生殖補助医療とは?
不妊治療を視野に入れて妊活を考えた時に、生殖補助医療という言葉を必ず耳にすると思います。多くの方は、体外受精や顕微授精のことを言うと理解されていますが、正確に申し上げますと、「妊娠を成立させるために、ヒトの卵子や精子、胚を体の外で取り扱い、人工的に受精(授精)や妊娠を促す治療法を総称」して『生殖補助医療 assisted reproductive technology:ART』といいます。
具体的に列挙しますと、
① 体外受精(in vitro fertilization:IVF)・胚移植
② 顕微授精:卵細胞質内精子注入
(Intra-Cytoplasmic Sperm Injection:ICSI)・胚移植
③ 凍結・融解胚移植
があります。一昔前には、人工授精という、精子を子宮内に注入して妊娠を期待する最も自然に近い方法もARTに含まれていましたが、現在では対象外になり、一般不妊治療の枠内に含まれています。
体外受精とは、体の外に取り出した卵子に精子が自身の力で侵入して受精する環境を整える技術です。
顕微授精とは、頭部が楕円で元気に泳いでいる精子を正常と考えて、一匹の運動精子を顕微鏡下で極細ガラス針にピックアップして、体の外に取り出した卵子に穿刺注入して人工的に授精を図る技術です。
これまでの顕微授精の実施においては「運動精子ならば、どんな機能異常があっても卵子に刺して入れさえすれば、授精、妊娠が可能である」という、「運動精子=良好精子」というイメージに基づいた治療モデルが構成されていましたので、精子の数が少ない場合や運動性が低い場合には、顕微授精が用いられてきました。
また顕微授精では授精に用いる精子が たったの1匹でよく、また人の手を介して人工的に授精を可能にする(受精率を上げられる)という利便性から、その適応範囲は拡大されて急速に普及しました。現在では顕微授精がARTの受精法の約8割を占めるまでになっています。
精子側から見た生殖補助医療の問題点は?
前述したように「運動精子=良好精子」というイメージで語られてきましたので、現行の精液検査では主に「精子数:精子がたくさん造られているのか」と「運動率:元気に泳いでいるのか」が着目され、「精子数と運動率が高い精液は妊孕性が高く、低い場合は男性不妊」と診断されます。そして「男性不妊」であると診断されると「即 顕微授精」による治療に展開されるという流れが一般的になっています。
しかし、我々精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページを参照してください)で精子側の技術開発を進めたことにより、精子側から見た生殖補助医療の問題点が浮き彫りにされてきました。
1.現行の精液検査で正常であると診断された運動精子の中にも多様な隠れた異常(これを『隠れ精子異常』という)が潜んでいることが明らかになりました。つまり、運動しているだけでは精子機能の正常性を保証できないということです。つまり、これまでの精液検査では精子の中に隠れている異常を検知できずに見逃していたということです。
2.また男性不妊の診断のもと顕微授精による治療が繰り返されても全く成功しないという、顕微授精反復不成功例を対象に精子精密検査をしてみると、その8割には隠れ精子異常が発覚し、この『隠れ精子異常こそが厄介者で、男性不妊治療を難航させる犯人』であることが明らかになりました。
3.隠れ精子異常の背景には遺伝子異常が関与していますが、顕微授精という技術は遺伝子異常を治すことはできません。あくまでも精子数が少ないことを補足する技術です。この矛盾点が、結果として顕微授精反復不成功例の大半に隠れ精子異常が存在するという実態を招いたのです。
4.最も怖い点は、隠れ異常精子が顕微授精に用いられ、人工的に授精が成立し、妊娠、出産に至った場合には、生まれてくる子供に何かしらの異常が発症するリスクがあるという点です。
これまでの精子の中に隠れている異常が「見えないから気にならない」「知らないから怖くない」という概念から、これからは「見えてしまったので気になる」「わかってしまったので怖い」ということになります。
生殖補助医療を行う上で精子側の情報で最も知りたいことは、
◎ 健常な命の誕生に寄与「できる」精子
◎ 妊孕性の「ある」精子
◎ 隠れ異常の「ない」精子
が、「精液に何%含まれているのか」を正確に把握することです。
我々研究チームで開発した高精度精子検査法により、隠れ精子異常の種類と程度を正確に検知できるようになり、精子妊孕性を科学的根拠に基づいて正確に評価できるようになりました。隠れ精子異常が見逃されたまま間違った治療に展開されないためにも、早い時点で精子精密検査を受けていただきたいと思います。
黒田IMRのホームページでは、生殖補助医療を受けるにあたり、ぜひ知っておいていただきたい『詳細情報』をお伝えしていきます。皆様の一助になることを祈念します。