公開日:2019.01.15 
更新日:2023.11.16

【顕微授精児の先天異常調査】自閉症など発達障害の確率が増加と報告

監修者 | 黒田 優佳子
男性不妊治療の専門である黒田IMRの院長

精子学の研究者であり医師である視点から、
不妊治療における誤解やリスクを解説

【顕微授精児の先天異常調査】自閉症など発達障害の確率が増加と報告

カリフォルニアや台湾では、顕微授精をはじめとした生殖補助医療と自閉症など発達障害との関係性を大規模に調査しています。本記事では生殖補助医療のリスクに関する調査結果を紹介します。

<この記事のまとめ>
1. カリフォルニアや台湾を例に、海外の調査では顕微授精と自閉症スペクトラム障害の関係性が高いというデータが出ています。

2. 一方、日本では長期大規模疫学調査は実施されていません。詳細は後述しますが、偏ったデータを基にした調査報告に留まり、信ぴょう性が低い可能性があります。

3. 命を造り出す生殖補助医療においては、「疑わしきは避けるべき」という考え方で、リスク回避できる適正な技術を最大限に提供することが不可欠です。そのためには、科学的根拠に基づいた安全な治療が優先されなければなりません。

自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、社会性、コミュニケーション、行動面の困難を伴う発達障害の総称です。10年程前から、海外では「顕微授精と自閉症スペクトラム障害の間に因果関係がないとは言い切れない」というデータが出ていますが、現時点で明確に証明されている訳ではありません。結論付けるには、日本も含めて多くの国で基礎研究を進めながら多数の臨床症例を長期間にわたり追跡する「長期大規模疫学調査」を行う必要があります。明確な回答を得るには最低50年、それ以上の時間を要します。

海外における顕微授精児と自閉症スペクトラム障害の調査結果

海外では、顕微授精をはじめとする生殖補助医療の長期大規模疫学調査が行われています。カリフォルニア州で行われた約590万の小児に関する10年間の調査と、台湾での約160万の小児に関する8年間の調査、それぞれの集積データに着目していきましょう。

2015年カリフォルニア州の大規模調査

2015年には、1997〜2007年(10年間)にカリフォルニア州で出生した約590万例もの小児に関するデータを元に分析された、長期大規模疫学調査の結果が『American Journal of Public Health』という雑誌に掲載されました。本調査はコロンビア大学教授のピーター・ベアマン氏らによるもので、「顕微授精に代表される生殖補助医療で生まれた子どもは、自然に妊娠して誕生した子どもに比べて自閉症スペクトラム障害であるリスクが2倍である」という調査結果が報告されました。

これを受けて、アメリカ政府によるアメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は『データと統計』の中で、「体外受精児と比較し、顕微授精児に自閉症スペクトラム障害と診断される傾向が高かった」と発表し、主要な調査結果として所管しています。さらにCDCは、「自閉症スペクトラム障害は1970年代のアメリカでは3000人に1人の割合で発症していたが、2014年には68人に1人にまで増加した」という報告も挙げています。

またアメリカの自閉症支持団体「オーティズム・スピークス」のマイケル・ロザノフ氏は、「顕微授精に代表される生殖補助医療技術が自閉症スペクトラム障害のリスクに有意な影響を及ぼす可能性がある」と述べています。

2022年台湾の大規模調査

2022年には、台湾の全国人口登録データセットを使用し、2008年~2016年(8年間)までの約160万例の小児に関するデータを元に顕微授精と発達障害の関係性やリスクを分析したデータが報告されています。
※参考Neurodevelopmental Disorders in Offspring Conceived via In Vitro Fertilization vs Intracytoplasmic Sperm Injection
カリフォルニア州での長期大規模疫学調査の結果同様、顕微授精による治療は自然妊娠で生まれる子供よりも自閉症スペクトラム障害のリスクが2.49倍高く、発達遅延は1.92倍高いことが示されました。ここでは、注意欠陥多動性症候群(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)に関する有意なデータは確認できませんでした。

また不妊原因を男女双方が持つ場合に自閉症スペクトラム障害のリスクが高くなる可能性が示唆されています。実際のところ、精子と卵子、双方の質的な問題と発達障害との関連性がないと言い切る科学的根拠を明らかにすることは極めて困難です。そこに体外環境における長期培養や顕微授精という人為的な技術(簡単に言えば、ストレス)が加わることを考慮すれば、人工的な操作が加われば加わるだけ遺伝子を調節する仕組みに異常が出る可能性が高くなることは否定できません。

このように自閉症スペクトラム障害の急増と生殖補助医療の普及との関連性を指摘する報告は多数あり、海外では「顕微授精と自閉症スペクトラム障害の間に因果関係がないとは言い切れない」という見解が出されています。

日本における顕微授精と先天異常に関するフォロー体制

残念ながら、日本の生殖補助医療による出生児先天異常に関するフォロー体制は十分であることは言えない現況です。

日本では、学会登録医療機関が報告する生殖補助医療の年間実施件数に限定されて先天異常児の調査が行われています。しかし、そこには 長期にわたり追跡調査しなければ診断することができない「自閉症スペクトラム障害」「注意欠陥多動性症候群」「発達遅滞」等は含まれていません

すなわち、日本における調査が、生殖補助医療で生まれたすべての子供を対象にしていないこと、また子供が成長する過程で診断される発達障害の有無を追跡できていないことから、長期大規模疫学調査と呼ぶには及ばない報告に留まっています。

なぜ、顕微授精は危ないの?男性不妊に特化した当院ならでは治療方針

自然妊娠と顕微授精でのリスクは本当に変わらないのか?

黒田IMRにカウンセリングに見えた、不妊で悩まれているご夫婦の大半は、「体外受精や顕微授精で生まれた子供への障害リスクは、自然妊娠と変わらないと、何かで見たことがありますが本当ですか?」と質問されます。

確かに「生殖補助医療が自閉症スペクトラム障害を含む神経発達に どの程度の悪影響を与えているか」については、因果関係が明白になっていません。

しかし、海外において「顕微授精と自閉症スペクトラム障害の間に因果関係がないとは言い切れない」という見解が出されていること、また長期培養や顕微授精等の「人工的な操作が加われば加わるだけ遺伝子を調節する仕組みに異常が出る」可能性が高くなることを考慮すれば、「リスクがあるという前提でリスク回避できる適正な技術を最大限に提供すべきである、という考え方を黒田IMRでは優先しています」と回答しています。

医療従事者の経験や推奨する治療法においても、科学的に証明されていない場合にはリスクを生む可能性があります。黒田IMRでは、命を造り出す生殖補助医療において「疑わしきは避けるべき」という方針で、科学的根拠(EBM:Evidence-Based Medicine)に基づいた、適正かつ安全な治療を提供しております。

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公開日:2019.02.27 
更新日:2023.09.19

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監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

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