男性不妊は家族に言うべき?精子異常の真実と伝える前に考えてほしいこと

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

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男性不妊_家族に言うべき

私が医師になりました1980年代は、精子に全く関心が持たれていない時代でしたので、精子に関する研究は極めて遅れていました。そのような時代的背景からも推測できるかと思いますが、40~50年前には「男性不妊という概念がない!」というほどに「赤ちゃんができない!不妊症かもしれない?」となりますと、その「原因は女性側にある」と思われてきました。

現在では、出遅れていた精子研究も進歩してきたことで「不妊になる原因の約半数は、男性側の精子に何かしらの問題がある」ということ、言い換えれば、「男性側に原因がある男性不妊が意外と多い」という事実が広く知られるようになりました。

そもそも男性不妊とは? 皆さんは、どのように捉えていますか?この記事では「どうして男性不妊になるのだろう?」「何が原因で、精子の状態が悪くなってしまったのだろう?」等、率直な疑問に答えます。同時に「男性不妊の本質」「精子の真実」を知っていただき、その上で「男性不妊であることを家族に言うべきか否か?」について考えていきましょう。

目次

実は、精子の問題解決が不妊治療の鍵!

不妊になっているケースの大半が、ご夫婦それぞれの幾つもの原因が複雑に絡み合った結果です。つまり不妊になる原因は、ご夫婦毎に異なり多種多様ですので、治療内容のみならず、リスクや成功率も一律同じにはなりません。ですから、皆さんと一律同じ治療をしていても結果には繋がりません。しかし結論から申し上げれば、不妊原因の約半数を占める「精子の問題」を いかに解決できるか!が 不妊治療の鍵になります。なぜならば、精巣で精子を上手く造ることができなくて精子の状態を悪くさせている原因が検査により明確になり、手術などで改善が期待されるケースもありますが、実は その比率は低く、なかなか治療が難しいケースが多いからです。

とくに体外受精や顕微授精といった生殖補助医療の治療対象になる男性の精子の異常は、一般精液検査で用いる普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で見て「精子の数が少ない:精子数の減少」とか、「泳ぎが乏しくて元気がない:運動率の低下」といった話ではなく位相差顕微鏡では検知できない(見えない)精子の中に隠れた異常として発現する傾向が強いので、治療現場では見逃されがちなのです。これを「隠れ異常精子」と言っていますが、具体的に言えば、精子DNA損傷をはじめとする多様な機能異常であったり、精子の頭の中に隠れた構造異常だったりします。

頭部の中に空胞(穴)が開いている「頭部空胞精子」
DNA鎖が傷ついている「DNA断片化陽性精子」

しかも最も厄介な点は、隠れ精子異常は『新生突然変異』という、父親から受け継いた遺伝子ではなく、突発的に発生した不運な遺伝子の突然変異(遺伝情報DNAのコピーミス)に起因して発症してくる点です。つまり、遺伝子の突然変異が複雑に関与した結果が、隠れ精子異常として現れるということ、男性不妊の大半を占める精子異常が先天異常(先天性)ということです。結果として、精子異常の男性不妊治療は難航します。ここに男性不妊、精子の問題の難しさがあります。

精子の問題の大半は先天性!自身の「何が悪い」ということではなく「不運」だった!

精子の問題の大半は先天性

隠れ精子異常の大半が先天性、しかも新生突然変異という、父親から受け継いた遺伝子ではなく、突発的に発生した不運な遺伝子変異(遺伝情報DNAのコピーミス)に起因するわけですから、自身をはじめ誰も責めることはできません。ただ知っておくべき点として、不運にも一旦発症してしまうと垂直伝播(息子に遺伝)するという点です。ここに男性不妊、精子の問題の辛さがあります。

また最も注視すべき点は、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡では検知することができないので、隠れ精子異常が見逃されたまま顕微授精に用いられ、人工的な授精が可能になり、妊娠、出産に至った場合に、生まれてくる子供に何かしらの異常を発症させるリスクがある点です。

不運にも男性不妊!親に伝えるべきか?

いくら不運による遺伝子の突然変異が原因で精子の状態が悪くなったにしても、上述したように、遺伝子異常を克服できる治療法はありませんので、治療が難航する点を踏まえますと、心配してくれている親に「どのように伝えるか」「伝える必要があるのか」については、とても難しい問題です。双方に心の痛みを共有することになります。

当然のことですが、親子といっても、それぞれに置かれている環境と立場は違います。その状況に応じて、パートナーとも よく相談されてから決断することになるでしょう。伝えるべきとも、伝えないべきとも、どちらとも言えません。

たた私がお伝えしたいことは、学問として精子の問題を理解することができれば、家族で男性不妊の心の問題を乗り越えることができるのではないでしょうか。

まとめ

男性不妊、とくに「精子異常」は深刻な問題です。だからこそ、精子の問題を なるべく早い時点で正確に把握して、その方の「精子異常のタイプに合った、安全で適正な治療法を選択できるか否か」を見極めることが大切です。

黒田IMRは、精子側の関連技術に特化しています。その背景には、院長が現在に至るまでの約40年、ヒト精子の研究を専攻し、研究チームと共に、安全かつ有効な精子側の関連技術を開発してきたという裏付けがあります。とくに男性不妊の検査と治療に力を注いでいますので、ご心配の方は一度ご相談にいらしてください。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

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