精子の質を正確に調べる方法は?|高精度精子検査【専門医の解説】

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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【専門医の解説】精子の質を正確に調べる方法

不妊治療に向けて治療現場では、精子「数」「運動」「形態」に着目した『一般精液検査』を実施しています。具体的にご説明しますと、スライドガラスに精液を1滴落とし、そこにカバーガラスを載せ、位相差顕微鏡を用いて200~400倍で、主に精液中の精子濃度(1ミリリットル中の精子数)、運動率(運動している精子の割合)、大まかな頭部形態等を観察する検査です。大変に簡易で何方でも直ぐに対応でき、また高額な顕微鏡も必要ありませんので、男性側の不妊検査の第一歩になっています。しかしながら、一般精液検査には不妊治療において「最も重要な精子異常を見逃してしまう」という落とし穴があります。これから ともて大切な内容をこ解説します。ぜひ読んでいただき、正しい知識を備えて『最適で安全な不妊治療』を選択してください。それが効率的な不妊治療になります。

目次

一般精液検査では、精子の質を正確に診断できない!

一般精液検査について_精子の質

一般精液検査の結果は、どのように判定されているのでしょうか?
実は、位相差顕微鏡精液を観察した「見た目」だけの判断で、世界保健機構WHО診断基準に従って基準値以上であれば男性不妊否定され、一方で一つでも基準値を満たしていなければ男性不妊と診断されています。具体的に数値で言えば、精子濃度1600万/ml未満ならば「乏精子症」、運動率が42%未満ならば「精子無力症」、正常形態の精子が4%未満ならば「奇形精子症」、精子が全く確認できなければ「無精子症」という診断がくだされます。

しかしながら、この位相差顕微鏡で「見た目」だけの所見で判定していることろに一般精液検査の「落とし穴」があります。それは治療成果」と「出生児へのリスク」に大きく影響する「精子の質=精子機能」に関する科学的根拠を位相差顕微鏡では検知できない(見えない、取得できないという点です。一般精液検査では、あくまでも「精巣で精子が造られているのか」「元気に泳いでいるのか」ということを見ているに過ぎません。

結論から申し上げれば、『出生児の健常性保証』に影響を及ぼす『精子機能』に関する『質的』情報が乏しいまま「精子の見た目が悪い=精子異常=男性不妊」と診断して治療がなされているここに『治療のリスク』が生じます(詳細は後述)

運動精子の中には、受精に関わると「危険な精子」が混在している!

治療現場では「元気に泳いでいる精子=良好精子」という認識にありますので、運動精子が治療に用いられています。しかし実は、一般精液検査で「正常であると判定された運動精子」であっても、位相差顕微鏡で見えない「機能異常」が隠れ潜んでいる場合があります。つまり、一般精液検査では見つけることができない「精子の質的に異常がある運動精子」が存在するということです。

精子の質的な異常、機能異常の中で、最も出生児へのリスクになるのは「精子DNAの損傷DNA断片化」です皆さん、驚かれることと思いますが、結論から申し上げれば、ヒト精子は多くの場面でDNAが傷つく『宿命』にあります。どういうことでしょうか?まず、精子が形成される過程について お話します。

そもそも「短期間に もの凄い数の精子を造らなくてはならない」という、「質より量」の粗製乱造にあります。その粗製乱造が製造ミス(エラー率)を上げて「DNAのコピーミス」を起こします。また粗製乱造の精子形成過程には「アポトーシス」という、出来損ないの精子を排除する仕組みがあり、上手く造られなかった精子DNAをバラバラにすることにより「精子DNA断片化」を起こします。さらにアポトーシスとは別に、ヒトの体を構成している細胞(体細胞)においても様々な原因でDNA損傷が起きてきますが、「DNA修復機構」という仕組みがありますので すぐに傷ついたDNAが修復されますが、ヒト精子は形成過程でDNA修復能力を消失するという特殊な性質があり、傷ついたDNAが修復されないまま「DNA損傷精子」として残り続けます。

このように多くの場面で精子DNAは損傷され、断片化していく『宿命』にありますので、造精機能が正常な男性でも精液中の精子の半数以上はDNA損傷精子であり、造精機能障害に伴い その割合は増加します

【重要ポイント】最も怖い点は、一般精液検査で見逃されたDNA損傷をはじめとした機能異常をもった運動精子が顕微授精に用いられ、人工的な授精が可能にされ、妊娠、出産に至った場合に、出生児に何らかの異常を発生させるリスクがある点です(詳細は後述)。

「運動精子が1匹いる!」だけで顕微授精を行うのは高リスク!

運動精子が一匹いるだけで顕微授精はリスク

男性不妊と診断されると大半が顕微授精になります。顕微授精には受精に必要な精子が1匹で良いこと、また人工的に受精率を上げられること等の利便性があり、このことが適応範囲を広げました。治療現場では「運動精子=良好精子」という性善説の認識に基づいて、運動精子が治療に用いられていますが、実際には一般精液検査では検知できない「見逃している精子異常」を有する運動精子が存在すること、その隠れた異常をもつ運動精子で人工的に授精させるとリスクを伴うことは前述しました。ここでは詳しく解説します。

まず「運動精子の中に異常が隠れている」ということは、ヒト精子においては性善説は成立しないということです。また生殖補助医療による治療対象になる男性不妊の方には、隠れ異常精子率が高い傾向が認められます。この点に注意が必要です。

【重要ポイント】ここで顕微授精という技術について説明しましょう。顕微授精は単に「精子の数が少ない」という、精子の量的(精子数)不足を補う技術です。言われて見れば「あっ、そうだ~」と気づかれることでしょう。出生児へのリスクに繋がる精子DNA損傷をはじめとする多様な精子の質的(機能)異常を克服することはできません顕微授精の最も怖い点は、受精に関わることが許されない危険な異常精子でも人工的に授精させてしまう点です。だからこそ、事前に精子機能異常が「あるのか、ないのか」を正確に調べることができること、また機能異常を有する精子を積極的に「排除」できる技術があること、逆に言えば、安心して卵子に刺せる質の高い精子を選択的に「分離」できる技術があることが不可欠になります。

安全性の高い顕微授精を行うには・・・

「命を生み出す」生殖補助医療の実施においては、安全が何よりも優先されなくてはなりません。とくに人工的に授精をさせることを可能にしてしまう顕微授精の実施に際しては、事前の高精度精子検査で「精子が質的に正常か」「精子機能異常が隠れていないのか」「穿刺できる安全なレベルの精子なのか」を正確に見極める必要があります。つまり、徹底した精子の品質管理により、安心して治療に用いることができる、安全な精子を選別できることが必要不可欠です。

正常な機能を有した高品質な精子を卵子に穿刺注入できること、これが安全性の高い顕微授精の実施には必須になりますそれは以下の2つのケースに絞られます。

1.もともと高品質精子の比率が高いケース:たとえ精子の数が少なくても、もともと精液中の高品質精子比率が高いケースでは、顕微授精を行っても ある程度の安全性が確保できるでしょう。

2.高度な技術により、高品質精子を選別できるケース:精液中の高品質精子比率が低いケースでも、高品質精子を選別できる高度な技術を有しているならば、顕微授精の安全性は損なわれないでしょう。

とはいえ・・・
機能異常のない、高品質精子に関する「知識」
機能異常を正確に「調べる」ことができる高精度な「検査技術」
機能異常精子を積極的に「排除」できる高度な「分離技術」
が普及していない現状にあり、正直なところ、安全な顕微授精を実施できるために必要な「高品質精子の評価と選別」を実施できる施設が極めて少ないのが実情です。

黒田IMRの「精子の質を正確に調べられる」高精度な精子検査を紹介

黒田IMR 院長を含む精子研究チーム(詳細は、黒田IMRホームページを参照ください)が開発した分子生物学的な手法による高精度精子検査では、一般精液検査で検知できない「精子の中に隠れた異常」を正確に検知できるようになりました。

事前に精子の質の良し悪しを正確に把握することにより、精子側から治療の見通し、リスクをある程度予測できるようになりました。自身の精子のタイプに最適で安全な治療法を具体化させること、ここに不妊治療の鍵があります。治療を開始する前に精子精密検査をして、是非とも効率的な妊活をしてください。

まとめ

顕微授精をかなりの回数繰り返していても全く成果に繋がらない!顕微授精反復不成功のご夫婦は、精子精密検査を受けてください。成果に繋がらない原因は、一般精液検査で見逃された「隠れた精子機能異常」かもしれません。

やみくもにリスクの高い顕微授精を繰り返すのではなく、まずは精子品質に対する科学的な根拠を取得して「顕微授精しても大丈夫な、安全な精子であるか否か」を見極めることをお勧めします。

精子の質と高精度な精子検査に関するFAQ

病院の精液検査で「精子が元気に動いている」と言われました。これなら顕微授精で問題なく妊娠できますか?

「元気に泳いでいる精子=安全で質の高い精子」とは限りません。ここが不妊治療における大きな盲点です。 一般的な精液検査は、普通の顕微鏡で「精子数」や「運動率」などの外見的な評価(確認)をしているに過ぎません。実は、活発に動いている精子の中にも、普通の顕微鏡では見えない「DNAの損傷」をはじめとする多様な精子機能異常が隠れている場合があります。この「隠れ異常精子」が顕微授精に用いられ、人為的な授精が可能になり、妊娠、出産に至った場合には、生まれてくる子どもに何らかの異常が発症するリスクがあります。「動いているから大丈夫」という性善説は、ヒトの精子には当てはまりません。

精子のDNAが損傷している場合、体の中で自然に修復されることはないのでしょうか?

 残念ながら、ヒトの精子には傷ついたDNAを自ら修復する能力がありません。 人間の一般的な細胞(体細胞)には、DNAの傷を修復する「DNA修復機構」が備わっていますが、精子は形成される過程でこの能力を失うという特殊な性質を持っています。そのため、一度DNAが損傷してしまうと、そのまま「DNA損傷精子」として残存し続けます。だからこそ治療前に「DNA損傷などの隠れ機能異常がないか」を正確に調べ、事前に「異常精子を積極的に排除」する高度な技術が不可欠となります。

顕微授精を何度も失敗しています。「高精度な精子検査」を受けることで何が変わりますか?

最大の変化は、高精度精子検査の結果によっては、その方の精子のタイプにあった「最適で安全な治療戦略」を具体化させられますので、「原因不明の治療の失敗」から脱却できることです。
顕微授精は「精子の数」つまり「量的な不足」を補うことはできても、DNA損傷などの「質的な異常」を克服できる技術ではありませんので、一般的な精液検査で見逃された隠れ異常精子が治療に使われていても成果には繋がりません。
黒田IMRでは、研究開発した分子生物学的手法に基づいた「高精度な精子検査」を実施して、治療開始前に隠れ異常を正確に検知し、事前に「高品質な精子が存在するか否か」を見極めます。さらに「質の高い精子を選択的に分離=異常精子を積極的に排除」する技術と組み合わせることにより、治療反復不成功の道を辿らないための技術努力をしています。

黒田メソッド:「隠れ異常を検知できる高精度な精子検査」とは?

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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