- 男性不妊治療の専門クリニック│黒田インターナショナルメディカルリプロダクション
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更新日:2023.09.19
精子を選ぶ基準は何?
本来、精子と卵子が自然に出会って精子が自分の力で卵子の中に入って受精していくためには、「先体反応」と言われる一連の生理学的なプロセスが起きることが必須です。この先体反応のプロセスをバイパスする技術が顕微授精になります。つまり、顕微授精は針で卵子に穴を開けることにより、先体反応のプロセスを経ずに人の手を介して人工的に授精をさせる技術になりますので、顕微授精に用いる精子は、少なくとも正常な先体反応の機能を持った精子であり、かつ正常な先体反応の機能を誘起できた精子であることが前提になります。勿論のこと、先体機能のみならず他の精子機能も正常であることが大前提になる訳です。ですから、この先体反応をはじめ、多様な精子の機能が正常か異常かを見極めることは極めて重要であり必須になります。
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『運動精子=良好精子』という精子性善説が基準になっているが…
しかし実際のところ、顕微授精に注入する1匹の精子は、大まかに精子の頭部形態(頭部外周形状)が楕円で泳いでいれば良い、つまり楕円頭部の『運動精子=良好精子』という精子性善説を基準にして選ばれています。しかし、ヒト精子の場合は形成過程でDNA損傷を修復する能力を失うことにより、DNA修復酵素を持たない状態になりますので、精子形成が正常である男性の運動精子の中にもDNAが損傷された機能異常精子が一部混在してきます。
ヒト精子では「性善説」は成立しない
即ち実は、ヒト精子では性善説が成立しないため、「運動している」ことが精子機能を保証するものではありません。つまり、ヒトでは形態良好な運動精子の中には、先体反応を起こす先体が欠損している精子(先体欠損精子)や先体反応の機能が障害されている精子(先体機能異常精子)、先体の下の部分に穴が開いている状態の精子(頭部空胞精子)、DNAが損傷している精子(DNA断片化陽性精子)等、多様な機能異常を有する精子が含まれ、しかも個人差が大きいのです。
精子機能の異常は簡単には見極められない
また、このような精子機能の異常は、顕微鏡で簡単に認識できる精子数や運動率を見る一般的な精子検査では見極めることできません。しかし、高精度な分子生物学的な解析技術を確立したことにより、多様な精子機能を精密に調べられるようになりました。詳しくは、精子機能の精密検査の項目を参照ください。
顕微授精は「精子の品質の悪い方」には不向き
顕微授精という技術は、必要とされる精子が1匹でいいことからもわかるように、精子の数が少ないという精子の量(数)的不足を補う技術であり、DNA損傷をはじめとする精子の質(機能)的異常をカバーすることはできません。つまり、様々な精子機能が正常であるからこそ顕微授精が可能となりますので、本来 顕微授精は精子の状態が悪い、精子の品質が悪い方には最も不向きな治療なのです。
精子の品質管理が不妊治療の「安全性」に直結
だからこそ、『命を生み出す』生殖補助医療においては『どのような性質を持った運動精子を卵子に注入するか』が極めて重要であり、精子の品質管理が不妊治療の安全性に直結します。一般的に精子の役割は卵子と受精することにあるように思われておりますが、精子には出生児の遺伝情報DNAの50%を担うという大きな責任があることを踏まえ、治療する前の段階で精子が質的に良好で精子機能が正常であること、すなわち、穿刺注入できる安全なレベルであることを確認することが顕微授精実施の前提となります。この前提知識と機能異常のない高品質精子を選別・評価する技術が普及していない現状では、顕微授精の実施はより慎重であるべきであり、本来は治療に用いる際には機能異常精子を積極的に排除する技術が不可欠になります。
顕微授精児の健常性に関与する精子1匹を選び、卵子に穿刺注入するという一瞬の作業が『命の選択』になり、また顕微授精は卵子における『微小細胞外科手術』という概念に入る『命を造り出す医療行為』になることを決して忘れてはいけません。
さいごに
最語に・・・繰り返しになりますが、もしかしたら検出できていない 隠れている精子機能異常が主たる不妊原因かもしれません。「男性不妊、即、顕微授精」に展開する前に是非、精子機能の精密検査を実施して「顕微授精しても大丈夫なレベルの精子であるか否か?」を見極めてください。
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監修者│黒田 優佳子
黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。