不妊治療においては「ステップアップ法」と言われる、段階的に高度な技術に切り替えていく取り組み方があります。一般的に4つのステップアップ法があります。この記事では、それぞれの治療法と切り替えるタイミングについて解説します。
ただし最も重要な点は、ご夫婦の不妊原因に対する適正な治療法が選択されれこと、かつ安全に提供されることです。不妊病態(不妊の状況)によっては、段階的に治療法が進められないケースもありますし、治療結果によってはステップダウンするケースもあります。つまり、一律ステップアップすればよいという訳ではありません。主治医の先生と納得できるまで十分に話し合い、ご夫婦に最適かつ安全な治療法を選択してください。
この記事では、なかなか聞けない、目にできない情報 ~メリットとデメリット~ も発信します。この機会に是非読みいただき、お役立てください。
不妊治療のステップアップ法の種類
不妊治療のステップアップ法の種類
1. タイミング指導
2. 人工授精 Artificial Insemination of human sperm:AIH
3. 体外受精 in vitro fertilization:IVF
4. 顕微授精(卵細胞質内精子注入)
Intra-Cytoplasmic Sperm Injection:ICSI
1と2を合わせて、一般不妊治療、また3と4を合わせて、高度不妊治療(生殖補助医療)として分類しています。以下に解説します。
【ステップ1:タイミング指導】
基礎体温表や超音波検査、血液検査(卵子の形成に関わるホルモンの血中の値)を参考にしながら医師が排卵日(最も妊娠する可能性が高い日)を予測して、性交のタイミングを指導することを「タイミング指導」と言っています。
タイミング指導による妊活は、自然妊娠とほぼ同じですので、不妊治療に伴う女性側の負担や治療費を最低限に抑えられる治療法です。
不妊期間が短く、女性の年齢が若い方の不妊治療は、多くの場合、タイミング指導から開始されます。
ただし、タイミング指導の実施にあたり、以下の点に注意が必要です。
【注意点:男性側】
精子の妊孕性(にんようせい:妊娠させられる力)があることが事前に確認(検証)されていることが不可欠です。
解りやすく言えば、生命誕生の半分の遺伝子保証を担う精子側に、受精させられる機能が正常に備わっている精子であること、かつ 正常な遺伝情報DNAの伝達が期待できる精子であることを裏付けるデータを確保できた上で、タイミング指導を行わなければ成果には繋がりません。
精子妊孕性( DNA損傷がない受精能をもった正常な精子であること)を正確に見極めるためには、高精度な精子検査(精子精密検査)を実施する必要があります。多くの不妊治療施設で行われている一般精液検査では正確に検知できませんので、注意が必要です。
【注意点:女性側】
正常な排卵(有効排卵)ならびに 正常に受精できる卵管環境(卵管の通過性)が認められることが事前に確認(検証)されていることが不可欠です。
解りやすく言えば、生命誕生の半分の遺伝子保証を担う卵子側に、成熟した卵子が育って排卵している可能性が高いこと、かつ 卵子と精子が巡り会う場所になる卵管の疎通性が良好であることを裏付けるデータを確保できた上で、タイミング指導を行わなければ成果には繋がりません。
【ステップ2:人工授精 AIH】
一般的な「人工授精 AIH」は、採取した精液から運動精子を選択的に回収して、排卵日に子宮腔内に注入する技術、子宮内人工授精のことを言います。
一方で、卵管内に精子を注入する卵管内人工授精という技術もありますが、精液から完全に炎症細胞を排除できる(言い換えれば、無菌的に運動精子を選別できる)高度な精子分離技術があることが前提条件になります。炎症細胞を除去できない(無菌的に精子を分離できない)状態で卵管内人工授精を実施した場合には、医原的に(医療行為が原因になり)卵管内に炎症を波及させるリスクがあります。卵管内人工授精の取り組みには慎重な判断が必要です。
タイミング指導より AIHの方が、受精に向けて精子のスタート地点が卵子に少し近づいているという利点があり、また精液中から不要な細胞が除去され、運動良好な精子が濃縮されているという利点も備えていますので、精子と卵子が出会う確率が高くなります。さらに AIHによる妊活は、精子側のサポートのみですので、不妊治療に伴う女性側の負担や治療費を抑えることができます。
ただし、タイミング指導の実施と同様に、AIHの実施にあたり、以下の内容に関する事前チェックが合格することが必要不可欠です。

【注意点:男性側】
精子の妊孕性(にんようせい:妊娠させられる力)があることが事前に確認(検証)されていることが不可欠です。
解りやすく言えば、生命誕生の半分の遺伝子保証を担う精子側に、受精させられる機能が正常に備わっている精子であること、かつ 正常な遺伝情報DNAの伝達が期待できる精子であることを裏付けるデータを確保できた上で、AIHを行わなければ成果には繋がりません。
精子妊孕性( DNA損傷がない受精能をもった正常な精子であること)を正確に見極めるためには、高精度な精子検査(精子精密検査)を実施する必要があります。多くの不妊治療施設で行われている一般精液検査では正確に検知できませんので、注意が必要です。
【注意点:女性側】
正常な排卵(有効排卵)ならびに 正常に受精できる卵管環境(卵管の通過性)が認められることが事前に確認(検証)されていることが不可欠です。
解りやすく言えば、生命誕生の半分の遺伝子保証を担う卵子側に、成熟した卵子が育って排卵している可能性が高いこと、かつ 卵子と精子が巡り会う場所になる卵管の疎通性が良好であることを裏付けるデータを確保できた上で、AIHを行わなければ成果には繋がりません。
これまで一般不妊治療(タイミング指導・人工授精)について解説してきましたが、以下に高度不妊治療(生殖補助医療:体外受精・顕微授精)についてお話します。これらの技術は、精子の数が少ないのであれば「限られた精子で受精の可能性を高める」、精子の運動能力が低いならば「精子が卵子に泳ぎ着くまでのエネルギー消費を少しでも抑える」といった、「できるだけ卵子の近くに精子を届ける」という考え方を反映した技術です。
【ステップ3:体外受精IVF】
「体外受精 IVF」は、体外に取り出した卵子と選択的に回収した運動精子を一緒に培養し、受精した受精卵が胚に成長できた場合に子宮内に移植(胚移植)する技術です。


本法が導入された当初は、卵管が障害されていることが原因で妊娠できない女性のために用いる治療法でしたが、現在は適応範囲が広がり、その他の不妊原因の治療法としても使われています。
【注意点:男性側】
精子の妊孕性(にんようせい:妊娠させられる力)があることが事前に確認(検証)されていることが不可欠です。
解りやすく言えば、生命誕生の半分の遺伝子保証を担う精子側に、受精させられる機能が正常に備わっている精子であること、かつ 正常な遺伝情報DNAの伝達が期待できる精子であることを裏付けるデータを確保できた上で、IVFを行わなければ成果には繋がりません。
精子妊孕性( DNA損傷がない受精能をもった正常な精子であること)を正確に見極めるためには、高精度な精子検査(精子精密検査)を実施する必要があります。多くの不妊治療施設で行われている一般精液検査では正確に検知できませんので、注意が必要です。
【ステップ4:顕微授精ICSI】
「顕微授精 ICSI」は、精子の数が少ない場合や運動率が低い場合などの男性不妊や、受精障害など、体外受精では受精が難しい場合に、見た目で元気に泳いでいる精子(運動精子)を 1 匹だけ細い針の中にピックアップして卵子に穿刺、精子を注入して人工的に授精させる技術です。
生殖補助医療の中でも顕微授精は、① 受精に必要な精子が1匹で済むこと、② 人工的に授精させられる(受精率を上げられる)こと等、利便性が高いことから適応範囲が広がり、生殖補助医療の主流になっています。

【注意点:男性側】
精子の妊孕性(にんようせい:妊娠させられる力)があることが事前に確認(検証)されていることが不可欠です。
生命誕生の半分の遺伝子保証を担う精子側に、最低限、 正常な遺伝情報DNAの伝達が期待できる精子であることを裏付けるデータを確保できた上で ICSIを実施しなければ、安全なICSIを行うことはできません。ICSIには、本来受精できない精子や受精したら危険な精子(生まれてくる子供に何かしらの異常を発症させる可能性がある精子)でも人工的に授精させてしまうリスクがあります。ここに「ICSIの怖さ」があります。慎重に精子の取り扱いをしなければ安全なICSIの実施には繋がりません。
精子妊孕性( DNA損傷がない受精能をもった正常な精子であること)を正確に見極めるためには、高精度な精子検査(精子精密検査)を実施する必要があります。多くの不妊治療施設で行われている一般精液検査では正確に検知できませんので、注意が必要です。
【重要ポイント】以上、一般不妊治療(タイミング指導・人工授精)と高度不妊治療(生殖補助医療:体外受精・顕微授精)について解説してきましたが、順番にステップアップする治療法が合っている不妊病態のケースもありますが、医療機関に最も求められることは、それぞれの夫婦の病態に「適正な治療法が何か」ということを正確に見極めること、その上で「安全かつ有効な個別化治療指針」を具体化させて ご提供できることです。
次に、それぞれの治療法への切り替え時について解説します。
ステップアップするタイミングは?~メリットとデメリット~
【タイミング指導 ⇒ 人工授精 AIH へのステップアップタイミング】
タイミング指導を 3回、多くても 6回 実施しても妊娠に至らない場合には、人工授精 AIHへのステップアップを検討されることをお勧めします。
AIHは自然妊娠に近い妊活法ですので、色々な側面から治療に伴う負担が少ないというメリットがありますが、一方で気をつけるべき点、デメリットがあります。
【人工授精 AIH の欠点:必読です!】
- AIHは精子側のサポートのみの技術になりますので、結果にならなかった場合に、卵子側の情報を得ることができません。よって、成果に繋がらなかった原因を把握するための情報を収集し難いことから、次への改善策を具体化させ難いという欠点があります。
- AIHにより濃縮した(たくさんの)精子を子宮内に注入することにより、精子が抗原になり、精子に対する抗体(抗精子抗体)が産生される生体反応が起きるリスクがあります。抗精子抗体が陽性になることにより自然妊娠することは不可能になりますので、医原的な(AIHによる医療行為が原因になった)絶対的不妊症を導かないためにも、AIHの実施回数は 3回程度までにすることをお勧めします。
【人工授精 AIH ⇒ 体外受精 IVF へのステップアップタイミング】
人工授精 AIH を多くても3回 実施しても妊娠しない場合には、成果に繋がらなかった原因を把握するためにも、体外受精 IVFに切り替えて卵子側の情報を得ることが必要です。治療を通して受精に関する情報を収集できることにより、次への改善策を具体化させられることに繋がる可能性があります。とくに女性の年齢が高い場合には、卵子側の情報は重要になります。
【体外受精 IVF ⇒ 顕微授精 ICSI へのステップアップタイミング】
正直なところ、顕微授精 ICSIにはリスクがあります。できることならば、なるべくICSIを回避すべき技術努力が不可欠です。しかし、精子に卵子と受精する力がない場合には、ICSIをせざるを得ません。また高度な精子選別技術により、高精度に高品質精子(健康な命に繋がる可能性が高い安全な精子)を分離精製できでも極端に数が少ない場合にはICSIへの展開を考慮しなくてはなりません。その際には、穿刺注入する1匹の精子品質管理(精子の質的な見極め)を徹する必要性があり、そこが ICSIの安全確保に繋がります。慎重なICSIの適応が望まれます。
まとめ
黒田IMRは、院長を含む精子研究チームが 長年にわたり開発してきた『高度な精子側の関連技術』を駆使した『安全性と有効性の高い男性不妊治療』をご提供しています。
まずは、精子の質を正確に見極めることができる『分子生物学的な手法による高精度な精子検査』を受けにいらしてください。科学的な根拠に基づいた詳細情報を把握できますので、その方の精子のタイプに最適かつ安全な治療法を具体化させることが可能になります。精子側からステップアップ法に基づいて治療を進めていくことが向いているタイプなのか、そうではないのか、事前に正確な情報収集をすることが、効率的な上手な妊活に繋がります。