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新型出生前診断 NIPT 検査とは?
新型出生前診断 NIPT 検査は、Non-Invasive Prenatal Testing(非侵襲的出生前検査)の略称です。
この検査は、妊婦さんの血液から、胎児のダウン症 21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの染色体異常の可能性を調べるスクリーニング(非確定・可能性を評価する)検査です。
NIPTは すべての先天性疾患を検出できるわけではありませんが、これら21・18・13トリソミーは出生数の多い常染色体の数の異常です。
これら3つ以外の常染色体にトリソミーが生じた場合には、多数の生存に関与する重要遺伝子に影響を及ぼすため、大半が致死的になり、妊娠初期で流産となります。染色体異常は先天性疾患全体の約25%を占めますが、その中でもダウン症が半数以上を占めています。
新型出生前診断 NIPT 検査の「メリット」と「注意点・精度限界」
メリットは、母体の採血のみで検査できますので、羊水検査のように腹部(子宮)に針を刺す必要がなく非侵襲的な点です。検査の影響で流産したり感染したりするリスクもありませんので、その点からは安心して受けられる検査になります。また妊娠10週以降から実施可能になり、1週間~10日前後で結果が得られる点もメリットです。
しかし一方で注意点もあります。NIPTは、検査対象外の染色体や微細な異常を検出することはできません。また検査対象の染色体においても確定診断ではなく、あくまでもスクリーニング検査ですので『可能性』を評価する『だけ』の検査です。どういうことか?と言いますと・・・
要するに、結果が「陽性判定であっても、確定ではない」ということです。また陽性でも、その染色体異常である可能性の程度(重症なのか?)や内容(どのような症状なのか?)についても判断できません。ですから、結果として「羊水検査による確定診断が推奨される」ことになります。
一方で、「陰性判定でも、検査対象の染色体異常が検出されなかった」ということだけを意味し、「染色体異常が絶対にない」という確定的な意味ではありません。
また時々、妊娠週数が早すぎた時や、母体のBMIが高いケースでは、母体血中の胎児DNAの割合が低い場合があり、「判定保留」になることがあります。さらに稀ですが、採血時に赤血球が破壊されることがあり、血液が溶血して検査に適正でない状態になる場合があり、このケースも判定保留になります。
以上の点を踏まえて「診断を確定できる検査ではないこと」「あくまでもスクリーニング検査としての精度限界があること」を正しく理解した上で、事前にご夫婦で遺伝カウンセリングを受けて、結果への対応について主治医とよく相談しておくことをお勧めします。
世間一般では98~99%の高い検査精度を謳っているNIPTですが、スクリーニング検査においては、どうしても偽陽性(染色体異常がある可能性が高いという陽性結果だったが、実際には出産後の胎児染色体は正常だった)、偽陰性(染色体異常がない可能性が高いというという陰性結果だったが、実際には出産後の胎児に染色体異常が認められた)になるということも「ゼロではない」ことを考慮にいれて判断しなければなりません。
正直なところ、最初から出生前確定診断できる羊水検査を推奨する意見もあるのも事実です。ご夫婦でよく検討されてから、NIPTを「する」「しない」の選択をしてください。
新型出生前診断 NIPT 検査の精度評価の指標について
NIPT検査の精度は、主に「感度」と「特異度」という2つの指標から評価されます。感度とは、染色体異常がある胎児を正しく「陽性」と判定できる割合のことです。感度が高いほど、偽陰性となる可能性は低くなります。一方で特異度とは、異常がない胎児を正しく「陰性」と判定できる割合を示し、特異度が高いほど、偽陽性となる可能性は低くなります。
新型出生前診断 NIPT 検査の対象になる方は?
NIPTの検査対象者は、検査実施機関によって異なりますが、一般的に、出産予定日の年齢が35歳以上の方、過去に染色体異常のある胎児を妊娠または出産したことがある方、胎児の両親のいずれかに染色体異常がある方、胎児に異常が疑われた場合は対象になります。一方で、無認可施設では検査制限は比較的少なく、希望があれば どなたでも受けられます。
21トリソミー(ダウン症)
ダウン症の程度には個人差がありますが、身体発育や運動・知的発達は比較的穏やかです。その他の特徴として、つり上がった目、鼻が低い、平らな顔の特徴的な顔たち、視力・聴力障害、先天性心疾患(特に心室中隔欠損が多い)等があります。
年々、医療・教育・社会的支援を受けることにより社会で活躍する人も増え、平均寿命は延びていますが、中には重度の奇形を伴って生命予後が厳しいこともあります。
18トリソミー
18トリソミーは、妊娠の約70%が流産、死産、生後1年以内に亡くなることが多く(1年生存率は10〜30%程度)、胎児期から重篤性が高い染色体異常です。出生できても低出生体重のケースが多く、身体発育・運動・知的(脳形成や神経系発達の異常)発達の遅れが著しく、小さな口やあご、高い鼻梁、後頭部の突出の特徴的な顔たち、多臓器の重複異常(心疾患、呼吸、消化器・腎臓の異常など)を伴います。
治療方針として、出生後の延命治療は行われない緩和ケアが主流でしたが、近年では医療技術の進歩と家族の多様化価値観に伴って変化してきましたので、家族の意向を尊重した個別治療方針を医療者が共に考えて選択するという方向性になりつつあります。
13トリソミー
13トリソミーは、胎児期から発育不全が見られ、身体発育・運動・知的発達の著しい遅れの他、外見上の異常(口唇裂・口蓋裂、多指、小眼球など)、特徴的な顔立ち(小頭症、前頭部の突出、目の間が近いなど)がみられます。同時に、多臓器の重複異常(心疾患、呼吸器・消化器・腎臓など)を伴いますので、生命予後は非常に厳しく、生後数週間〜数ヶ月で亡くなることが多く(1年生存率は約5〜10%)、18トリソミー同様に重篤性が高い染色体異常です。
治療方針として、出生後の延命治療は行われない緩和ケアが主流でしたが、近年では一部の症例では、家族の意向を尊重した医療介入が行われることもあります。
まとめ
新型出生前診断 NIPT 検査は、非侵襲的に、胎児のダウン症 21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの染色体異常の可能性を調べるスクリーニング(非確定・可能性を評価する)検査ですので、気楽に迅速に試みることができます。
一方で、あくまでもスクリーニング検査ですので、出生前診断を確定できる検査ではありません。事前にご夫婦で「精度限界がある」ことを正しく理解した上で、また主治医や遺伝カウンセラーらと よく相談してから、NIPTを「する」「しない」の選択をしてください。
さらにNIPTの結果が陽性に出た場合、事前に確定診断になる羊水検査を「するか、しないか」その方向性を決めていても、ご夫婦の精神的な負担は大きくなります。家庭の状況や価値観、サポート体制なども含めて、家族全体で話し合い、大きな視野から納得のいく意思決定、決断をしてください。