~質の高い精子を選別する意義・重要性~
卵子と受精できる精子は「選ばれた精子!」
安全な不妊治療には「精子の選別」と「選別精子の品質管理」が必須!
多くの方は、精巣内で造られた精子は成熟した精子であるという認識ですが、実は精巣内精子の大半は未成熟な精子です。精巣内未成熟精子は、精巣の横にある精巣上体という臓器に移動してから成熟を進め、精子の質(機能)を向上させ、最終的に成熟精子になるまでおよそ74日を要します。74日を要して造られた精子は精巣上体に溜められ、射精のタイミングを待っていますが、精巣から精巣上体に移動した未成熟精子が全て成熟を完了する訳ではありません。また中には成熟を完了できても正常の精子機能を備えていない精子も混在しています。つまり一見オタマジャクシのような形をした成熟精子であっても、その中には成熟を停止した未成熟精子や機能異常精子が混在しています。
要するに、精巣上体には精子を含む分泌物が蓄えられていますが、精巣上体内の分泌液と前立腺や、その後ろにある精嚢などからの分泌液が、射精により一気に押し出されることにより、それらが混ぜ合わさって「精液」ができてきます。つまり、精液はあらかじめ精巣内に蓄えられているのではありません。
造精機能が正常な男性の場合、性交により膣内には数億匹の精子が放たれ、その中には上述したように未成熟精子や機能異常精子が混ざっていますが、元気な精子であれば射精されてから数十分のうちに子宮腔内に進入します。しかし、そこからさらに子宮の奥の卵管を遡上していく過程で、精子の数はどんどん減っていき、最終的に卵子が待つ卵管膨大部にまで到達できるのは「選ばれたごく僅かな精子」だけと考えられています。つまり受精するということは、数億匹の精子から選ばれた1匹が卵子の元に辿り着き、命の誕生を可能にするという、なんとも奇跡的な出会いなのです。精液中に元気な精子が少なければ、卵子に到達できる精子が全くいないということもある訳です。
その精子の効率の悪さを克服するために、できるだけ卵子の近くに精子を届けることを目指してきた技術が、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療です。その根底には、精子の数が少ないのであれば限られた精子で受精の可能性を高める、精子の運動能力が低いなら精子が卵子に泳ぎ着くまでのエネルギー消費を少しでも抑えるといった考え方がありました。中でも顕微授精は、精子が1匹いれば人工的な授精を可能にしますので最も合理的な方法ですが、治療に用いる精子が健康な命に繋がるためには、卵子に自力で辿り着ける数億匹の精子から選ばれた1匹と同等な品質を備えていることが不可欠になります。具体的に言えば、本来ならば女性の体内で自然に行われる「精子の選別」を人の手で代行する必要があり、その選別した「精子の品質」が良好であることを確認できること、つまり精子の品質管理を徹底することが、精子側から健常な命を誕生させることに繋がる安全な治療になる訳です。
治療の安全性と有効性の向上には
「隠れ異常精子を排除」できる技術が必須!
不妊治療の現場では「楕円頭部の運動精子=良好精子」というイメージが定着していますので、運動精子が不妊治療に用いられています。しかし私たち精子研究チームが、治療に安心して用いることができる、安全な精子(高品質な精子)を選別する技術開発を進める中で、運動良好な精子の中にも、見えないところにDNAや細胞膜(精子を包んでいる膜)が傷ついていたり、頭の中に空胞(穴)が開いていたり、先体(卵子と受精する際に重要な役割をするところ)が障害されている、多様な異常が隠れ潜んでいる精子が多いことが明らかになりました。
これを私たち研究チームは「隠れ異常精子」と呼んでいますが、この隠れ精子異常は、世界保健機構WHO診断基準による一般精液検査では検知することができず、また男性不妊治療を難航させる原因になり、さらには生まれてくる子どもへの健康リスクにも繋がりますので、とても厄介者です。ですから、治療を開始する前に「隠れ異常精子の存在の有無を確認しておく」ことが不可欠であり、同時に、もし隠れ異常が認められた場合には事前に「隠れ異常精子が排除されている」ことが大前提になります。以下の隠れ異常精子の写真をみてください。

(切断片の顆粒状拡散、連続保証なし)



そこで私たち精子研究チームは・・・
- 精液から、明らかに妊孕性のない、DNA・細胞膜・先体などが損傷した、隠れ異常精子を取り除く『高度な精子選別技術』、わかりやすく言えば、異常精子を積極的に排除して、治療に安心して用いることができる安全な精子(高品質な精子)を選択的に分離する技術を確立し、
- さらに分子生物学的な手法による『高精度な精子検査法』を開発して、一般精液検査で検知できずに見逃されてしまう「精子の中に隠れた多様な隠れ異常の解析」を可能にしました。

とくに、私たち精子研究チームが、高度な精子選別技術を確立する過程で最も力を注いだのが、
- DNAが損傷されていない精子(DNA断片化陰性精子)を分離すること、言い換えれば、DNAが損傷されている精子(DNA断片化陽性精子)を排除すること、
- 同時に、DNA損傷の有無を定量的に検知できる(正確に見極めることができる)ことでした。

なぜ、隠れ精子異常の中でも、とくにDNAが損傷された隠れ異常精子を事前に排除しなければならないのか?
精子は形成過程で、通常の体細胞が備えているDNA修復機構(DNAに傷がつくと直ぐに修復される仕組み)を失うため、様々な原因によって傷ついたDNA損傷は修復されず、『DNA損傷精子』として残存します。このDNA損傷の程度が重篤な精子は受精に関わったとしても胚成長に繋がる可能性は極めて低いですが、「軽度な」DNA損傷精子は、受精すると胚発生が継続して妊娠、出産に至ります。
ここで重要なポイントは、受精後に卵子側が備えているDNA修復機構が、精子側のDNAの傷を完全に修復できれば問題ありませんが、ほんの僅かの傷を治すのが精一杯なため、DNA修復が不完全に終わってしまうケースも少なくありません。この場合には、生まれてくる子どもの健康に何らかの悪影響を及ぼす可能性、リスクが生じます。つまり、精子DNAの僅かな傷(軽度なDNA切断)こそが出生児へのハイリスクになるということです。
この点を踏まえ、治療開始前に「精子DNA損傷の存在」を正確に調べておくこと、同時にDNAに傷が認められたならば「その傷の程度が軽症のか重篤なのか」を高精度に見極めておくこと、さらに事前に「DNA損傷精子を積極的に排除」しておくことが、健康な命の誕生に向けて極めて重要であり、不可欠であるということです。
黒田IMRの精子選別技術は「隠れ異常精子の排除」「高品質精子の選別」に優れている!
当院には事前に隠れ精子異常を確認できる『高精度な精子評価技術』と、隠れ異常精子を積極的に排除し、高品質精子を選択的に分離する『高度な精子選別技術』があることにより、黒田が手掛ける精子選別の技術精度では、下図のように高い割合で高品質精子の選別を可能にします。しかし、精子の比重差を利用した精子分離技術においては、高品質精子の比重にほぼ差がないに等しいレベルの異常精子が混入してくる可能性があります。どんなに精子の分離精度を高くなっても、細胞生物学の原理から異常精子を100%排除することはできません。だからこそ、黒田が目指す安全戦略では、できるだけ顕微授精をしない方針を貫き、精子側関連技術を駆使して高度化した体外受精法『人工卵管法』に展開する努力をしています(詳細は、人工卵管法の項を参照ください)。

中には下図のように、どんなに高度な技術で精子を選別しても、高品質精子を選別できない(要するに高品質精子が存在しない)場合もあります。また、もともと造られている精子が少なすぎて選別することすらできない場合もあります。このような結果には真摯に向き合って、ご夫婦に健常な命の誕生に向けた安全な治療は困難であることをお伝えせざるを得ません。

黒田IMRの精子選別技術とZyMōt(ザイモート)の違いは?
当院を受診される多くのご夫婦から、膜構造を用いた運動精子選択術『ザイモート』と『黒田メソッド』による精子選別技術と何が違うのでしょうか?」という質問を受けます。一言で言えば、出生児へのリスクに直結する「隠れ異常精子を積極的に排除できる技術か否か」という点、つまり分離精度に違いがあるということです。
ザイモートは8マイクロメーターのフィルターを運動精子が通り抜けることを利用した手技ですが、精液中に混在する明らかに妊孕性がない精子(劣化精子、死滅精子、奇形精子ほか)や白血球、細菌、ウィルス等もフィルターを通過してしまいます。無菌的に運動精子だけを分離することはできない点に課題があります。
また何より問題になるのは、ザイモートは単にスイムアップ法による運動精子回収法ですので、フィルターを通過した運動精子に潜んでいるDNA断片化陽性精子を含む、隠れ異常精子を排除することはできない点です。
さらには、遠心分離による精子への物理的損傷や、その工程に要する時間に伴って発生する活性酸素が精子DNA断片化を招くという考え方から、ザイモートは遠心分離を取り入れていませんが、結論から申し上げれば、遠心分離において そのようなことはありません。私たち精子研究チームが約40年前に開発した、運動精子を選別する遠心分離法の基本手技である『パーコール法』は長年臨床応用されてきましたが、パーコール法では密度勾配担体の浮力が遠心分離による精子への物理的損傷を相殺し、運動能低下の回避を可能にしています。同時に、精子分離工程で発生する活性酸素に対しては、培養液に添加する抗酸化剤の至適条件を確立することにより精子DNAの保護を可能にしますので、活性酸素の影響による精子DNA断片化を回避できます。
つまり、ザイモートによるスイムアップ法は、単に運動精子を回収する方法であり、隠れ異常精子を排除できません。一方で、黒田メソッドによる精子選別技術は、出生児リスクに直結するDNA断片化陽性運動精子をはじめとする隠れ異常精子を事前排除できる高精度な技術になります。
よくある質問Q&A
- ZyMōtザイモート)って何ですか?
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ZyMōt(ザイモート)とは、体外受精・顕微授精に用いる運動性の高い精子を回収する方法の一つです。ザイモートスパームセパレーターという特殊な膜(フィルター)を潜り抜けた運動精子を集めるという技法で、遠心分離をしないので回収過程で起きてくる可能性がある精子への物理的なダメージやDNA損傷を減らすことを謳っています。
しかし実際のところ、運動精子の中には、もともとDNAが損傷された機能障害をもった『隠れ異常精子』が混在しています。このDNA損傷運動精子が治療する上ではハイリスクになりますが、ザイモートは、この異常運動精子を排除することはできません。この点にザイモートの課題が残されています。
黒田IMRでは、院長を含む精子研究チームで開発した「高度な精子選別技術」により、事前に「隠れ異常精子を排除する」、言い換えれば「質の高い精子を選別する」ことを可能にしています。結果として、安全性の高い男性不妊治療の提供に繋がります。
- ZyMōt(ザイモート)のメリット・デメリットを教えてください。
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ZyMōt(ザイモート)のメリットは、大変簡単に運動精子を集めることができるという点です。特別な技術習得も必要ありません。
一方でデメリットは、運動精子が極端に少ない場合は回収が困難になるという点です。つまり、全ての方に適応される運動精子回収法ではありません。また前文でも記載しましたが、ザイモートは あくまで運動精子を集める技法ですので、隠れ異常をもった運動精子も一緒に回収してしまうことにより生じる「治療リスク」が残る点もデメリットです。
黒田IMRでは、この2つのデメリットを軽減させるための「高精度な精子選別法」を確立しています。より安心して安全な治療を進めたい方は是非一度ご相談してください。
