そもそも不妊症とは?不妊の定義

不妊症とは、夫婦が避妊せずに通常の性生活を続けた場合に、2年以上たっても妊娠に至らない状態をいいます。 ただし、妊娠に前向きに努力して半年位経過しても妊娠しない場合や、女性の年齢が高かったり (35歳以上、とくに40歳代)、婦人科的基礎疾患に対する手術の経験がある場合には、不妊である可能性が高いと考えて、なるべく早い時点で検査・治療を開始されることをお勧めします。
不妊症の原因は?意外と多い男性側の不妊症!

不妊になる原因は、ご夫婦毎に異なり多種多様です。ご夫婦それぞれの幾つもの原因が複雑に絡み合って不妊になっているケースが大半ですので、治療内容のみならず、リスクや成功率も皆さん一律同じにはなりません。
世間一般では、「赤ちゃんができない、不妊症かもしれない?」となりますと、その原因は女性側にあると思われがちです。しかし実情は、男性側に原因がある「男性不妊」が不妊の約半数を占めています。つまり、男性不妊が意外と多いということです。しかも男性不妊の大半が、精子に何かしらの問題があり、精子を上手く造ることができない「造精機能障害 ぞうせいきのうしょうがい:精子異常」です。精子異常を発症させている原因が検査により明確になり、手術などで改善が期待されるケースがある一方で、なかなか治療が難しいケースが多いのも事実です。
とくに体外受精や顕微授精といった生殖補助医療の治療対象になる精子異常は、一般的に言われているような「精子数が少ない」とか「運動率が低い」など、一般精液検査で用いる普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で見ただけでは見極めることができない、精子の中に隠れた異常(これを『隠れ精子異常』と言っています)として発現する傾向が強いので、治療現場では見逃されがちです。
具体的に言えば、精子DNA損傷をはじめとする多様な機能異常であったり、精子の頭の中に隠れた構造異常だったりします。隠れ精子異常は『新生突然変異』という、父親から受け継いた遺伝子ではなく、突発的に発生した不運な遺伝子の突然変異(遺伝情報DNAのコピーミス)に起因して発症します。つまり、隠れ精子異常の殆どは先天異常(先天性)ですので治療が難航します。
また隠れ精子異常の種類と程度、すなわち「どのような精子異常なのか?どの程度 重篤なのか?」に関しましては個人差があり、一律同じ異常パターンではありません。ということは、遺伝子の突然変異が複雑に関与した結果が、隠れ精子異常として現れるということです。
【重要ポイント】男性不妊の大半は「精子の問題」で、その精子の異常には「遺伝子の問題」が関与している場合が多いので深刻です。結論から申し上げれば、「精子の問題をいかに解決できるか!が不妊治療の鍵になる」ということです。
男性不妊の原因は3つ

男性不妊になる原因は、以下の3つに分類されます。
1.精巣で精子を造る機能に問題がある「造精機能障害:精子異常」
私が日々の診療を重ねる中で、多くの方が精子形成に関して誤解しておられる印象を受けますので、まずは「精子を造る過程」について正しく解説しましょう。
精子の形成は精巣で開始されますが、精巣で造られた精子は未成熟の(質が低い)状態にあります。精巣の隣にある精巣上体(せいそうじょうたい)という場所に移動してから、精子の成熟(質の向上)を進めます。成熟した精子は、精巣上体で待機をしていて、射精する時に精嚢腺や前立腺の分泌液と一緒に精液の中に混在して体外に排出されます。
ですから、精巣に精子が溜まっているわけではありません。また精巣で造られた精子が質的に保証できる(正常な妊孕性を持っていて健康な命に繋がる)精子というわけではありません。
次に専門用語の説明をしましょう。精巣で精子を造る機能を「造精機能」といい、その精巣で精子を造る力が低下していることを「造精機能障害・造精機能低下」といいます。解りやすく言い換えれば、造精機能障害では、精巣で精子を上手く造ることができないわけですから、精子に何かしらの問題が発症してくるということ、つまり「精子の異常」が起きてくるということです。実は、この精子異常を起こす造精機能障害が、男性不妊の大半(約90%)を占めています。
~治療対象になる造精機能障害・精子異常の大半は先天性~
精子異常は、一般的に男性不妊の診断の際に指摘されるような「精子の数が少ない:精子数の減少」とか、「泳ぎが乏しくて元気がない:運動率の低下」といった、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡で観察しただけで検知できる異常として発現する場合もありますが、男性不妊の治療対象になる精子異常においては、実は高い割合で 位相差顕微鏡では検知できない、精子DNA損傷をはじめとする多様な機能異常として、精子の中に隠れ潜んだ異常(隠れ精子異常)として発現してきます。
前述していますが、隠れ精子異常は『新生突然変異』という、生まれながらに精子形成に関わる遺伝子の突然変異(DNAのコピーミス)に起因して発症します。つまり、男性不妊の大半を占める精子異常は先天性ですので治療が難航します。
~先天性の精子異常には、サプリメントや漢方は効きません~
このような隠れ精子異常が原因になる難治性男性不妊(一般的には、原因不明の特発性造精機能障害という枠内に混在してしまっています)の方に、生活習慣の改善や抗酸化剤サプリメント(コエンザイムQ10ほか)、漢方薬などで対応されているケースもありますが、正直なところ先天性の遺伝子の問題が関与しているケースが大半ですので、残念ながら それらの効果を期待することはできません。
~後天性の精子異常は、原因を治療できれば、改善することも~
内分泌疾患、精索静脈瘤、耳下腺炎(おたふくかぜ)による精巣炎や、停留精巣(胎児のころは腹腔内にある精巣が生後数か月たっても陰嚢の中におりてこない病態)等が原因で、造精機能障害(精子異常)になるケースもあります。中には、治療(手術など)により精子の改善を期待できる場合もありますが、なかなか治療効果が認められないこともあります。
2.勃起や射精ができない「性機能障害」
性機能障害では、精子形成や精子輸送路には問題が認められませんが、勃起や射精といった性機能に問題があり通常の性交ができない場合で、近年増加傾向にあります。
妊活においては、排卵日に性交をとらなくては!という思いがプレッシャーになり、上手く勃起できないこともあります。バイアグラなどの薬剤により勃起障害を改善できるケースも少なくありませんので、医療機関に相談することも視野に入れてください。
また勃起はできても、なかなか射精できないという、射精障害の場合もあります。心因性の関与もあり、なかなか治療が難しいこともありますので、医療機関に相談してください。
3.精子が通過する通路が詰まっている「精路通過障害」
精路通過障害は、精子形成には問題が認められませんが、精子の通り道である精管の通過に問題がある場合です。具体的には、精路の炎症(精巣上体炎や精管炎など)、逆行性射精(内尿道口の閉鎖不全により射精時に精液が膀胱へ射精される場合)、閉塞性無精子症(精子形成は正常で精子機能には問題が認められませんが、射精する通路が閉塞されている場合)などが挙げられます。
閉塞している場所を手術(顕微鏡下精路再建術)して精子が通過できるようにすることも原理的には可能ですが、現実問題としては難しいことが多いのも事実です。
男性不妊の検査

男性の妊活において、初診時に問診と診察がありますが、この点は内科をはじめ他の診療科を受診した際と同様です。
具体的な検査についてですが、最初に行う検査であり、またメインになる検査は『精液検査』になります。その他、血液検査(ホルモン値、性感染症、必要に応じて染色体などを検査)、超音波検査(精索静脈瘤・精巣腫瘍などの有無を診る)を行いますが、以下に詳しく解説します。
1.精液検査
精液検査は、男性側の不妊検査の中で最も重要な検査です。
現在、多くの不妊治療施設で行われている一般精液検査では、普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で、主に精液中の精子の「運動率」「精子数」「形態」「精液量」等を観察します。その結果、「運動精子=良好精子」という認識が治療現場で定着していることもあり、運動精子の数をカウントして、世界保健機構 WHO の診断基準に達していなければ「男性不妊」と診断しています。具体的に言えば、精子濃度 1,600万/ml未満ならば「乏精子症」、運動率が 42%未満ならば「精子無力症」、正常形態の精子が 4%未満ならば「奇形精子症」と診断しています。
ここで【注視すべき重要ポイント】は・・・
- 男性不妊の約90%は造精機能障害による精子異常であり、治療対象になる精子異常の大半は隠れ精子異常として発現してくる点です。
- また隠れ精子異常が発現する背景には『新生突然変異』という、生まれながらに(先天性に)精子形成に関わる遺伝子の突然変異(DNAのコピーミス)が関与しているため、治療を難航させる点です。
- それにもかかわらず、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡では検知することができないという点です。
- さらに最も怖い点は、隠れ精子異常が見逃されたまま生殖補助医療に用いられ、妊娠、出産に至った場合に、生まれてくる子供に何かしらの異常を発症させるリスクがある点です。
【必読ポイント】これらの注視すべきポイントが治療現場では直視されないまま「運動精子=良好精子」という認識で治療が行われている点に、『現状の不妊治療の問題点』があり、『一般精液検査の弱点』があります。
そこで、私たち精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページにて解説)は、隠れ精子異常を正確に検知できる、分子生物学的な高精度な精子検査法を開発しました。以下 4枚 の写真をご覧ください。
運動精子の中にも
①頭部空胞精子:精子頭部の中に空胞(穴)が開いている
② DNA断片化陽性精子:DNA鎖が切断されて連続性が失われるので顆粒状を呈している
③ 細胞膜損傷精子:細胞膜(精子を包んでいる膜)が損傷されている(赤色に染色)
④ 先体異常精子:先体(卵子に侵入、受精する際に重要な機能を果たすところ)が傷ついている(赤色に染色)
など、多様な異常が隠れ潜んでいるということです。




【コラム】不妊原因の約半数を占める精子の問題、黒田IMRの精液検査で分かる「隠れ異常精子」について詳しく解説
【必読すべき重要ポイント】
現在、DNA断片化を調べる検査法の中で、精子DNA断片化指数(sperm DNAfragmentation Index : sperm DFI)が主流になっています。
しかし、DFIは、精子DNAの僅かな傷(軽度なDNA断片化)を検出できないという点(DFIの検査精度)に課題があります。
正直なところ、『健康な命を誕生させる』という観点から申し上げると、精子DNAの僅かな傷(軽度なDNA断片化)こそが 生まれてくる子どもの異常に繋がるリスクがあり、最も怖い相手になります。
2.血液検査
精子が造られる精巣からは、男性ホルモンが分泌されていますが、その司令塔は脳の下垂体から分泌されるホルモンです。必要に応じて血中のホルモン値(FSH、LH、テストステロン、プロラクチンなど)、性感染症(クラミジア、淋菌、梅毒、HIVなど)の有無、染色体などを調べるために血液検査をします。
3.超音波検査
必要に応じて超音波検査を行い、精巣の状態(大きさ、石灰化など)、精索静脈瘤の有無(結果によって手術の必要性を判断する)、精巣腫瘍の可能性などを調べます。
まとめ
男性不妊の場合、とくに「精子異常」は深刻な問題です。結論から申し上げれば、精子の問題を なるべく早い時点で正確に把握して、その方の「精子異常のタイプに合った、適正な治療法を選択できるか」、言い換えれば、「精子の問題をいかに解決できるか!」が不妊治療の鍵になります。とくに不妊男性の精子には 隠れ異常が認められる傾向がありますので、治療を開始する前に精子の精密検査を受けることをお勧めします。
黒田IMRは、精子側の関連技術に特化しています。その背景には、院長が現在に至るまでの約40年、ヒト精子の研究を専攻し、研究チームと共に、安全かつ有効な精子側の関連技術を開発してきたという裏付けがあります。とくに男性不妊の検査と治療に力を注いでいますので、ご心配の方は一度ご相談にいらしてください。