- 男性不妊治療の専門クリニック│黒田インターナショナルメディカルリプロダクション
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- 男性の妊活でどの程度食生活を意識すべきか?サプリメントは必要か?生活習慣は?
更新日:2023.10.26
男性の妊活でどの程度食生活を意識すべきか?サプリメントは必要か?生活習慣は?
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妊活男性の食生活
日々の診療において「脂質の多い食事は駄目ですか?」「塩分が多い食事は?」「糖質制限をした方が良いですか?」「野菜不足ですけど大丈夫ですか?」「飲酒は?」「喫煙は?」等々、精子との関連性を聞かれます。その都度、私は「基本的に精子によい食事というよりも、健康的な食生活を意識することが大事です」とお話します。
日々の忙しい中、妊活に向けて「何もかも駄目です!」では、逆にストレスが溜まります。そうではなく、「常識的な範囲内で美味しく食す」こと、「偏食を避けて多くの品目を食す」ことを心がけてください。
男性不妊にサプリメントは必要か?
妊活男性の多くは「精子を増やす?」として、色々なサプリメントを飲んでおられます。「これを飲めば精子が増える」という情報に心を動かされる気持ちはわかりますが、結論を申し上げれば「サプリメントで精子は増えません!」。
中でも活性酸素を減らそうと、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質を高濃度に含むサプリメントを飲んでいる方が多いですが、正直なところ、4種類ある全ての活性酸素に対応できるものはありません。むしろ様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)やお茶、大豆などをバランス良く取る方が効果的です。
日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、バランスよく多くの品目を摂取するように心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありませんのでご安心ください。
しかし、実際の不妊治療の現場で問題になる精子異常は、その背景には遺伝子の問題(先天異常)が関与しているケースが殆どですので、この場合は対象外になります。
亜鉛は精子を増やすの?
亜鉛は、鉄の次に体内に多い必須微量元素で、細胞の増殖に不可欠です。前立腺液の中の亜鉛濃度は、血清(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分)の300倍以上で、精巣では盛んに精子が形成(細胞増殖)されています。そのような点から、亜鉛を摂取することにより精子が増える?といった発想が定着しています。
不妊治療施設で「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取していますが、あまり知られていない注意点があります。それは、亜鉛の過剰摂取が銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招くという点ですので、亜鉛の長期摂取はお勧めできません。
通常の食事をしていれば、1日10ミリグラム程度は摂取していますので、亜鉛の欠乏や、逆に亜鉛の過剰摂取を心配する必要はありません。牡蠣は亜鉛を多く含む代表的な食材ですが、亜鉛をはじめとする必須微量元素は、少しの過剰摂取でも中毒に結びつく危険性がありますので、「偏食を避けて多くの品目を食す」という食事習慣が、一番安全かつ簡単な摂取法になります。
アルギニンは精子を増やすの?
亜鉛サプリメント同様に、「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、精子サプリとして注目されているアルギニンを取られています。精子のDNAを構成するタンパク質のプロタミン内におけるアルギニンの占める割合が高いという点から、アルギニンを摂取することにより精子が増える?といった発想になったのでしょうか。
しかし、アルギニンは非必須アミノ酸に分類され、体内で造ることができます。つまり、アルギニンは通常の食生活をしていれば体内で過不足なく造られますのでサプリメントとして摂取する必要がありませんし、アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。
コエンザイムQ10は精子を増やすの?
細胞内小器官のミトコンドリアは、ブドウ糖を水と炭酸ガスに分解してエネルギーを作りますが、その最終工程で活性酸素を必要とします。精子サプリとして注目されているコエンザイムQ10ですが、活性酸素と水素から水を造る反応を助けます。
コエンザイムQ10が加齢とともに減少することから、アンチエイジングサプリメントや、抗酸化作用に着目した造精機能(精子形成)改善サプリメントとして利用されていますが、加齢により減るのは、必要とするエネルギー基礎代謝が減るからです。
コエンザイムQ10は、もともと体内で必要とされるエネルギーに合わせて生成、分解できる物質ですので、積極的に摂取する必要もないというのが真実です。コエンザイムQ10をたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。
セレンは精子を増やすの?
セレン(セレニウム)は亜鉛と同様、必須微量元素です。最近ではセレンの抗酸化作用に注目され、高い細胞増殖力がある精巣の発達を促進すると言われ、セレン不足が男性不妊を招くような印象で語られています。しかし、セレンの1日の推奨量は30㎍程度です。藻類、魚介類、肉類、卵黄、小麦(スパゲッティ、マカロニ)等にはセレンが多く含まれていますので、通常の食生活をしていれば1日100㎍程度摂取していますので十分です。亜鉛と同様に、過剰摂取により健康被害(脱毛、神経障害、皮膚炎、催奇形性、流産ほか)を招く危険性もありますので注意しましょう。
健康的な精子を造るための生活習慣は?
みなさんが心配されている、精子の運動率が低下する主な原因が、過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲等の後天性環境因子の場合には、それぞれの原因を取り除くことによって運動率が改善する可能性もあります。
しかし、実際の不妊治療の現場で直面する精子の問題の大半は、その背景には先天性の遺伝子異常が関与していますので、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません。
精子異常の原因になる遺伝子異常は『新生突然変異』といわれ、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起きます。その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。
まとめ
精子サプリで精子は増えません。日常の食生活においてバランスよく「偏食を避けて多くの品目を食す」という食事習慣を心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、実際の不妊治療の現場で問題になる精子異常は、その背景には遺伝子の問題(先天異常)が関与しているケースが殆どですので、この場合は対象外になります。
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監修者│黒田 優佳子
黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。