意外と多い男性不妊!その原因は?やるべき最初の検査は?詳しく解説

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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【不妊治療】意外と多い男性不妊について解説_やるべきことや原因の詳細解説
目次

不妊の約半数は男性不妊!

一般的に「赤ちゃんができない、不妊かも?」となりますと、その原因は女性側にあると思われがちです。しかし実情は、男性側に原因がある「男性不妊」が不妊の約半数を占めています。つまり、男性不妊が意外と多いということです。

しかも男性不妊の大半が「精子に何かしらの問題」があり、「精子を上手く造ることができない」造精機能障害(精子異常)です。精子異常を発症させている原因が検査により明確になり、手術などで改善が期待されるケースがある一方で、なかなか治療が難しいケースが多いのも事実です。

男性不妊「精子」の問題は、奥が深い問題です。
結論から申し上げれば、「精子の問題をいかに解決できるか!が不妊治療の鍵になる」ということです。

男性不妊の大半は『精子の問題!』その原因は?

実は、男性不妊の原因を特定でき、その原因に対する治療ができて、精子の状態を改善できるケースは多くありません。つまり、男性不妊の治療は難航する傾向にあるということです。

前述していますが、男性不妊の約90%は「造精機能障害:精子異常」で、精子の形態や機能に問題があります。しかも精子異常の大半が、一般的に言われているような「精子数が少ない」とか「運動率が低い」など、一般精液検査で用いる普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で見ただけでは見極めることができない、精子の中に隠れた潜んだ異常です。これを『隠れ精子異常』と言っていますが、具体的に言えば、精子DNA損傷をはじめとする多様な機能異常であったり、精子の頭の中に隠れた構造異常だったりします。

隠れ精子異常の種類と程度、すなわち「どのような精子異常が隠れているのか?」「その精子異常が、どの程度 重篤なのか?」には、大きな個人差があり、一律同じ異常パターンではありません。ということは、隠れ精子異常を引き起こす原因は複雑であるということです。

学術的に説明すると、隠れ精子異常の背景には『新生突然変異』という、父親から受け継いた遺伝子ではなく、突発的に発生した不運な遺伝子の突然変異(DNAのコピーミス)が関与しています。つまり、隠れ精子異常の発現には、先天性(生まれつき)の問題が関与しているということです。そのため、隠れ異常がある男性不妊の治療は難航する傾向にあるのです。

【最も注意すべき点】それにもかかわらず、隠れ精子異常は位相差顕微鏡で検知されないため、一般精液検査で見逃されたまま間違った治療法に展開されてしまうことも少なくないという点です。遺伝子異常による隠れ異常がある精子のタイプなのか否かにより、その後の「適正かつ安全な治療法の選択」が全く異なります。ですから、なるべく早い時点で、隠れ精子異常を正確に検知できる、分子生物学的な手法による高精度精子検査(精子精密検査)をしてください。隠れ異常の有無を見極めておくことが「治療の効率化」になり、「上手な妊活」に繋がります。

【key point】

【不妊治療】男性不妊における精子の大切なポイント

世間一般では、精子の問題に関しても、卵子の老化と同様に加齢に伴い悪化するとか、飲酒、喫煙、極端なダイエット、食品添加物や遺伝子組み換え食品、化学物質による環境汚染や電磁場などの影響が大きいとか語られていますが、精子の問題はそのような単純な話ではありません。言い換えれば、精子を元気にするために、生活習慣の改善にはじまり、コエンザイムQ10などの加齢のストレスを抑える抗酸化剤のサプリメントや漢方薬等のお話をよく耳にしますが、上述したように、精子の問題には、生まれつきの遺伝子異常が関与している場合が多いため、実際のところ、大半の精子の問題に対しては、それらの効果を期待することはできません

男性不妊の原因を特定できるケースは意外と少ない!

前述していますが、生殖補助医療の治療対象になる精子異常においては、その大半が遺伝子異常(先天性)による男性不妊です。
実際の治療現場において、原因を特定できる(後天性の原因による)男性不妊の比率は低いですが、参考までに以下に簡単に列挙します。

①後天性の造精機能障害(精子異常):精巣で精子を造る機能に問題がある

内分泌疾患、精索静脈瘤、耳下腺炎(おたふくかぜ)による精巣炎や、停留精巣(胎児のころは腹腔内にある精巣が生後数か月たっても陰嚢の中におりてこない病態)等が原因で、造精機能障害(精子異常)になるケースもあります。中には、治療(手術など)により精子の改善を期待できる場合もありますが、なかなか治療効果が認められないこともあります

②性機能障害:勃起や射精ができない

性機能障害では、精子形成や精子輸送路には問題が認められませんが、勃起や射精といった性機能に問題があり通常の性交ができない場合です。具体的には、勃起障害や射精障害などが挙げられます。

性機能障害は近年増加傾向にありますが、バイアグラなどの薬剤により勃起障害を改善できるケースも少なくありません。また勃起はできても、なかなか射精できないという、射精障害の場合もあります。心因性の関与もあり、なかなか治療が難しいこともありますので、医療機関に相談することも視野にいれてください。

③精路通過障害:精子が通過する通路が詰まっている

精路通過障害は、精子形成には問題が認められませんが、精子の通り道である精管の通過に問題がある場合です。具体的には、精路の炎症(精巣上体炎や精管炎など)、逆行性射精(内尿道口の閉鎖不全により射精時に精液が膀胱へ射精される場合)、閉塞性無精子症(精子形成は正常で精子機能には問題が認められませんが、射精する通路が閉塞されている場合)などが挙げられます。

閉塞している場所を手術(顕微鏡下精路再建術)して精子が通過できるようにすることも原理的には可能ですが、現実問題としては難しいことが多いのも事実です。

男性不妊の検査は?

男性の妊活において最初に行うべき重要な検査は『精液検査』になります。その他、必要に応じて血液検査(ホルモン値、性感染症、染色体などを検査)超音波検査(精索静脈瘤・精巣腫瘍などの有無を診る)を行います。以下に詳しく解説します。

1.精液検査

治療現場では「運動精子=良好精子」という認識が定着していますので、一般精液検査では、普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で、主に精液中の精子の「運動率」「精子数」「形態」等を観察しています。その結果、世界保健機構WHOの診断基準に達していなければ「男性不妊」と診断しています。具体的に言えば、運動率が 42%未満ならば「精子無力症」、精子濃度 1,600万/ml未満ならば「乏精子症」、正常形態の精子が 4%未満ならば「奇形精子症」と診断しています。

ここで【注視すべき重要ポイント】は・・・

  • 男性不妊の約90%は造精機能障害による精子異常であり、治療対象になる精子異常の大半は隠れ精子異常として発現してくる点です。
  • また隠れ精子異常が発現する背景には『新生突然変異』という、生まれながらに(先天性に)精子形成に関わる遺伝子の突然変異(DNAのコピーミス)が関与しているため、治療を難航させる点です。
  • それにもかかわらず、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡では検知することができないという点です。
  • さらに最も怖い点は、隠れ精子異常が見逃されたまま生殖補助医療に用いられ、妊娠、出産に至った場合に、生まれてくる子供に何かしらの異常を発症させるリスクがある点です。

【必読ポイント】この点が治療現場では直視されないまま「運動精子=良好精子」という認識で治療が行われている点に『現状の不妊治療の問題点』があり、『一般精液検査の弱点』があります。その点を解決するために、私たち精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページを参照ください)は、隠れ精子異常を正確に検知できる、分子生物学的な高精度な精子検査法を開発しました。

ここで【注意すべき重要ポイント】は・・・

現在、DNA断片化を調べる検査法の中で、精子DNA断片化指数(sperm DNA fragmentation Index : sperm DFI)が主流になっています。しかしDFIは、精子DNAの僅かな傷(軽度なDNA断片化)を検出できないという点(DFIの検査精度)に課題があります。
正直なところ、健康な命を誕生させるという観点から申し上げると、精子DNAの僅かな傷(軽度なDNA断片化)こそが生まれてくる子どもの異常に繋がるリスクがあり、最も怖い相手になります。

2.血液検査

精子が造られる精巣からは、男性ホルモンが分泌されていますが、その司令塔は脳の下垂体から分泌されるホルモンです。必要に応じて血中のホルモン値(FSH、LH、テストステロン、プロラクチンなど)、性感染症(クラミジア、淋菌、梅毒、HIVなど)の有無、染色体などを調べるために血液検査をします。

3.超音波検査

必要に応じて超音波検査を行い、精巣の状態(大きさ、石灰化など)、精索静脈瘤の有無(結果によって手術の必要性を判断する)、精巣腫瘍の可能性などを調べます。

まとめ

男性不妊、とくに「精子異常」は深刻な問題です。結論から申し上げれば、精子の問題を なるべく早い時点で正確に把握して、その方の「精子異常のタイプに合った、適正かつ安全な治療法を選択できるか」、言い換えれば、「精子の問題をいかに解決できるか!」が不妊治療の鍵になります。とくに不妊男性の精子には隠れ異常が認められる傾向が認められますので、治療開始前に精子の精密検査を受けることをお勧めします。

黒田IMRの院長には、現在に至るまでの約40年、ヒト精子の研究を専攻し、研究チームと共に、安全かつ有効な精子側の関連技術を開発してきたという裏付けがあります。とくに男性不妊の検査と治療に力を注いでいますので、ご心配の方は一度ご相談にいらしてください。

男性不妊に関するFAQ

不妊の原因は男女どちらに多く見られますか?

不妊の原因は女性側にあると思われがちですが、実情は男性側に原因がある「男性不妊」が不妊の約半数(約50%)を占めています。ですから、不妊治療を進めていく過程では、男女両方の原因を同時に調べることが重要です。

男性不妊の主な原因は?「隠れ精子異常」とは何ですか?

男性不妊の約90%は「造精機能障害:精子異常」です。その大半が、通常の顕微鏡(位相差顕微鏡)で観察する一般精液検査では検知できない「隠れ精子異常」といわれる、DNA損傷をはじめとする精子の「機能異常」や、精子内の「構造異常」です。

この隠れ精子異常の背景には、先天的な遺伝子異常が関与していることが多いので、治療が難航する傾向にあります。ですから、早い時点で、隠れ異常を検知できる高精度な精子検査(精子精密検査)を実施することが大切です。

精子の間違った認識【隠れ異常精子について】

妊活で最初に行う男性の検査は何ですか?また一般検査の問題点は何ですか?

最初に行うべきは男性不妊検査は「精液検査」です。しかし、既存の一般精液検査の大きな問題点は、治療をする上で最も深刻な問題になる「隠れ精子異常」を見逃してしまうことです。精子妊孕性の「正確な診断」と、それに基づいた「安全な治療法」を選択するために、隠れ異常を検知できる高精度な精子検査(精子精密検査)を実施することが推奨されます。

黒田IMRの高度な精子選別技術について

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黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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