精子が悪いから顕微授精で?悪い精子を使ったら危険では?

黒田優佳子 医師
この記事の執筆者 医師・医学博士 黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学大学院にて医学博士号を取得。
その後、東京大学医科学研究所 生殖医療研究チームの研究員として、男性不妊に関する基礎・臨床研究に従事。
臨床精子学の第一人者としての専門性を活かし、男性不妊に特化したクリニック「黒田IMR(International Medical Reproduction)」を開院。
診察から精子検査・選別処理、技術提供に至るまで、すべてを一人の医師として担う体制を確立。専門性の高い診療を少数精鋭で提供しつつ、啓発・講演活動にも取り組んでいる。

詳しい経歴・実績一覧はこちら

精子が悪いから顕微授精
目次

顕微授精が生殖補助医療の主流だが・・・

顕微授精は、極細のガラス針に1匹の精子をピックアップして体外に取り出した卵子に穿刺注入することにより授精させる技術、言い換えれば、人の手によって人工的に授精させることを可能にする技術です。

顕微授精は「1匹でも精子がいれば妊娠できる方法である」と紹介され、解りやすいイメージが先行し、胚や出生児への影響が十分に解らないままに、精子の状態が悪い方に対する唯一の対症療法として急速に普及しました。その結果、顕微授精の適用が拡大され、現在では生殖補助医療の主流になり、授精法の約8割を占めています。

顕微授精にはリスクが伴う

【不妊治療】顕微授精にはリスクが伴う

顕微授精は、授精に必要な精子はたったの1匹で良い訳ですから、極端に精子が少ない方の男性不妊治療として利便性が高い技術です。治療現場では「運動精子=良好精子」という認識にありますので、普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)でみて運動精子が1匹ピックアップされて顕微授精に用いられています。しかし実際には『隠れ異常精子』と言って、精子の中に多様な質的な異常(精子機能の異常)が隠れ潜んでいる運動精子が存在し、しかも顕微授精の治療対象になる男性不妊の方の精子には、この隠れ異常率が高い傾向が認めまれます。

注視すべき点は、この隠れ精子異常は、一般精液検査で用いる位相差顕微鏡では検知されません(調べることができません)ので、隠れ異常が見逃されたまま顕微授精に用いられる可能性がある点です。さらに注視すべき点は、隠れ精子異常の発現には遺伝子の問題が関与していますので、隠れ異常精子を用いた顕微授精で妊娠した場合に生まれてくる子どもに何かしらの異常を発症させるリスクがあります。ここに顕微授精のリスクがあります(詳細は、黒田IMRのホームページを参照してください)。

また一方で、顕微授精では「針で卵子に穴を開ける」ことになりますが、このことは出生児へのリスクはないのでしょうか? 一般的に「穴を開けても修復がされるので、大丈夫です」と語られていますが、成熟卵子の大きさと針の直径から換算しますと、野球ボールに鉛筆で穴を開ける位の結構大きな穴が開きます。正直なところ、顕微授精で卵子に穴が開くことに対する安全保証が化学的に立証されている訳ではないのも事実です。

Author information

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

目次