目次
男性不妊の大半が精子異常!その原因の多くは先天性!
日本では「不妊になる原因は女性側にある」と思われてきた歴史的な背景がありますが、実は不妊の約半数は男性側に不妊原因がある「男性不妊」です。しかも男性不妊の大半が、精子に何かしらの異常がある「精子異常」です。
治療対象になる精子異常の中には、泌尿器科的な基礎疾患があることが原因で生じる場合もあり、このケースでは手術により改善が期待できることもありますが、その比率は高くありません。むしろ実際の精子異常の大半は、精子形成に関わる沢山の遺伝子に様々な異常が突発的に発生する『新生突然変異』と言われる先天異常(先天性:生まれつきの問題)によるものです。精子異常の背景に遺伝子異常が関与している場合は、一般的によく指摘されるような「精子数が少ない:乏精子症」とか「運動率が低い:精子無力症」と言うような、見た目で「精子の状態が悪い」と簡単に判る問題ではなく、精子の中に多様な異常が隠れている場合が大半ですので診断することが難しく、かつ先天性(生まれつきの問題)ですので根本的な治療法がなく治療困難な場合が多く、男性不妊の問題は深刻になります。とくに不妊男性の精子の異常においては、DNA損傷率は高い傾向にあり、その背景には遺伝子異常が関与しているケースが多いので、治療が難航します。
【重要ポイント】精子異常に関しては、真偽のはっきりしない不確実な情報が溢れ、一般的には「精子の数が十分あり、元気に泳いでいれば問題なし」、卵子の老化と同様に「年齢を重ねれば精子も老化する(精子の質が下がる=精子異常率が上がる)」といったイメージで語られています。しかし上述したように『精子異常の大半は遺伝子の突然変異による先天異常』ですので、若くても精子異常率が高い男性もおられる一方で、高齢男性でも精子の質が良好の方もおられるということです。
将来の子供への遺伝について
男性の性を決定するY染色体は生命維持に関係ない染色体ですので、Y染色体上の遺伝子に突然変異が生じても流産(自然淘汰)をすり抜けて男子として誕生します。結果として、自然淘汰をすり抜けたY染色体の異常は、成人してから精子異常という形で発現します。この精子異常が、父親から受け継いだ遺伝子ではなく、突発的に発生した突然変異により発症したケースにおいても、一旦 遺伝子異常が起きてしまうと 精子異常は息子に遺伝(垂直伝播)します。また精子異常の程度は、問題が起きた遺伝子の組み合わせの内容により、個人差が極めて大きくなります。
【重要ポイント】不妊治療の現場では「精子数が少ない:乏精子症」とか「運動率が低い:精子無力症」と言うような、見た目で「精子の状態が悪い」と簡単に判る方を対象に顕微授精が用いられています。この場合、その精子異常の背景に『遺伝子異常を抱えているか否か』の詳細情報は不明のまま、見た目だけの情報で実施されています。顕微授精は受精に必要な精子が たったの1匹でいいこと、また人間の手により受精を容易に可能にする(受精率を上げられる)技術であるという利便性から急速に普及し、現在では生殖補助医療の約8割を占めていますが、顕微授精はあくまでも精子数の不足を補足する技術です。顕微授精は遺伝子異常を克服できる技術ではありませんので、本来、顕微授精は精子の状態が悪い方には不向きな治療法になります。
【必読ポイント】医療介入は必ずリスクを伴い、顕微授精だけが例外ではありません。出生児の遺伝子の半分は精子が担うわけですから「どのような精子を穿刺するか」、すなわち「精子の品質管理」が出生児の健常性に直結します。正直なところ、本来 受精しては困る危険な精子を用いた顕微授精により人工的な授精が可能になり、妊娠出産に至った場合に、生まれてくる子どもに 何かしらの異常が発症するリスクにあります。
海外では「顕微授精で生まれた子供に自閉症スペクトラム障害の発症率が高い」という報告が多数あり、「両者との間に因果関係がないとは言い切れない」という見解を出しています。つまり、顕微授精に用いる精子の状態によっては、生まれてくる子どもの健康への影響が生じる可能性があるということです。
安全な精子を選択するための技術努力は不可欠!
顕微授精による出生児の安全性に関しては未だ不明な点が多い現段階では、治療する前に精子が質的に良好(精子機能が正常)であること、すなわち、穿刺注入できる安全なレベルであることを事前に確認すること(精子の品質管理)が極めて重要であり、安全な顕微授精実施の前提となります。この前提知識と高品質精子を選別・評価する技術が普及していない現状では、顕微授精の実施は より慎重であるべきであり、本来は治療に用いる前の段階で異常精子を積極的に排除する技術が不可欠になります。
幸い黒田IMRには、
1.安心して治療に用いることができる安全な精子を選択的に分離精製する技術(異常精子を積極的に排除する技術)に特化しており、
2.また安全な精子であることを確認する高精度な技術があり、
3.さらにPost-ICSIとして開発した人工卵管法という、受精に必要な精子数を低減化できる高効率体外受精技術もありますので、
それらの技術を駆使した『安全な男性不妊治療』のご提供を可能にしています。
まとめ
顕微授精に用いる精子1匹を選ぶことは、皆さんが思われている以上に大きな責任があることなのです。以下にまとめてみました。
- 上述しましたが、顕微授精に用いる精子1匹の選定が生まれてくる『子どもの健常性に直結』するということ。
- また、精子1匹を選び、卵子に穿刺注入するという一瞬の作業が『命の選択』になること。
- さらに、顕微授精は卵子における『微小細胞外科手術』という概念に入る『命を造り出す医療行為』になること。
列挙した点を決して忘れてはいけません。
前述したように、不妊治療の現場では、「精子数が少ない:乏精子症」とか「運動率が低い:精子無力症」と言うような、見た目で「精子の状態が悪い」と簡単に判る方を対象に「即、顕微授精」が展開されています。すなわち、現行では、顕微授精に用いられる精子を選定する際に、『遺伝子の突然変異が背景にあるか否か』という、精子側の詳細情報は不明のまま、見た目だけの情報で顕微授精が実施されています。もしかしたら検出できていない、隠れている遺伝子異常が関与する精子異常が、不妊原因かもしれません。
ぜひ顕微授精に着手する前に、精子の精密検査を実施してください。そして「顕微授精しても大丈夫なレベルの安全な精子であるか否か?」を見極めてください。精子の品質管理こそが安全な生殖補助医療を実現させるためには極めて重要であり不可欠です。この点を念頭において『安全な不妊治療を選択』していただきたいと思います。