男性不妊と風疹の関係とは?精子への影響について解説

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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風疹は男性不妊に影響するか

風疹は別名「三日ばしか」と呼ばれていますので、皆さんは「そんなに重症化する感染症ではないだろう!」といったイメージをお持ちでしょうか?

2006年MRワクチン(風疹麻疹混合生ワクチン)の接種が義務化(1歳と6歳の2回)されましたので、確かに子どもの発症率は低下しています。しかし一方で、20-40代の感染者が多い傾向にあり、また成人してから発症した場合は重症化することもありますので、実は軽視することはできないのです。

また皆さんご存知のように、風疹も感染症の一つですから高熱を伴います。「高熱」といったら、妊活男性や、すでに男性不妊と診断されている方は、「精子に何かしらの悪い影響があるのではないか?」と心配になることでしょう。精子を造る精巣の機能は、色々なストレスに敏感に反応して その影響を受けますが、この記事では風疹と男性不妊との関係、つまり精子への影響にについて解説します。

目次

風疹?気づいたときは「高熱」が出ている!

風疹の特効薬はあるか

風疹は、くしゃみで風疹ウイルスが飛沫することが原因で、人から人へと感染します。特徴的な症状は、発熱・発疹・リンパ節の腫大です。最初に熱発して「風邪をひいたかな?」と思った時には、顔に赤いぶつぶつした発疹がでてきます。その後、発疹は全身に広がり、リンパ節は首から耳にかけて腫れていきます。潜伏期は半日~1日ですので、あっという間に急激に発症することが多い、とても感染力が強いウイルス性疾患です。気づいた時には高熱を出していることが殆どです。冒頭でも申し上げていますが、風疹は別名「三日ばしか」と呼ばれていますように、重症な場合を除き、症状は3日程度(長くても5日程度)で消失します。

高熱が精子に与える影響は?男性不妊の原因に感染症が関係するの?

繰り返しになりますが、風疹はウイルス感染症ですから、熱発は避けられません。高熱を出す疾患と言ったら・・・皆さんは、コロナやインフルエンザ感染症、幼少期に罹患することが多い流行性耳下腺炎(おたふく風邪)が頭に浮かぶのではないでしょうか。実際には、ノロウイルス感染症や睾丸炎・・・たくさんあります。

皆さんは「高熱=精子に悪い!」と心配になることと思いますが、正直なところ、高熱が精巣の機能を低下させ、結果として精子を上手く造ることができなくなり「男性不妊」になる場合があります。そこで重要になるポイントは、どのくらい「熱が高くなるのか?高熱が続くのか?」なのです。言い換えれば、熱発してしまったら「一日でも早く解熱させること」が精子のために大切ということです。それでは、高熱が与える精子への悪影響について解説します。

高熱が続くと精子に悪影響?数と質の両方が低下する可能性も・・・

高熱が長時間続くことが原因で

精子の数を大幅に減少!させて

精子の質を低下(精子の機能異常を発症)!させる可能性あり

基本的に高熱は精子の質(精子機能)に大きな影響を与えます。具体的に言えば、40℃以上の高熱が数日間続くことにより、精巣の機能が障害されて、造られる精子の数が少なくなったり、また精巣機能の障害が重症化する精子の質(精子の機能)が著しく低下する場合もあります。つまり、精子の数的な低下(精子数減少)のみならず、精子の質的な低下(精子機能異常)に繋がるリスクがあるということです。風疹に罹患して熱発することにより、精子に悪影響を与えて男性不妊になる可能性はありますので、一日も早く医療機関を受診して解熱させることが重要です。

解熱してから数ヶ月~半年という長い時間を要して、精子の状態が回復する場合もありますが、正直なところ回復が難しいケースも少なくありません。精巣は高熱の被害から精子を守るために、通常は体温よりも低い温度に保たれていて、多少の熱発には耐えられる調節機構が備えられていますが、その限界点を超えると精子へ悪影響は避けられません

一般的には「精子の問題」となりますと、「精子の数が少ない:精子数減少」「精子の動きが悪い:運動率低下」「精子の変形している:形態異常」などが着目されますが、健康な命を誕生させるという観点から言えば、「精子の機能が良好か異常か」という点が最も重要になります。現実的な問題として、精子数減少や精子機能異常が認められた場合には、妊活に向けて不妊治療による医療介入が必要になることも多く、また治療も難航しますので、精子の問題は深刻化します。

コラム:高熱と精子の質の関係性とは?詳しく解説

精子機能に異常が認められた男性不妊の治療は難航する!

精子異常は男性不妊で難航する

不妊症の約半数は、精子に問題がある「男性不妊」です。上述していますが、「精子の問題」となりますと「精子数減少」「運動率低下」「形態異常」などが表面化されますが、生殖補助医療による不妊治療が必要になる男性不妊の大半は、精子機能異常が認められるケースです。この精子機能異常が治療を難航させる原因になります。

前述したように、風疹のみならず高熱を伴う感染症に罹患することにより、精子に悪影響を及ぼして精子機能異常を発症させるという、生まれた後の後天性の問題が男性不妊になる原因となる場合は、時間を要しても改善を期待できる場合もあります。

しかし実際の治療現場では、先天性の問題(生まれつき遺伝子の問題を抱えていること)が直結して精子機能異常を発症させているケースが多いという現実があります。残念ながら、この遺伝子の問題を克服する根本的な治療法はありませんので、結果として治療が難航する傾向になります。

風疹って重症化するの?

  • 脳炎・血小板減少性紫斑病

国内では春から夏にかけて流行しますが、一度発症すると免疫がつき、2回目以降は感染しても発病しない可能性が高い感染症です。ただ稀ではありますが、風疹が重症化して、脳炎や血小板減少性紫斑病などの合併症が生じるケースがあります。前者では意識障害が出てきます。後者では手足にあざができるようになります。

  • 先天性風疹症候群

風疹感染において最も怖い点は、妊娠中の女性が風疹にかかると胎児に悪影響が出る(感染する)可能性、リスクがある点です。とくに妊娠20週未満の妊婦が感染した場合には、そのリスクが上がり、生まれてくる子どもに感染した場合は、先天性風疹症候群が発症し、生まれた時から眼、心臓、耳などに障害が現れる可能性があります。確率としては、妊娠1ヶ月で風疹になった場合は50%以上、妊娠2ヶ月の場合は約35%です。

ですから、妊活に向けて男性側も風疹にかからないように事前に予防対策をしておくことが望まれます。

風疹から精子を守るために出来ること、予防法は?

風疹から精子を守る

基本的に風疹に対する特効薬はありません。治療法としては、風疹の発症とともに併発した高熱に対しては解熱剤で対応しますが、あくまでも対処療法になりますし、大半のケースでは自宅で安静にしながら回復を待つことになります。稀に重症化した場合には、入院管理が必要になります。以下の予防法をまとめましたので、参考にしてください。

  1. 抗体が備わっていない男性は、妊活に向けて事前に風疹ワクチンを接種しておくことが望まれます。基本的に総合内科を受診されれば対応していただけます。医療機関によっては産婦人科や小児科でも対応可能です。
  2. また妊活中の男性は、熱発しておられる方との不要な接触をなるべく避けるように注意してすることも大切です。
  3. 健康的な身体を維持して免疫力を強化しておくことが重要です。偏食を避けてバランスの取れた食事を摂取すること、適度な運動も取り入れて体の新陳代謝を上げまること、質の高い睡眠を確保することを心がけましょう。
  4. 感染症が流行する季節には徹底した手洗い・うがいを習慣化して、高熱を引き起こす病気の予防に努めてください。予防していても発熱した際には、早期に医療機関を受診して適切な治療を受けてください。なるべく早く体温の上昇を抑えることが、精子の質を守るためには大切です。

注意!妊娠中に風疹予防接種を受けることは出来ません!

妊娠中の予防接種

防接種MRワクチンは、風疹麻疹混合の生ワクチンに分類されますので、接種によりワクチン用に弱められた風疹ウイルスが体内で増殖することで抗体が作られて免疫がつきます。このような作用をする生ワクチンを妊娠中に受けることができません

また大切な注意事項として、予防接種を受けてから2ヶ月は避妊が必要になります。ですから、できれば妊活前に風疹対策、具体的には これまでに風疹に罹患したか、予防接種を受けたか、抗体免疫がないのか等を確認しておくことが効率的です。

補足:風疹は どのように診断するの?

風疹は、問診と症状の経過等で診断されることが多いですが、確定するためには血液検査で抗体量を測定したり、またPCR検査で風疹ウイルス遺伝子が検出されるかを調べます。医療機関にもよりますが、一般的に血液検査の結果が出るまで数日を要しますので、診断された頃には症状が消えていることも多々あります。

まとめ

風疹の心配をしないで妊活に集中するためにも、事前に風疹予防対策をしましょう。男性の高熱は精子に悪影響を及ぼして男性不妊になる可能性がありますので、なるべく高熱を伴う疾患にかからないように、健康的な体を維持して健康的に生活するためにも免疫力を強化しましょう。

黒田IMRは、精子側の関連技術に特化している男性不妊専門クリニックです。これまでに高熱を伴う疾患に罹患された方で、「精子の状態」を心配されている方は、一度ご相談にいらしてください。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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