公開日:2022.10.07 
更新日:2023.07.19

男性不妊に向き合う夫婦へ│妻・夫へのメンタルケア(ストレス対策)について

監修者 | 黒田 優佳子
男性不妊治療の専門である黒田IMRの院長

精子学の研究者であり医師である視点から、
不妊治療における誤解やリスクを解説

男性不妊に向き合う夫婦へ│妻・夫へのメンタルケア(ストレス対策)について

妊娠できないのは女性の問題だけでない時代へ

夫婦で妊活を始めて「なかなか妊娠しない」、もしかしたら「不妊かもしれない?」と不安を感じた時、最初に専門医療機関を受診するのは、多くの場合 妻側になります。夫側が真っ先に受診するというケースは極めて少なく、未だに、妊娠できないのは「女性側の問題?」と思われがちです。

しかし実は、不妊の約半数は男性側に原因がある「男性不妊」です。しかも、男性不妊の約9割は、精子に問題がある「精子異常」になります。つまり不妊は、女性だけの問題ではなく、男性に原因がある場合も多いことを先ずは認識しましょう。

男性不妊が原因でも女性に多くの負担がかかる

不妊の主な原因が夫側にある、男性不妊の場合においても、体外受精や顕微授精等の治療が開始されますと、妻側には大きな負担が生じます。具体的に言えば、夫よりも どうしても通院回数が多くなり、時間的に拘束されます。そのため、仕事をしている女性は、仕事と治療のスケジュール調整に苦労します。また体外受精や顕微授精等の生殖補助医療は、精神的にも肉体的にも苦痛を伴う治療ですので、ストレスのかかり方が日増しに強くなります。

そのような点を夫婦で十分に理解して、お互いを「尊重して支え合っていく気持ち」が、極めて大切になります。夫婦の気持ちを一つにして、お互いを「思いやる心」を忘れずに、前向きに頑張ることができれば、夫婦円満に治療を進めて、終えることができます。

夫婦間で寄り添う姿勢の重要性

上述しましたが、不妊治療においては、特に妻側に大きなストレスが伴いますので、妊活に向けて夫婦の意識(気持ち)を共有することが必要不可欠です。そのためにも、受診前に夫婦で十分に話し合い、二人揃って専門施設を受診されることが理想的です。

不妊治療を開始するにあたり、お互いを「尊重して思いやる気持ち」の初期設定が しっかりされていれば、その後に辛い問題に遭遇したとしても、夫婦が一緒に乗り越える方向に力を合わせることができるかと思います。

私の36年の経験上、夫婦の気持ちに温度差があり、特に夫に妻を労う姿勢が見られなかった場合は、治療を通して夫婦の負の部分ばかりが強調されてしまい、結果として離婚(裁判)になられたケースも多く見ております。

不妊治療は、夫婦の絆(愛情)を一層深めることにも繋がる一方で、夫婦の心の溝を深める可能性も秘めていますので、より慎重に ご検討の上 「夫婦の心を一つにしてから着手する」ことを お勧めします。

メンタルケアにつながる行動例

不妊治療に限らず夫婦円満の鍵は、お互いに「感謝する気持ち」を忘れず、できれば言葉に出して心から「ありがとう」を言えることにあります。

私の患者夫婦の中で、ご紹介したいケースがあります。夫が、治療中は極力早く帰宅して、買ってきた食材を用意するにしても食事の用意から風呂の準備、洗濯等を積極的にこなされたケースです。もちろん、その後の片付けもです。

この夫婦の不妊病態(不妊の状態)は 重篤でしたが、結果として成功されて元気な赤ちゃんが誕生しました。ご夫婦は、「黒田先生に専門性の高い治療技術を委ねているのだから・・・我々は色々考えず無心になり、夫婦でやれることを楽しくやり切る!に徹します」と仰っておられました。その素敵な「夫婦愛」と主治医への「信頼愛」が、治療の成功を導き寄せたのでしょう。

大きなストレスを伴う不妊治療において、夫婦の気持ちを一つにして、お互いを「尊重して思いやる気持ち・心」を忘れずに、頑張っていただきたいと思います。

パートナーへの向き合い方

患者側は「原因と診断」を求めて色々な検査を受けますが、得られた検査の結果から「判断と決断」を求められることは、不妊治療だけではなく多々あります。しかし、医師からの説明内容が厳しいものであった場合には、感情面が重なり、現実を受け入れることができず、最終的な夫婦の見解を決断するまでに かなりの時間を要するケースが多い傾向にあります。特に、不妊治療において夫と妻の気持ちに温度差がある場合には、最終決断に至るまで時間がかかります。

繰り返しになりますが、不妊治療には大きなストレスが伴いますので、夫婦の気持ちを一つにして、お互いを「思いやる心・感謝する気持ち」を忘れずに頑張れることが何よりも大切になります。

私の患者夫婦の中で、ご紹介したいケースがあります。夫は、重度な先天性の精子異常(遺伝子異常)で、かなり厳しい展望でした。妻には不妊原因が認められませでした。夫は妻に「僕と結婚しなければ、精子が健康な男性と結婚していたならば、こんなにも悲しい辛い思いをさせることはなかったのに」と目を潤ませて話されました。その言葉を受けて妻は夫に「貴方との子供は欲しいけれど、子供が私の人生のすべてではない。貴方との人生があって、その上で貴方との子供だから欲しいのよ」と。あまりに素晴らしい夫婦尊重愛と重厚な言葉に私も胸が熱くなりました。

なぜ、顕微授精は危ないの?男性不妊に特化した当院ならでは治療方針

まとめ

前述したように、男性不妊が不妊原因の約半数を占め、男性不妊の約9割が精子異常ですが、精子異常の主なたる原因は遺伝子の突然変異による異常(先天異常)ですので、正直なところ予防法はなく、また治療は困難な場合も多いというのが真実です。ですから、精子異常の不妊治療は難航します。
しかし、遺伝子の突然変異ということは、父親から受け継いだ遺伝子ではなく、突発的に発生した不運な遺伝子の異常な訳です。ですから、夫側の視点で申し上げれば、「夫も被害者」です。その点を深く理解して、妻側も夫の立場になり、「理不尽な現実」を暖かく見守っていただきたいと思います。

繰り返しになりますが、原因が何であれ、不妊治療には大きなストレスが伴います。不妊治療を通して、夫婦の絆(愛情)を一層深めることもできます。しかし一方で、夫婦の心の溝を深め、破局を招く可能性も秘めています。

夫婦円満に不妊治療をするためには、何よりも夫婦の気持ちを一つにして、お互いを「思いやる心・感謝する気持ち」を共有できることにあります。お互いに心から「ありがとう」を言えるように。。。

このコラムを読んでいるあなたにおすすめの記事
監修者│黒田 優佳子

Author information

監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
日経woman

page