妊活男性の食生活は?サプリメントは必要?生活習慣は?

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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目次

妊活男性の食生活について

日々の診療において・・・

  •  「脂質の多い食事は駄目ですか?」
  •  「塩分が多い食事は?」
  •  「糖質制限をした方が良いですか?」
  •  「野菜不足ですけど大丈夫ですか?」
  •  「飲酒は?」
  •  「喫煙は?」

精子との関連性を聞かれます。その都度、私は「基本的に精子によい食事というよりも、健康的な食生活を意識することが大事です」とお話します。日々の忙しい中、妊活に向けて「何もかも駄目!」ではストレスが溜まります。そうではなく、「常識的な範囲内で美味しく食す」こと、「偏食を避けて多くの品目を食す」ことを心がけてください。

精子にサプリメントは効くの?必要?

妊活男性の多くは「精子を増やす?」として、色々なサプリメントを飲んでおられます。「これを飲めば精子が増える」という情報に心を動かされる気持ちはわかりますが、結論を申し上げれば「サプリメントで精子は増えません!」

中でも活性酸素を減らそうと、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質を高濃度に含むサプリメントを飲んでいる方が多いですが、正直なところ、4種類ある全ての活性酸素に対応できるものはありません。むしろ様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)やお茶、大豆などをバランス良く取る方が効果的です。

【重要ポイント】日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、バランスよく多くの品目を摂取するように心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありませんのでご安心ください。しかし、実際の不妊治療対象になる精子異常は、その背景には遺伝子異常(先天異常)が関与しているケースが殆どですので、この場合は対象外になります。

亜鉛は精子を増やすの?

前立腺液の中の亜鉛濃度は、血清(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分)の300倍以上と豊富で、精巣では精子の形成(言い換えれば、細胞増殖)が盛んに行われていることから、「亜鉛を摂取すると細胞増殖しやすくなり、精子が増えるのではないか」という考え方が一般的に定着しています。実際に不妊治療施設で「精子が少ない」と診断された男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取しています。

それでは、そもそも亜鉛は、どのような成分なのでしょうか? 亜鉛は、細胞の増殖に不可欠な必須微量元素です。つまり、健康維持に必要な成分ですが、その必要量は微量でいい、ということです。成人男性が1日に必要な亜鉛の量は10mg程度で、これは通常の食事をしていれば十分摂取できる量であり、極端な欠乏を心配する必要はありません

【注意】むしろ亜鉛には、少しの過剰摂取でも健康被害に結び付く危険性がありますので、注意が必要です。具体的に説明しますと、亜鉛を過剰に摂取すると銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招いてしまいます。そのため、亜鉛のサプリメントは短期的に飲むなら問題にはなりませんが、長期的に摂取し続けることはおすすめできません。最も安全で簡単な亜鉛の摂取方法は、毎日の食事で偏食を避けてバランスよく多くの品目を摂取することです。

アルギニンは精子を増やすの?

精子のDNAを構成するタンパク質「プロタミン」内のアルギニンの占める割合が高いという点から、「アルギニンを摂取すると精子が増えるのではないか」といった発想になったのでしょうか。亜鉛サプリメント同様に、「精子が少ない」と診断された男性の多くの方が、アルギニンも摂取されています。

そもそもアルギニンは非必須アミノ酸に分類されます。つまり、体内で生成できる成分ですので、サプリメントとして摂取する必要がありませんまた赤身の肉、鶏肉、乳製品、魚など幅広い食品にも多く含まれていますので、通常の食生活をしていれば過不足なく摂取できます。正直なところは、アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません

コエンザイムQ10は精子を増やすの?

コエンザイムQ10は、人の生命維持や活動に必要なエネルギーを作り出す「ミトコンドリア」の働きを助ける抗酸化物質で、高い抗酸化作用があるため、「アンチエイジング」や「造精機能を改善する」と説明している不妊治療施設も少なくないようです。

しかし、そもそもコエンザイムQ10は、もともと体内で必要とされるエネルギーに合わせて生成・分解できる成分ですので、コエンザイムQ10を積極的に摂取する必要はありません加齢により減ってしまうのも「必要とするエネルギー基礎代謝が減るから」という理由です。コエンザイムQ10をたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません

セレンは精子を増やすの?

最近では、セレン(セレニウム)の抗酸化作用に注目され、高い細胞増殖力がある精巣の発達を促進すると言われ、セレン不足が男性不妊を招くような印象で語られています。しかし、セレンの1日の推奨量は30㎍程度です。藻類、魚介類、肉類、卵黄、小麦(スパゲッティ、マカロニ)等にはセレンが多く含まれていますので、通常の食生活をしていれば1日100㎍程度摂取していますので十分です。亜鉛と同様に、過剰摂取により健康被害(脱毛、神経障害、皮膚炎、催奇形性、流産ほか)を招く危険性もありますので注意しましょう。

健康的な精子を造るための生活習慣は?

皆さんが心配されている「精子数の減少」や「運動率の低下」の原因が、過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲等の後天性環境因子の場合には、それぞれの原因を取り除くことによって改善が期待できる場合もあります

しかし、実際の不妊治療の現場で直面する精子の問題の大半は、その背景には先天性の遺伝子異常が関与していますので、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません

【妊活男性に向けての豆知識】精子異常の原因になる遺伝子異常は『新生突然変異』といわれ、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起きます。その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。ご心配の方は、早い時点で高精度な精子検査を受けてください。

まとめ

日常の食生活においてバランスよく「偏食を避けて多くの品目を食す」という食事習慣を心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、遺伝子異常(先天異常)が原因で発症している精子異常に関しましては対象外になります。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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