男性の妊活でサプリは精子に有効?生活習慣も含めて詳しく解説

男性妊活サプリの画像

色々な情報に溢れる現代社会において、インターネットや雑誌にも、男性の妊活情報が多く取り上げられるようになりました。その中には、「〇〇を飲めば、精子が増える」とか、「〇〇を飲めば、精子の質が上がる」といった、根拠の不明確な情報をたくさん目にします。

そのような社会的な背景もあるかと思いますが、私のもとにご相談にみえる多くの男性不妊の大半の方は、様々な「精子サプリ」を飲んでいらっしゃいます。あなたは、精子に関するサプリメントについて、どのような情報をお探しですか?もしかしたら、パートナーにサプリメントをすすめた方が良いのかな?と考えている方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、精子に関するサプリメントの真実を語ります。ぜひ読んで頂き、お役立てください。

また当院を受診される前に、他のクリニックで、「精子が少ない」「精子の動きが悪い」「男性不妊です」と診断を受けたご夫婦から多くの質問を頂きます。よくある質問についても回答しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

サプリメントは精子に有効なのか?

医薬品は、薬機法で「病気の診断、治療、予防に使用することを目的とした薬品」と定められています。また副作用に伴うリスクがあります。一方でサプリメントは、薬機法上、薬の作用があってはならず、あくまでも「栄養素を補充してくれるだけの食品」という定義です。

ですから一般的には、医薬品は専門家が管理して適切な処方をしてもらわないと危険なイメージがありますが、サプリメントは自分で管理できて、取り扱いも簡単で安心という認識を持たれている方が多いかと思います。

しかし、ここで重要な話をします。あくまでも食事の補助としてサプリメント適量を摂取していれば問題ありませんが、中には過剰に摂取することにより健康被害を招くものもありますまた結論から申し上げますと、サプリメントで精子は増えませんし、劣化した精子の質を改善させることもできません。この点を踏まえて、サプリメントの選択をしてください。

【重要ポイント】妊娠を希望しているご夫婦が「精子の状態が悪い」と言われ、「これを飲めば精子が増える?」「これを飲めば精子の質が上がる?」という情報に心を動かされる気持ちはよくわかります。

しかし治療対象になる男性不妊の方の精子の問題(精子異常)の大半は、新生突然変異(遺伝情報DNAのコピーミス)により起きてきますので、先天性の遺伝子異常になります。サプリメントには遺伝子異常を治す効果はありませんので、残念ながらサプリメントでどうにかなる問題ではありません。

インターネット上にある情報は「できること」を強調しがちですが、「できないこと」もたくさんあるということを知ってください

1.亜鉛は精子を増やすの?

亜鉛の精子の画像

前立腺液の中の亜鉛濃度は、血清(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分)の300倍以上と豊富で、精巣では精子の形成(言い換えれば、細胞増殖)が盛んに行われていることから、「亜鉛を摂取すると細胞増殖しやすくなり、精子が増えるのではないか」という考え方が一般的に定着しています。実際に不妊治療施設で「精子が少ない」と診断された男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取しています。

それでは、そもそも亜鉛は、どのような成分なのでしょうか? 亜鉛は、細胞の増殖に不可欠な必須微量元素です。つまり、健康維持に必要な成分ですが、その必要量は微量でいい、ということです。成人男性が1日に必要な亜鉛の量は10mg程度で、これは通常の食事をしていれば十分摂取できる量であり、極端な欠乏を心配する必要はありません

【注意】むしろ亜鉛には、少しの過剰摂取でも健康被害に結び付く危険性がありますので、注意が必要です。具体的に説明しますと、亜鉛を過剰に摂取すると銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招いてしまいます。そのため、亜鉛のサプリメントは短期的に飲むなら問題にはなりませんが、長期的に摂取し続けることはおすすめできません。最も安全で簡単な亜鉛の摂取方法は、毎日の食事で偏食を避けてバランスよく多くの品目を摂取することです。

2.アルギニンは精子を増やすの?

アルギニンと精子の画像

精子のDNAを構成するタンパク質「プロタミン」内のアルギニンの占める割合が高いという点から、「アルギニンを摂取すると精子が増えるのではないか」といった発想になったのでしょうか。亜鉛サプリメント同様に、「精子が少ない」と診断された男性の多くの方が、アルギニンも摂取されています。

そもそもアルギニンは非必須アミノ酸に分類されます。つまり、体内で生成できる成分ですので、サプリメントとして摂取する必要がありませんまた赤身の肉、鶏肉、乳製品、魚など幅広い食品にも多く含まれていますので、通常の食生活をしていれば過不足なく摂取できます。正直なところは、アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません

3.コエンザイムQ10は精子を増やすの?

コエンザイムQ10の精子の画像

コエンザイムQ10は、人の生命維持や活動に必要なエネルギーを作り出す「ミトコンドリア」の働きを助ける抗酸化物質で、高い抗酸化作用があるため、「アンチエイジング」や「造精機能を改善する」と説明している不妊治療施設も少なくないようです。

しかし、そもそもコエンザイムQ10は、もともと体内で必要とされるエネルギーに合わせて生成・分解できる成分ですので、コエンザイムQ10を積極的に摂取する必要はありません。加齢により減ってしまうのも「必要とするエネルギー基礎代謝が減るから」という理由です。コエンザイムQ10をたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません

過度な運動は精子に悪い影響があるのか?

活性酸素は、細胞のDNAや細胞膜、動脈の内膜等を傷付けることがあります。その結果 老化、がん、心臓の病気に繋がる可能性が生じます。しかし実際のところ、私たちの体の細胞には、活性酸素で傷ついた細胞を修復したり排除したりする仕組みがあるため、適度な範囲内の運動量であれば、日常生活の中で発生するレベルの活性酸素や酸化ストレスが精子異常に直結するという心配はありません

【注意】ただしこの見解は、精子が造られる過程における新生突然変異(DNAのコピーミス)により起きてくる精子の問題(精子異常)は、先天性の遺伝子異常になりますので対象外になります。

酸化ストレスは精子に悪い影響があるのか?

活性酸素は体に酸化ストレスを与えます。体内の活性酸素を減らそうと意識して、ビタミンCやビタミンEといった抗酸化物質を含んだサプリメントを飲んでいるという方も多いですが、4種類ある活性酸素全てに対応できるものはありません。

むしろ、毎日の食事でバランスよく多くの品目を摂取するように心がけていれば、日常生活の中で発生するレベルの活性酸素や酸化ストレスが精子異常に直結するという心配はありません

【注意】ただしこの見解は、精子が造られる過程における新生突然変異(DNAのコピーミス)により起きてくる精子の問題(精子異常)は、先天性の遺伝子異常になりますので対象外になります。

どのような食事が精子にお勧めか?

精子にいい食事の画像

体内の活性酸素を減らそうと意識するのであれば、様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)、お茶、大豆などを積極的に摂取することが効果的です。バランスのよい食事を取っていれば、日常生活の中で発生するレベルの活性酸素や酸化ストレスが精子異常に直結するという心配はありません

【注意】ただしこの見解は、精子が造られる過程における新生突然変異(DNAのコピーミス)により起きてくる精子の問題(精子異常)は、先天性の遺伝子異常になりますので対象外になります。

精子のためにブリーフよりトランクスにすべき?

ブリーフとトランクス

一般的に造精機能を維持するためには、精巣上体を含めて精巣の周囲が体温より低い温度であることが必須です。このことから、熱を溜めないというイメージで「ぴったりとしたブリーフで精巣周辺の温度を高めることが良くない」という考え方が定着し、「精巣にはブリーフよりも通気性の高いトランクスの方が良い」という話がよく出てきます。しかし、いつもぴったりとしたブリーフを着用している男性が総じて不妊だという事実は無く、過度な心配は不要です。

ノートパソコンは精巣(精子)に悪い影響があるのか?

精子とノートパソコンの画像

日々の診療の中で「ノートパソコンを膝に置いて作業することで、精巣の周囲に熱が溜まり、造精機能に障害を与えるのではないでしょうか?」という質問も多くいただきます。

しかし、最近のノートパソコンは省電力であり、発熱は最小限に抑えられていますので、過度な心配は不要です。パソコンの熱による悪影響よりも、長時間同じ姿勢で作業を続けることで下半身の血行不良が生じることの方が心配です。定期的な休憩を挟んだり、小まめに立ち上がったりして作業すれば、さほど神経質になる必要はないです。

まとめ

男性妊活サプリのまとめ

精子異常が誘発される原因が、過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲などの後天性の環境因子の場合には、それぞれの原因を取り除くことによって、精子異常の改善を期待することができます

しかし実際の不妊治療現場で最も問題となる点は、先述したように、治療対象になる精子異常の大半には、先天性の遺伝子異常が関わっているという点です。この場合は、「バランスのよい食生活を心掛ける」「適度な運動をする」等の身近な環境を整えて生活習慣を見直したとしても、精子異常の改善は期待できません。また薬やサプリメントも遺伝子異常を治すことはできませんので、残念ながら効果は認められません。

ここで重要なポイントは、妊活を考え始めたらできる限り早く、精子の質を正確に調べられる精密検査を行いましょう。なぜならば、「精子」からの取り組みが最も効率的な妊活になるからです。

黒田IMRでは、治療開始前に、分子生物学的な高度な技術による高精度精子検査(精子精密検査)を実施し、「遺伝子異常が関与している精子異常のタイプなのか、そうではないのか」を正確に見極めた上で、無駄を省いた「効率的かつ適正な」妊活指導をしています。まずは自身の精子のタイプを正確に把握することが大切です。科学的根拠に基づいた精子詳細情報を取得できることにより、新しい道が開ける可能性があります。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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