黒田IMRには、不妊治療歴が大変に長いご夫婦が相談にみえます。その大半は「顕微授精を10回以上繰り返されておられ、なかなか成果に繋がらない!」という、顕微授精反復不成功のご夫婦です。とても心痛むことですが、顕微授精を繰り返している内に妻の年齢も重なり、結果として当院を受診される時には40歳半ばになられているケースが殆どです。
ご夫婦にお話を伺いますと「精子の状態が悪いので顕微授精をしましょう」「1匹でも精子がいれば顕微授精で妊娠可能です」と説明を受けて、治療法として顕微授精が勧められて実施され、結果にならないと また同じ治療が繰り返されて・・・といった経緯のご夫婦ばかりです。
この記事では衝撃的な内容を開示していますが、最後まで読んで頂けましたら、必ず納得感が得られることと思います。そして その納得感が「気づき」に繋がり、現況から一歩前進できますことを願いつつ・・・是非ともご夫婦でお読みください。
目次
顕微授精まですれば妊娠できる?といったイメージだが・・・
確率は上がるの?
顕微授精に必要な精子は「たったの1匹」でいいこと、また人の手を介して人工的に授精させて受精率を上げられること等の利便性が、顕微授精の適応範囲を拡大させ、急速に普及させました。結果として、今では顕微授精は、生殖補助医療の授精法の約8割を占めるまでになり主流になっています。
治療現場では、なぜか?科学的根拠もないままに生殖補助医療の高度化に伴って妊娠率が向上すると強調してきた背景がありますので、顕微授精まですれば妊娠できる?といったイメージがあるのも事実です。しかし結論から申し上げれば、世間一般で言われているほどに顕微授精の妊娠率は高くありません。ここで顕微授精と確率の関係性について、解りやすく具体的に言えば、受精率と妊娠率は違うことについて、お話します。
前述しましたが、顕微授精は人工的に授精させることができる技術ですので、原理的には受精率は体外受精より高くなると言えます。しかし正確に言えば、ご夫婦毎に不妊になる原因は単純に一つのこともありますが、多くのケースでは複数の原因が複雑に絡み合った結果として不妊症になっておられます。ですから、それぞれのご夫婦の不妊である状況(不妊病態)が重症なのか、軽症なのかによって、受精率も流産率も大きく異なりますので、妊娠率は0%から100%まで変動してきます。つまり一概に受精率が◯%とか、尚のこと妊娠率が◯%ということは出来ません。
顕微授精の現実:妊娠率の壁と出生率への影響
参考までにお話しますが、2022年の日本産科婦人科学会の報告では、女性の年齢をベースにした顕微授精平均妊娠率(妊娠できる確率の平均値)は約20%(移植あたり)です。皆さんもご存じのように、女性の年齢の影響により(加齢に伴い)妊娠率は下がりますので、40歳になると10%以下にまで低下します。また男性側の精子の質の善し悪しが妊娠率に大きな影響を与えます。あまり知られていませんが、精子の質は加齢に影響されるというよりは、生まれつきの問題が直結しています。ですから、女性はなるべく早い時点で治療を開始することが望まれますが、男性は 治療開始前に精子の質を調べられる精密検査(詳細は後述)を実施されることをお勧めします。
また日本生殖医学会では、上述した日本産科婦人科学会の報告値より一層高い妊娠率を謳っていますが、顕微授精で高い確率で妊娠できるのでしたら、治療現場には顕微授精を繰り返して成果に繋がらないご夫婦が極めて少ないはずです。また繰り返しになりますが、生殖補助医療の主流になっている顕微授精で妊娠できる確率が高くなるのでしたら、結果として日本の出生率も上がっていることでしょう。
引用:日本における出生率の推移は?低下している原因や政府の対策も解説
実際の現場では、顕微授精をしても妊娠しないのならば、これ以上の方法はないので、顕微授精を反復せざるを得ない!という状況になっており、顕微授精反復不成功でご苦労されているご夫婦が多いのも事実です。もっと直接的な表現をすれば、治療現場には顕微授精反復不成功のご夫婦が山積みになっています。
顕微授精までしているのに、なぜ妊娠しないのか?
黒田IMRを受診される不妊治療歴が大変に長いご夫婦にお話を伺うことで、痛感させられることがあります。それは、顕微授精反復不成功のご夫婦に「なぜ、成果に繋がらないのか」という、「原因・理由」に関する正確な情報が全くと言っていいほどに伝えられていないことです。
【なぜ、このような状況になってしまったのでしょうか?】
治療現場における現状の精子の良し悪しの評価について お話しましょう。
一般的には「運動精子=良好精子」という認識が定着していますので、位相差顕微鏡という普通の顕微鏡で見て「元気に泳いでいれば問題なし」といったイメージで語られています。そのため、多くの医療機関で実施している世界保健機構WHO診断基準に基づいた一般精液検査では、主に精子数、運動率、形態を位相差顕微鏡で観察しています。その結果、精子数が少なかったり、運動率が低かったり、形態異常率(奇形率)が高かったり、WHOの診断基準に達していなければ、見た目だけで「男性不妊」と診断して、見た目だけで運動精子を1匹ピックアップして顕微授精に展開しています。これが男性不妊治療の現状です。
【必読!重要ポイント】ここで最も重要な「精子に隠された問題」について徹底的に解説します!
実は見た目には問題がない、運動良好な精子の中にも、位相差顕微鏡で検知できない、見えないところに隠れ潜んだ「多様な異常をもった精子」も含まれています。これを私たち精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページを参照ください)は『隠れ異常精子』といっています。
実際に、いろいろな隠れ異常をもった運動精子の写真をみてみましょう。
遺伝情報DNAが傷ついていたり(写真①)、精子を包んでいる膜・細胞膜が損傷していたり(写真②)、頭の中に空胞・穴が開いていたり(写真③)、先体という受精するところが障害されていたりする(写真④)、多様な隠れ異常をもった運動精子が存在します。
①DNA鎖が傷ついている「DNA断片化陽性精子」
②細胞膜が損傷されている「細胞膜損傷精子:赤色に染色」
③頭部の中に空胞(穴)が開いている「頭部空胞精子」
④ 先体が傷ついている「先体異常精子:赤色に染色」
つまり一概に「運動精子だから隠れ異常のない良好精子であるとは言えない」という事です。言い換えれば「泳いでいる」という、見た目だけの指標で選んだ「運動精子を用いた不妊治療は安全であるとは言い切れない」ということです。実は、この隠れ異常精子の存在が、顕微授精反復不成功の原因になり、また治療に伴うリスクにも繋がります。しかし、この点が現状の治療現場では直視されないまま、「運動精子=良好精子」という認識で治療が行われています。ここに現状の男性不妊治療の問題点があります。
【必読!重要ポイント】「隠れ異常精子」について解説!
隠れ精子異常には秘められたリスクがあります。顕微授精反復不成功に陥らないためにも、解りやすく隠れ異常精子に関する重要ポイントを解説しますので、是非読んでください。皆さんが正しい知識をもって上手な妊活をされることを願っています。
ポイント1:男性不妊の方においては、隠れ精子異常の発症率が高い傾向があります。
ポイント2:隠れ精子異常が起きてくる背景には『新生突然変異』という、親から受け継いだ遺伝子の突然変異ではなく、個体において突発的に新しく発生してくる遺伝子異常が関与しています。解りやすくいいますと、精子が形成される過程でDNAのコピーミスが起きてきますが、そのコピーミスがそのまま残った形が隠れ異常に繋がると考えていただきたいと思います。男性であれば何方でも、新生突然変異による隠れ精子異常が発生するリスクがあります。
ポイント3:隠れ精子異常は、位相差顕微鏡では検知されませんので見逃されたまま隠れ異常を持った精子が顕微授精に用いられている可能性があります。
ポイント4:顕微授精という技術は「あくまでも精子の数が少ない」という、精子の量的な不足を補う技術であり、隠れ精子異常の背景にある「新生突然変異」という、遺伝子異常を克服できる技術ではありません。ですから本来であれば、隠れ異常のない運動精子が卵子に注入されることが大前提になります。言い換えれば、一般精液検査で隠れ精子異常を検知できず見逃したまま顕微授精に用いても、結果には繋がらないということです。
【結論】繰り返しになりますが、顕微授精反復不成功の原因・理由は、見逃された隠れ異常精子の存在にあるということです。多くのご夫婦が辛い状況から脱却できないでおられます。
衝撃的な真実!顕微授精反復不成功の方を精査すると、約8割に隠れ精子異常が発覚!
正直なところ、顕微授精反復不成功の方を対象に、私たち精子研究チームが開発した、隠れ異常を検知できる分子生物学的な手法で調べてみますと、その8割に隠れ異常が発覚します。この結果は、隠れ異常が見逃されたまま顕微授精が反復された事実と、顕微授精が隠れ異常の背景にある遺伝子異常を克服できない事実を裏付けています。
先ほど隠れ精子異常には秘められたリスクがあると申し上げましたが、隠れ精子異常の最も怖い点を解説します。
【必読!重要ポイント】「隠れ異常精子の最も怖い点」について解説!
怖い点1:隠れ異常がいったん発症してしまうと、生まれてくるお子さんが男の子の場合には垂直伝播(隠れ精子異常が息子に遺伝)する点です。
怖い点2:精子DNA等が傷ついた隠れ異常精子が見逃されたまま顕微授精に用いられ、人工的に授精が可能になり、姙娠出産に至った場合に、出生児に何かしらの異常が発現するリスクがあるという点です。あまり表面化していませんが、顕微授精には本来であれば受精できない、もしくは受精すると危険な精子でも人工的に授精させてしまうリスクがあります。
まとめ
現在 顕微授精を反復しても成果に繋がらず、ご苦労されておられるご夫婦は、この「隠れ精子異常の存在」を疑ってみてください。もしかしたら見逃されているかもしれません。
「時は金なり!」です。是非とも黒田IMRの隠れ異常を検知できる精子精密検査を受けにいらしてください。ご一緒に現状から脱却できる一歩を踏み出しましょう。