子異常による造精機能障害(精子異常)が殆どです。遺伝子の組み合わせは人それぞれ複雑に異なりますので、精子異常の表れ方(種類や程度)も個人差が大きくなります。
前述していますが、顕微授精は、精子の数的不足のみを補える技術であり、背景に遺伝子異常をもつ精子の機能異常を克服できる技術ではありません。そのため、精子側から安全な顕微授精を実施するには、事前に精子機能の精密検査(→精子精密検査の項目を参照ください)を行い、「精子機能が正常で、隠れ異常がない精子なのか」、すなわち「卵子に穿刺注入できる安全なレベルの精子であるか」を確認する作業が不可欠になります。
精子の質に問題がない場合精子機能の精密検査の結果、単に造られる精子の数が減っていたり、動きが悪かったりするのみであり、多様な精子機能異常を付帯していない(精子機能が正常で、隠れ精子異常がない)ことが明らかであれば、「1匹でも精子がいれば、妊娠できる可能性を作る」 顕微授精という技術は合理的な方法と言えます。つまり、品質管理できた精子であれば、安全な顕微授精の実施が可能となります。
治療を受けるご夫婦に丁寧にお伝えするとすれば、「精液の段階では状態が悪かった(見た目の精子数が少ない・動きが悪い等)ですが、精子を選別する技術努力をした上で、多項目の精密検査を行った結果、精子の品質が良好(DNA損傷率が低い・他の精子機能の異常率も低い等)であることを確認できました。しかし、得られた精子が極めて少ないため、顕微授精の治療を選択します」という説明になるでしょう。
遺伝子異常による造精機能障害の場合どんなに見た目がよい運動精子でも、精子機能の精密検査の結果、DNA損傷をはじめとする多様な隠れ精子異常が明らかになり、その背景に遺伝子異常があることが裏付けられた場合には、安全性の観点から顕微授精は適応外 になります。繰り返しになりますが、『顕微授精は 精子の質を上げることができない技術』ですので、このようなケースで妊娠や出産が実現できたとしても、生まれてくる子供の健康被害に繋がる可能性を否定できません。つまり、遺伝子異常が関与する造精機能障害(精子異常)の場合、顕微授精はおすすめできません。特に、重度の場合は「治療断念」を視野に入れて検討する必要もあります。
写真で見る隠れ精子異常以下の左右2つの写真は、同一精子の写真です。一見、頭部形態が良好な運動精子ですが、精子の中に隠れた機能異常を持っている『隠れ異常精子』の写真です。見比べてください。
左写真では、頭部形態も楕円形で良好で、頭部内の先体も正常ですが、右写真を見ると、精子の中に空胞が隠れている異常精子(頭部空胞精子)である ことが分かります。
今度は、右写真では、空胞が少なく、頭部形態も良好ですが、左写真を見ると、先体が欠損している異常精子(先体欠損精子)である ことが分かります。
繰り返しになりますが、頭部形態が良好な運動精子の中にも、DNA損傷が隠れている異常精子もあります。左写真は、DNA損傷がなく、DNA鎖が切断されていません(DNA断片化陰性精子)。右写真は、DNA損傷があり、DNA鎖が切断されて粒子状になっています(DNA断片化陽性精子)。
顕微授精のリスク│生まれてくる子供たちへの影響次に、背景に遺伝子異常が関与する隠れ異常精子が顕微授精に用いられて人工的に授精し、妊娠、出産に至った場合に、産まれてくる子供たちに与える健康被害の可能性について解説します。今後の不妊治療の方針に関してお悩みのご夫婦は、「顕微授精には、以下のようなリスクがある」ことを知った上で、安全かつ適切な治療を選択する ことをおすすめします。
先天異常(自閉症スペクトラム障害を含む神経発達障害)顕微授精による出生児の安全性に関しては、未だ不明な点が多いのも事実です。欧米では「顕微授精で生まれた子供における先天異常の発症率が、自然妊娠で生まれた子供と比べて有意に高い」という内容の論文が、これまでにも多数報告されています(※)。また2015年には、コロンビア大学教授のピーター・ベアマン氏らによって、『American Journal of Public Health』という雑誌に「大規模な疫学調査の結果、顕微授精に代表される生殖補助医療で生まれた子供は、自然妊娠で誕生した子供に比べて自閉症スペクトラム障害であるリスクが2倍になる」というデータも報告されました。自閉症スペクトラム障害は、社会性やコミュニケーション、行動面での困難を伴う発達障害の総称です。
上記の内容はアメリカ政府のアメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に所管されており、『顕微授精と自閉症スペクトラム障害に因果関係がないとは言い切れない』という見解 を示しています。「顕微授精が自閉症スペクトラム障害を含む神経発達障害に、どの程度の影響を与えているか」について、現時点において科学的に証明されていませんが、国内でも2011年に、厚生労働省科学研究班の生殖補助医療出生児に関する調査にて、顕微授精・胚盤胞培養・胚盤胞凍結保存の人工操作を加えれば加えるほど、出生時体重が増加することが報告され、これには『ゲノムインプリンティング異常(遺伝子の働きを調整する仕組みに異常が出る病態)』が関与している可能性が指摘されました。
このような複数の疫学調査結果があるものの、なぜか日本においては不妊治療従事者の間で「顕微授精は安全です」「自然妊娠と同じ位のリスクしかありません」「元気なお子さんが生まれています」と語られ続けています。実際のところ、「先天異常と顕微授精には因果関係がない」ということを科学的に証明することは極めて困難です。この点を踏まえ、『顕微授精の安全性が明確に立証できていない』現況にあるからこそ、リスクを避けるには因果関係があるという前提で危機管理を行うべきなのではないでしょうか。
※ 出典:MJ. Davies, VM. Moore, KJ. Willson, et.al. Reproductive Technologies and the Risk of Birth Defects, The New England Journal of Medicine, 366: 1803-1813. 2012
多胎妊娠生殖補助医療で胚移植を行う際、妊娠率を上げるために移植する胚の数を単一ではなく、複数個にする場合があります。その結果、多胎妊娠(たたいにんしん)になる可能性が生じます。
多胎妊娠に伴うリスクには、単胎妊娠(たんたいにんしん)に比べて妊娠中の合併症が起こりやすい点 が挙げられます。具体的には、悪阻(重度なつわり)や早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、子宮内胎児発育遅延、胎児形態異常、子宮内胎児死亡、血栓症などです。
合併症が起きると早産の可能性が高まるのですが、その程度が、出生児の予後に大きく関わります。近年の新生児医療技術の発達により、一昔前よりは改善されているものの、リスクは高いです。多胎妊娠はハイリスクなため、専門性の高い病院で妊娠経過を見守っていく必要があるということを認識しておいてください。
流産精液中には、アポトーシスが誘発されてDNAが傷ついた異常精子が、修復されないまま混在しています。この異常精子が女性の体内で受精すると、卵子側のDNA修復機能に依存して精子側のDNA損傷が修復されますが、体外の培養液中で受精した場合は、どの程度修復されるかわかりません。顕微授精でDNAが損傷している精子を卵子に注入することで、卵子側のアポトーシス情報伝達系が活性化され、胚DNA損傷を誘発する可能性 もあります。これは、染色体異常に繋がり、一部は流産という形で淘汰されますが、そのまま発育して出産に至った場合は、染色体異常を持った子供が生まれることになります。
繰り返しになりますが、顕微授精は、DNA損傷等の精子異常を克服できる技術ではありませんので、顕微授精に用いる精子に隠れ異常がある場合には、生まれてくる子どもの健康に影響が生じる可能性があることを知っておきましょう。
顕微授精反復不成功の3つの実例ここで、黒田IMRにご相談にみえた、『顕微授精反復不成功』の3組のご夫婦のケースをご紹介します。
【ケース1】これまで責められ続けてきた妻の怒りが爆発妻の年齢は30代後半で、これまで、「精子には問題なく、男性不妊ではありません」。不妊原因は「卵子の老化です」と診断されたことから、顕微授精を繰り返してきたご夫婦のケースを紹介します。
ご夫婦は、「精子数も十分、運動率も良好、男性不妊ではありません」「不妊の原因は卵子にあります」「奥様は、間もなく40歳。急がなければ時間がありません」「諦めずに頑張りましょう」と言われ、顕微授精を8回試された治療歴がありました。8回の顕微授精を反復したものの、受精率が極めて悪く、胚移植に至ったのはわずか1回のみ。その1回の胚移植も不成功に終わりましたが、治療費は約500万円にも及んだそうです。
黒田IMRにて精子の精密検査を実施した結果、確かに精子数や運動率などの見た目には全く問題が認められず、通常の精子検査では「良好精子」と判断できる基準を十分に満たしていました。
ところが、運動精子のDNA構造を解析したところ、約80%の精子DNAに傷が付いている(DNA鎖が切断されている)ことが明らかになりました(精子DNA損傷率 約80%)。 同時に、他の精子機能異常率も高く、多重隠れ異常精子のタイプであることが判明しました。この結果(複数の隠れ精子異常が見つかり、しかも、それぞれの異常率が高い場合)から、その背景には遺伝子異常があることが裏付けられました。これらの結果を総合的に判断し、ご夫婦に「治療を断念する」という見解をお伝えせざるを得ませんでした。
ご説明したその直後、妻の夫に対する怒りが爆発します。これまで夫から「高い治療費がかかる」「精子採取が精神的に苦痛だ」「君が歳を取っているから妊娠しないんだ」と罵倒され、屈辱に耐えてきたそうで、その場で苦しみを吐露していらっしゃいました。よくご夫婦で話し合うようにお伝えしてお帰りいただきましたが、後日妻から連絡があり、「不妊治療を通して、夫との性格の不一致に気付かされました。これは、今後変わることのない事実だという結論に至り、離婚しました」というものでした。
何とも心の痛むエピソードです。
【ケース2】前医のもとに戻るも妊娠できず再来院2つ目のエピソードは、「男性不妊」と診断され、繰り返し顕微授精を試みたが、なかなか成果に繋がらない。それでも妊娠を諦められず、「希望ある言葉」をかけてくれるクリニックで顕微授精を反復してきたご夫婦のケースです。
ご夫婦は、「男性不妊です。顕微授精をしましょう」と言われ、ひたすら顕微授精を繰り返された治療歴がありました。成功に至らず、治療回数を重ねている内に、妻の年齢が40歳になり、黒田IMRに相談にみえました。
精子の精密検査を実施した結果、精子の数が少ない(乏精子症)だけでなく、遺伝子異常による重篤な多重異常精子のタイプであることが判明。 先述したケースと同様の厳しい結果だったため、「治療断念」の見解をお伝えしなければなりませんでした。
このケースでは、夫は自分に原因があることを理解し、「やっと治療を辞められる」と安堵なさっていました。一方で妻にとっては、この結果は青天の霹靂だったようです。最終的に「ここまで治療を頑張ってきたのに、今さら諦めるなんてできない」と言い残し、その時は、これまで通っていらっしゃった「希望ある言葉」をかけてくれるクリニックに戻る選択をなさいました。そこからおよそ2年に渡り「妊娠するまで一緒に頑張りましょう」と語る主治医のもとで、引き続き顕微授精を反復されたとのことです。
2年ぶりに再び黒田IMRへ来院された際は、「やはり言われた通りでした」とおっしゃっていました。精子機能解析の再検査と治療を依頼されましたが、結果は2年前と変わらぬ厳しいものでしたので、再び「治療を断念する」見解をお伝えしました。今度は納得され、長かった不妊治療の終決となりました。
【ケース3】夫の両親が登場・最終的に厳しい現実を認める3つ目のエピソードは、ご夫婦ともに20代で、特に不妊原因も明らかにならないまま、顕微授精を反復しても全く成功しなかったご夫婦のケースです。
ご夫婦は黒田IMRを受診する前に、2つの不妊治療施設を受診していました。どちらの施設でも「精子と卵子の状態は良好です。問題ありません」「原因不明の不妊症です」と診断され、6回に渡って顕微授精を繰り返されていましたが、受精率が極めて悪く、一度も胚移植になりませんでした。担当医師からは「若いから、いつかは妊娠できますよ。気長にやりましょう」と言われていたとのことですが、その時点で約300万円の治療費がかかっていたこともあり、夫婦の気持ちは「治療を中断する」方向で考え始め、黒田IMRにご相談に見えました。
黒田IMRで精子の精密検査を実施した結果、こちらも先述したケースと同様、精子の見た目には異常がなかったにもかかわらず、運動良好な精子の約90%にDNA損傷(DNA鎖切断) が認められました。同時に、他の精子機能異常率も高い、多重隠れ異常精子のタイプであり、その背景には遺伝子異常 があることが判明しました。そこで「治療は厳しいため、治療限界を視野に入れて考えてください」との見解をお伝えしたところ、ご夫婦は結果を真摯に受け止めて「これまで顕微授精をしても全くうまくいかなかった理由がよく分かりました」と、冷静に返答してくださいました。
ところが数日後のある日、夫のご両親が来院されました。強い口調で「精子の悪い子を生んだ覚えはない」「どういうことか説明してくれ」とおっしゃっており、抑えようのない辛い感情を抱いていることが伺えました。ご夫婦の同意を得た上で、EBMに基づいた正確な精子詳細情報をご両親に開示したところ、両親は「厳しい現実を受け止めざるを得ないです」とおっしゃり、涙を流しながらお帰りになりました。
このご夫婦のケースは、「成果を期待できない治療の長期化」に陥りやすい典型的なパターン です。ご夫婦の年齢が20代と若く、また一般的な精液検査・精子検査では「精子の状態は良好」と判定されてしまうため、ひたすら顕微授精を反復してしまうという「終わりのない不妊治療」に陥っていました。もし精子の精密検査をしないまま転院を繰り返していたら、ご夫婦の心と体、および治療費の負担は、延々と続いていたのではないでしょうか。
黒田IMRが開発した顕微授精のリスクを回避できる治療法顕微授精の適応範囲が拡大され、生殖補助医療の約80%を占めるまでに急速普及した理由の一つには、「受精に必要な精子が たったの1匹で良いこと」そして「人工的に授精させられること=受精率を上げられること」にあります。言い換えれば、体外受精には、「沢山の精子が必要」であり、しかも卵子にふりかけても「受精しなかったらどうしよう」という不安が消えない一面が残るということです。
私たち黒田IMRの精子研究チームは、長年に渡り、臨床の現場に役立てられる『ヒト精子』の基礎研究を進め、その過程で精子の選別技術の高度化に成功し、高精度な精子検査(精子精密検査)の確立にも辿り着きました。事前に精子の精密検査を行えば、精子の機能に関する正確な詳細情報を把握できますので、体外受精に伴う不安はかなり解消される でしょう。具体的に説明すると「精子の頭部にある、卵子に侵入するために必要な酵素が入った袋(先体)が正常か」「卵子への侵入準備ができているか(先体機能が正常)」等のEBMに基づいた情報を取得できた上で、体外受精を選択するか否か等を判断できるようになるということです。
また黒田IMRでは、『高度な精子選別技術』と『精子精密検査の技術』を駆使して、受精に必要な精子数を極限まで節約できる新しい体外受精『人工卵管法』の開発も実現しました。人工卵管法は、従来の体外受精の100分の1以下という極めて少ない精子でも受精が可能な、非常に狭い空間内で行う体外受精です。本法の開発により、顕微授精を回避できるケースも増えました。
さいごに顕微授精は、精子の質が良好であること、言い換えれば、隠れ精子異常がないことを確認できない限り、重大なリスクを伴う不妊治療技術です。世間一般的に行われている顕微授精は、精子側の技術努力(高度な精子選別と高精度な精子評価の技術)が極めて乏しい上に、精子機能を軽視しているため、安全であると言い切ることはできません。 この点を解決しなければ、男性不妊の問題は解決しません。
黒田IMRが推奨している高度な精子選別法や精子精密検査、微小環境で受精を期待する人工卵管法といった一連の技術は、一般的には普及していないものです。そのため、一般の不妊治療施設で顕微授精を検討されているご夫婦には、より慎重になっていただきたいと思います。このコラムを通して、ぜひ正確な知識を身に付けてください。
「顕微授精も含めて、自分たちに合った、安全で有効な治療方法を検討したい」というご夫婦は、なるべく早い時点で精子の質(機能)を調べる精密検査を受けましょう。その結果によって初めて、適切な治療の方向性が見えてきます。
詳細は、精子機能検査の項目をご参照ください。