【顕微授精児の先天異常調査】発達障害の発症率が高い?

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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顕微授精児の先天異常調査_発達障害の発症率は高いか

2020年以降、私のもとには「顕微授精で生まれてくる子どもの健康状態」に不安をもつ多くのご夫婦が相談にみえます。とくに「顕微授精と発達障害との因果関係を知りたい」ので「精子の状態を詳しく検査してください」という趣旨で受診されるご夫婦が増えました。相談いただいた内容を少し紹介します。

目次

顕微授精により障害の診断を受けた方からの相談内容

○ 顕微授精で直ぐに授かりました。元気に生まれて5年。その一人目の子どもが「発達障害」の診断を受けました。二人目を悩みます。

○ 妻の年齢が若い(20代後半)のに、「精子の状態が悪い」ということで顕微授精を勧められ、何回も繰り返しました。受精率が悪く、胚移植になっても着床しないので、諦めようかと考えていた時、顕微授精6回目で奇跡的に着床、妊娠、出産となりました。その子が「自閉症スペクトラム障害」の診断を受けました。たまたまかもしれませんが、妻が若いだけに、これからの妊娠が不安です。

○ 「精子の状態が悪いので顕微授精をしましょう」と言われました。最近「顕微授精で自閉症が生まれる確率が高い」と色々なところで目にします。海外の論文も読みました。顕微授精しても大丈夫ですか?心配です。


日本で報告されている、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療が実施された年間臨床成績は、学会に登録されている施設に限定されています。すなわち、生殖補助医療で生まれた全ての子ども達を対象にしているわけではありません。しかも、その限られた施設内における『先天異常児の発症率に関する調査』が実施されているに留まり、そこには、子どもが成長している過程で診断が可能になる「自閉症スペクトラム障害」「注意欠陥多動性症候群」「精神発達遅滞」などの神経発達障害は含まれていません。

現状の出生後の健康に関するフォロー体制は不十分ですので、今後は疫学調査の結果を正確に数値化するためにも、学会登録施設のみならず、生殖補助医療で出生した全ての子ども達が少なくとも成人するまで追跡し得た、長期大規模疫学調査が実施されることが急務です。

海外の長期大規模疫学調査の結果と見解

【不妊治療】海外の長期大規模疫学調査の結果と見解

海外では 2015年 コロンビア大学教授のピーター・ベアマン氏らの長期大規模疫学調査の結果が『American Journal of Public Health』という雑誌に掲載されました。その内容は、カリフォルニア州で 1997〜2007年 に出生した 590万例 の小児に関するデータを元に分析されたのもので、「顕微授精に代表される生殖補助医療で生まれた子どもは、自然に妊娠して誕生した子どもに比べ、自閉症スペクトラム障害であるリスクが2倍である」という調査結果の報告でした。

アメリカ政府のアメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、この内容を『データと統計』の中で「従来の体外受精と比較して、顕微授精が用いられた場合、生まれた子どもには自閉症スペクトラム障害と診断される傾向が高かった」として発表し、主要な調査結果として所管しています。またアメリカの自閉症支持団体「オーティズム・スピークス」のマイケル・ロザノフ氏は、この調査結果について「顕微授精に代表される生殖補助医療技術が自閉症スペクトラム障害のリスクに有意な影響を及ぼす可能性がある」と述べています。さらにCDCは「自閉症スペクトラム障害は、1970年代のアメリカでは3000人に1人の割合で発症していたが、2014年には68人に1人にまで増加した」と報告しています。

海外では、自閉症スペクトラム障害の急激な増加と生殖補助医療の普及との関連性を指摘する報告は多数あり、「顕微授精と自閉症スペクトラム障害の関係の間に因果関係がないとは言い切れない」という見解を出しています。

命を造り出す生殖補助医療において「疑わしきは避けるべき」

正直なところ、顕微授精と自閉症スペクトラム障害を含む神経発達障害との間に「因果関係がない」ということを科学的に証明することは不可能です。

因果関係に関する正式な結論を得るためには、基礎研究と共に多数の臨床症例を解析した長期大規模疫学調査が必要であり、明確な回答が得られるには、50年、80年いやそれ以上の相当の時間を要します。

だからこそ、因果関係があるという前提で「疑わしきは避けるべき」という考え方を優先すべきではないのでしょうか。

黒田IMRでは、院長を含む精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページを参照ください)が Post-ICSIとして開発した高効率媒精・卵管型微小環境体外受精法『人工卵管法により、顕微授精を回避できることを確認しています。『顕微授精のリスク』をご心配されているご夫婦は、一度ご相談にいらしてください。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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