妊活の適切な禁欲期間とは? サプリメントで精子を増やせるの? 妊活で精子をためる際の問題点・注意点を解説|専門医監修

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

詳しい経歴・実績一覧はこちら

【妊活】適切な禁欲期間とは。妊活で精子をためる

妊活に向けて「禁欲期間は どのくらいがベストなのだろうか?」と気になるところです。一般的には 3~5日程度の禁欲期間が推奨されていますが、本当なのでしょうか?
また妊活に関わる情報に溢れる現代社会ですが、「サプリメントで精子を増やせるのだろうか?」と疑問に思いながら飲んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、精子に関する正確な情報を発信し、禁欲期間のほか、サプリメントと精子の関連性、精液量の回復についても専門的に解説しています。是非お役立てください。

<この記事のまとめ>

  1. 適切な禁欲期間は一般的に 3~5日程度とされていますが、正確に言えば、各個人の精子に最適な禁欲期間が存在しています。ベストな禁欲期間を知るためには、高精度な精子検査(精子精密検査)をして、自身の精子のタイプを明確にすることが推奨されます。
  2. 適切な禁欲期間の管理や生活習慣の改善により、精子の状態が回復するケースもありますが、先天性(生まれつき)の問題が原因で精子の状態が悪くなっている場合には、適切な禁欲期間を設けても妊孕性が向上するわけではありません。適正な精子の管理をするためにも、自身の精子のタイプを正確に把握することが必要不可欠です。
  3. WEB上では、精液量の回復や精子の質の改善を謳っているサプリメントや成分、その他生活指導に関する多くの情報を目にしますが、正直なところ、不確実な精子情報が掲載されているケースも少なくありません。この記事では、約40年「ヒト精子」の研究を継続してきた生殖医療を専門にする産婦人科医師の立場から、精子に関する正確な情報をお伝えしますので、最後まで読んでいただき、上手な妊活をするために お役立てください。
目次

適切な禁欲期間とは?

成熟した質の高い精子を射精するには、禁欲期間が短すぎても長すぎてもいけません。一般的には 3~5日程度の禁欲期間が適切であると言われていますが、精子の品質は個人差が大きく、各個人の精子のタイプに見合った最適な禁欲期間が存在しています。ですから、一概に「何日の禁欲期間が良い」と言い切ることはできません

そこで「適切な禁欲期間はどの位なのか?」ということですが・・・その方の精子のタイプに最適な禁欲期間を見極めるためには「精子精密検査」が推奨されます。自身の精子の健康診断をして、自身の精子に合った禁欲期間を知った上で、質の高い精子を管理して「上手な妊活」を心がけましょう

禁欲が短すぎることの問題点

私のもとに初診でいらしたご夫婦から、「これまで通院していたクリニックでは、質の良い精子を造るために、とにかく禁欲期間を短くするように言われていました」という声を頻繁に耳にします。しかし実際には、毎日射精するなど 禁欲期間が短い場合には、精子濃度(1ml中の精子数)が下がり、また写真上段のように、精液中に頭部が膨化している未成熟な精子が目立つようになります(写真下段の成熟した状態の精子と比較して下さい)。禁欲期間を極端に短くすることは、妊活する上で望ましくありませんので、注意してください。

【不妊治療】未成熟な精子
未成熟な状態の精子
(青染色が薄い精子)が目立つ

【不妊治療】成熟した精子
成熟した状態の精子

禁欲が長すぎることの問題点

禁欲期間が長くなりすぎると、せっかくできた良好な精子であっても射精を待つ間に精子の状態が悪くなります。具体的に説明しますと、精子を包み込んでいる膜(細胞膜)に傷が付き、その結果精子頭部の細胞膜直下にあるDNAに傷が波及し、最終的には精子尾部の細胞膜も損傷されて運動性が失われます。

写真は、頭部細胞膜が損傷された精子(赤く染色された精子:上写真)のDNAにも損傷が及び、長いDNA鎖が切断されて短くなった顆粒状DNA切断片が拡散している状態(下写真)です。つまり、精子にも消費期限があるため、禁欲期間が長すぎても駄目ということです。ご注意ください。

禁欲期間による精子の画像
頭部細胞膜が損傷されている精子
(赤く染色されている精子)が目立つ
禁欲期間が長い精子の写真

DNAが損傷された精子
(DNAの鎖が切れて顆粒状に拡散している状態)が目立つ

先天的な精子異常は、適切な禁欲期間を守っても、生活習慣を見直しても改善されません!

不妊治療の現場で治療が困難なケースは重篤な「奇形精子症」です。ただ、奇形精子症は、一般精液検査で用いる通常の顕微鏡(位相差顕微鏡)で見ただけで明らかに「精子の形態が異常」であることがわかりますので、診断は容易です。

一方で、妊活を進めている過程で最も厄介なのは『隠れ精子異常』と言われる精子の問題です。この異常は、奇形精子症のように「見た目で異常を判断できない」精子の中に隠れ潜んだ異常をもった精子です。

隠れ精子異常は新生突然変異という、精子が造られる過程で起きてくるDNAのコピーミス(先天性の遺伝子異常)が原因で起きてきます。解りやすく言いますと、精子形成過程で親から受け継いだ遺伝子ではな「突発的に」子どものDNAに書き込まれるはずの「あらゆる遺伝子」に「一定の確率」で変異が起きてくる現象をいいます。この変異は、「精子1匹ごと」で現れる箇所が異なるため複雑化します。このことが男性不妊の治療を難航させる原因になっています。実際の現場では、新生突然変異による隠れ精子異常が、治療対象になる男性不妊の大半を占めていますが、この隠れ異常は位相差顕微鏡では検知できませんので、治療現場で見逃されているケースも少なくありません。

繰り返しになりますが、隠れ精子異常には先天性の遺伝子異常が関与していますので、「禁欲期間を調整する」「食生活を改善する」「適度な運動をする」といった生活習慣を見直したり、薬やサプリメントを試しても、残念ながら劇的に改善することはありません。ですから、不妊治療を効率的に進めるためにも、なるべく早い時点で(できれば治療開始前に)「新生突然変異に起因する隠れ精子異常があるか否か」を調べることが大切です。ただただ治療を繰り返すのではなく、まずは「治療を難航させる精子のタイプなのか、そうではないのか」を見極めて、精子側から治療の見通しを予測した上で、効率的に進めましょう。

黒田IMRでは、隠れ精子異常を検出できる『分子生物学的な高度な技術による高精度な精子検査(精子精密検査)』を初診時に実施し、最初に精子妊孕性(妊娠させられる力)を正確に調べます。また治療に際しては『高度な精子選別技術』により、事前に隠れ異常精子を積極的に排除し、選別できた高品質な精子を治療に用いています。結果として、治療の安全性と有効性の向上に繋がりますので、効率的です。

精子の質や量を回復させる方法は?時間はどれくらい?

【妊活】精子の量や質を回復させる方法

後天的な精子異常は、適切な禁欲期間の管理や生活習慣の見直しにより、改善される可能性があります!

前述したように、先天性の遺伝子異常による精子異常を改善できる技術や薬はありませんが、後天性の環境因子が精子異常に影響している場合は、その原因を排除するように心がけることにより改善が期待できるケースもあります。

一般的には 3~5日程度の禁欲期間が推奨されていますが、禁欲期間の調節だけでなく、過度なストレス・飲酒・喫煙・食生活の乱れ・睡眠不足なども造精機能に悪影響を及ぼすと考えられますので、可能な範囲で少しずつでも排除すべく努力をしましょう。特に意識したい生活習慣として、以下の2つを解説します。

過度な飲酒を控える

皆さんがよく耳にする二日酔いは、アルコールの分解が間に合わず、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇することが原因で生じます。アセトアルデヒドは細胞傷害性が高いので、二日酔いになるほどの過度な飲酒が、精巣に悪い影響を与える可能性は否定できません。

ただし、いくらお酒を飲んでも酔わない方がいらっしゃる一方で、採血する際のアルコール綿による消毒で皮膚が発赤する方もいらっしゃるように、アルコールを分解する力には大きな個人差があります。そのため、二日酔いが どの程度精子に影響するかは一概には言えません。また造精機能が正常な方であれば、極めて余力がありますので、多少の飲酒は関係ない場合もあります。

とはいえ、精子の形成を担う精巣は、正常な組織において1日量の細胞産生量が最も多い組織です。この点を踏まえますと、細胞の形成に毒性を有する物質は、真っ先に精巣に悪影響を与える可能性が高いのも事実です。当然のことですが、常識的な飲み方を心掛けることをお勧めします。

栄養を意識した食生活

皆さんは、体内の活性酸素を減らせるような食生活を意識されているのでしょうか。そうであれば、様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)、茶、大豆などを毎日の食事でバランス良く取ることが効果的です。

【重要ポイント】バランスよく多くの品目を摂取するように心がけていれば、日常生活の中で発生するレベルの活性酸素や酸化ストレスが、精子の異常に直結する心配はありません

サプリメントで精子の量を増やすことはできません!

これまで黒田IMRにお越しいただいたご夫婦の多くは、「医薬品は専門家に管理してもらわないと危険なイメージ」「サプリメントは自然のものだから自分で管理できて安心」と、薬よりもサプリメントの効果を信頼している方が殆どでした。

確かに医薬品は「病気の診断、治療、予防に使用することを目的とした薬品」と薬機法で定められており、必ず副作用のリスクがあります。よく効く薬ほど副作用も強く、使い方を間違えると大変危険です。正しい効果を得るためには専門家が管理し、適切な処方をする必要があります。

一方、サプリメントは薬機法上、身体への作用があってはならず、あくまでも「食品」という定義です。つまり直訳通り、栄養素を「補充」してくれるだけのものであり、食事の補助として適量を摂取していれば問題が起きることはそう多くありませんが、中には 摂取量によっては健康被害を招くサプリメントもあります。注意しましょう。

【重要ポイント】結論から申し上げますと、サプリメントを摂取することで直接的に精子の量を増やしたり、奇形精子の割合を下げたりする効果は期待できません。インターネット上にある情報は「できること」を強調しがちです。まずは「できないこと」もたくさんあるということを知ってください。

コラム:男性の妊活でサプリは精子に有効?生活習慣も含めて詳しく解説

「精子に良い」とされている成分の真実

【妊活】精子に良いとされている栄養成分の真実

ここで、世の中でよく「精子に良い」とされている成分の体への作用と、正しい摂り方について、深掘りします。なおこの見解は、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

亜鉛

亜鉛は、鉄の次に体内に多い必須微量元素で、細胞の増殖に不可欠な成分です。前立腺液の中の亜鉛濃度が高値(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分=血清の300倍以上)であることから、「亜鉛を摂取すると細胞増殖しやすくなり、精子の量が増えるのではないか」という考え方が定着したのでしょうか。実際に不妊治療施設で「精子の量が少ない」と言われた男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取されています。

【注意点】しかし亜鉛を過剰に摂取すると、銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招いてしまいますので、亜鉛のサプリメントは短期的に飲むなら問題にはならないでしょうが、長期的に摂取し続けることはお勧めできません

【重要ポイント】成人男性が1日に必要な亜鉛の量は10mgです。これは通常の食事をしていれば十分摂取できる量であり、極端な欠乏や過剰を心配する必要はありません偏食を避けバランスの良い食事を摂ることが、一番安全で簡単な亜鉛の摂取方法と言えます。

アルギニン

精子のDNAを構成するタンパク質「プロタミン」内のアルギニンの占める割合が高いという観点から、「アルギニンを摂取すると精子が増える」といった発想になったのでしょうか。

【重要ポイント】精子の量を増やすには、アルギニンが良いという話も聞きますが、結論から申し上げれば、アルギニンを摂取すれば精子の量が増えるということはありませんアルギニンは非必須アミノ酸に分類され、体内で生成できる成分です。赤身の肉や鶏肉、乳製品、魚など幅広い食品に多く含まれるため、通常の食事をしていれば過剰や不足の状態になることもありません。

コエンザイムQ10

コエンザイムQ10は、人の生命維持や活動に必要なエネルギーを作り出す「ミトコンドリア」の働きを助ける抗酸化物質ですので、「コエンザイムQ10を摂取すると、抗酸化作用でアンチエイジングや精子形成障害の改善ができる」といった考えになったのでしょうか。

【重要ポイント】結論から申し上げれば、コエンザイムQ10を摂取すれば精子の量が増えるということはありませんコエンザイムQ10は、体内で必要とされるエネルギー量に合わせて生成・分解できる成分ですので、体にとって必要がなければ産生量は減っていきます。わかり易く言えば、加齢により生命活動に必要なエネルギー量が減ることで基礎代謝が落ち、コエンザイムQ10の必要量も減っていくということです。誤解のないようにしてください。つまり、コエンザイムQ10を積極的に補給する必要はないというのが真実です。

「精子に悪い」とされている習慣の真実

最後に・・・「精子に悪い」とされている噂について解説します。近年インターネットで見かけた不確かな情報に左右され、根拠なく不安に思っていらっしゃる方も多いので、ここで正しい情報を確認しておきましょう。ただし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合、この見解は対象外になります。

過度な運動は精子に悪い?ってホント?

活性酸素は、細胞のDNAや細胞膜、動脈の内膜等を傷付けることがあり、その結果 老化やがん、心臓の病気につながる可能性が生じます。活性酸素が急増して過大な酸化ストレスがかからないようにするには、「運動をしすぎない方が良い」という話を聞いたことがある方も少なくないのではないでしょうか。

【重要ポイント】しかし実際のところ、私たちの体の細胞には活性酸素で傷ついた細胞を修復したり排除したりする仕組みがありますので、多少過度な運動をしても、日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスが精子の異常に直結するという心配は不要で。適度な運動量であれば、新陳代謝が上がり、望ましいことです。

以下に例を出して、解説します。

医療の現場では、2〜3気圧の酸素を満たした容器の中に患者が入り、体内酸素濃度を上げる「高気圧酸素療法」という治療法があります。大気の10〜15倍も濃い酸素の中で1時間程度治療を行うことになりますが、成人の抗酸化防御システムはキャパシティが十分に大きいので、活性酸素中毒は起きません。

また、42.195キロを走り抜くマラソンランナーに目を向けて考えてみましょう。日々の練習はもちろん、本番の大会で激しく呼吸を繰り返してゴールを目指す結果、体内に大量の活性酸素が発生します。当然一部の細胞のDNAに傷がつきますが、細胞は活性酸素で傷ついたDNA部分を切り取って修復します。活性酸素によって壊されたDNA破片は、ランナーの尿として排泄されますが、男子マラソンランナー皆が男性不妊になるという話は聞きません。つまり、少しくらいの激しい運動負荷は精子には問題ないため、酸化ストレスに神経質になる必要はないのです。

ブリーフよりトランクスにすべき?

一般的に造精機能を維持するためには、精巣上体を含む精巣の周囲が、体温より低い温度であることが必須です。このことから「ぴったりとしたブリーフで精巣周辺の温度を高めることが良くない」という考え方が一部で定着しており、「精巣にはブリーフよりも通気性の高いトランクスの方が良い」という話が良く出てきます。

【重要ポイント】確かに熱を溜めないというイメージでは、ブリーフよりトランクスの方が良いように感じます。とはいえ、いつもぴったりとしたブリーフを着用している方が総じて不妊だという事実は無く、そのような研究結果も聞いたことがありません。過度な心配は不要です

ノートパソコンは精巣に悪影響をもたらす?

日々の診療の中では「ノートパソコンを膝に置いて作業することで、精巣の周囲に熱が溜まり、造精機能に障害を与えるのではないか?」という質問も多いです。

最近のノートパソコンは省電力であり、発熱は最小限に抑えられています。パソコンの熱による悪影響よりも、むしろ長時間同じ姿勢で作業を続けることによる、下半身の血行不良が心配です。もしかしたら、血行不良が精巣に悪影響を及ぼすことを懸念して「ノートパソコンが良くない」といった噂が飛び交っているのかもしれません。

【重要ポイント】下半身の血行不良は、長時間同じ体制にならないように定期的な休憩を挟んだり、こまめに立ち上がったりを意識していれば、さほど神経質になる必要はありません

まとめ

妊活を進めている過程で最も厄介な精子の問題は、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡で観察して運動良好な「正常精子」と判断されても、精子の中の見えないところに『隠れ異常精子』と言われる、先天性の遺伝子異常(『新生突然変異と言う)に起因する精子異常が隠れ潜んでいることです。 しかも隠れ異常精子による男性不妊が大半を占めていますが、遺伝子の問題を克服できる技術や薬はありませんので、治療は難航します。また隠れ精子異常は位相差顕微鏡では検知されないこともあり、治療現場では見逃されているケースが少なくありません。

男性不妊治療の安全性と有効性を向上させるためにも、なるべく早い時点で(治療開始前に)、新生突然変異による遺伝子異常が関与する「隠れ精子異常があるか否か」を検知することができる『高精度な精子検査(精子精密検査)』を受けることをお勧めします。黒田IMRでは、初診時に隠れ精子異常の有無を徹底的に調べることにより、精子妊孕性を正確に見極め、その方の精子のタイプに合った『適正かつ安全な技術選択』をした治療指針を具体化させています。是非とも効率的な上手な妊活をしてください。

禁欲期間や精子に関するよくある質問

毎日射精すると精子の量は減りますか?精子の回復について

毎日射精すると一時的に精子の数が減少し、回復には正常な男性で2〜3日程度かかります。

精子は、射精後も体内で毎日造られ続けていますが、射精後の精子の「数」や「質」が回復するまでの時間には個人差があります。一般的には、精子を造る機能(造精機能)が正常な男性で2〜3日程度かかると考えられています。

  • 頻繁な射精と精子の回復:毎日射精すると精子の数が極端に少なくなり、質も低下しますが、造精機能が正常な男性では少し禁欲すれば すぐに回復してきます。ただし射精をしすぎても、逆に射精をしなさ過ぎても、精子の状態は悪化します。精子の状態を良好に保つためには、その方の精子のタイプに合った適切な禁欲期間を設けることが大切です。
  • 回復を助ける生活習慣:精子の回復を促すためには、以下の生活習慣を意識することも重要です。
    バランスの取れた食事:亜鉛、セレン、葉酸などのミネラルやビタミンを積極的に摂る。
    適度な運動:全身の血行を良くし、ホルモンバランスを整える。
    十分な睡眠:睡眠不足は男性ホルモンの分泌に悪影響を与える可能性がある。
    禁煙・禁酒:喫煙や過度な飲酒は精子の質を低下させる。

ただし、先天性の遺伝子の問題が精子の状態を悪くさせている場合には、なかなか回復させることができる技術や薬がないということを知っておくことも大切です。

精液検査って禁欲期間は必要ですか?

精液検査では、一般的には3〜5日間の禁欲が推奨されています。しかし正確に言えば、個人の精子のタイプによって理想的な禁欲期間が異なります。つまり、ベストな禁欲期間には個人差がありますので、注意が必要です。

  • 禁欲期間が短すぎる場合:精液中の精子濃度が低くなります。
  • 禁欲期間が長すぎる場合:古い精子が多くなり、精子の劣化が進み、運動率が低下したり、精子の細胞膜やDNAが損傷する傾向が高まります。

精液検査を行うにあたり、自身の精子に合った適切な禁欲期間を知ることが重要です。

「精子が枯れる」って どういうことですか?

精子の数が減少し、質も低下して受精能力が失われる状態を指す「比喩表現」です。

「精子が枯れる」という言葉は、医学用語ではありません。具体的には、以下のような状態が考えられます。

  • 造精機能障害:精巣で上手く精子を造ることができず、精子の数が減少し、質も低下している状態を言います。造精機能障害は、何かしらの基礎疾患が原因で発症してくることもありますが、大半は原因不明の遺伝的な問題が原因です。
  • 酸化ストレスによる精子の老化:活性酸素によって精子の細胞膜やDNAが損傷したり、運動能力が低下する状態です。喫煙、肥満、ストレス、糖尿病などがこの一因となることがあります。

精子の質を左右している主たる原因は先天性の遺伝子の問題です。世間一般に言われているように、年齢や生活習慣、環境要因によって精子の質が悪化する可能性はありますが、過度に神経質になる必要はありません。以下の話題についても解説しておきます。

  • 過度な運動:私たちの体には、傷ついた細胞を修復する仕組みが備わっています。多少の過度な運動で発生する活性酸素や酸化ストレスが精子の異常に直結する心配は不要です。
  • 下着やノートパソコン:「トランクスの方が良い」「ノートパソコンを膝に置くと悪い」といった話もよく聞きますが、これらが不妊の主たる原因になるという事実や研究結果は確認されていません。熱を溜めないよう意識したり、長時間同じ姿勢を避けたりすることは大切ですが、過度な心配は不要です。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

目次