今では不妊治療も身近な医療になりましたので、ご自身の周囲でも妊活中の方は いらっしゃることでしょう。また「赤ちゃんが欲しい・・・」と妊活中のご夫婦にとって「どうすれば妊娠できる確率を上げることができるのだろう・・・」と考えることでしょう。妊活努力をしていても「なかなか妊娠しないな!」となると「そろそろ不妊治療をするか!」と重い気持ちで専門施設を受診されるのではないでしょうか。その時 注目するのが、施設が掲げる妊娠率になることと思います。この記事では『妊娠できる確率』について、言い換えれば『妊娠率』について、正しく理解して頂くための情報を発信しています。
また不妊治療といったら、よく耳にするのか『顕微授精』という、精子が少なくても授精させられる方法ではないでしょうか。皆さんは、顕微授精は とても高度な技術で、顕微授精までしたら妊娠できる確率は上がるだろう?と思われている方も多いことでしょう。そこで この記事では『顕微授精という技術』についても解説し、『実際の顕微授精の実力と限界』について、つまり「顕微授精で妊娠率が上がるのか?」についても言及します。
目次
治療現場では顕微授精が主流!
顕微授精は、不妊治療に用いられている生殖補助医療技術の一つで、顕微鏡下で精子1 匹を選んで卵子に注入し、人工的に授精させることを可能にする技術です。不妊治療の現場では「運動精子=良好精子」という認識が定着していることもあり、元気に泳いでいる精子が顕微授精に用いられています。その精子1匹を選定する基準は、正直ところ、科学的な根拠に基づいているわけではなく「見た目で」つまり「主観的に」運動精子を 1 匹 ピックアップして卵子に注入しています。
顕微授精の技術が導入された当初は、精子の数が極端に少ない場合、運動率が低い場合、精子の受精力が低い場合など、体外受精では受精が難しいと考えられる男性不妊の方を対象に用いられていました。しかし時代の流れとともに、顕微授精に必要となる精子は「たったの1匹」でいいこと、また人の手を介して人工的に授精させて「受精率を上げられる」こと等の利便性が優先されるようになり、結果として顕微授精の適応範囲が自然と拡大し、急速に普及しました。今では、生殖補助医療の受精法の約8割を占めるまでになり、顕微授精が生殖補助医療の主流になっています。
皆さんが、気になる点は、
・ 顕微授精で妊娠する確率、つまり妊娠率が上がる?
・ 人工的に授精させて(むりやり授精させている感じ?)顕微授精って安全?
といった点でしょう。
日々の診療の中で、私のもとにご相談に見えるご夫婦の大半が、
「精子の状態が悪いから顕微授精をしましょう!」と説明されましたが「悪い精子を授精させても問題なのでしょうか?」と質問されます。
この記事では、それらの回答を解りやすくまとめました。是非とも最後まで読んでください。心配していた点について納得感が得られることでしょう。気になっている点や心配な点を解決してから治療に着手していただくことをお勧めします。この記事を読んでくださった皆さんが「気づき」を持って「一歩前進」できますことを願っております。
顕微授精で妊娠できる確率は?
2022年 日本産科婦人科学会によると、女性の年齢をベースにした顕微授精平均妊娠率(妊娠できる確率の平均値)は約20%(移植あたり)と報告されています。年齢毎では、20代(21~29歳)では31.2%、30代(30~39歳)では27.6%、40代(40~49歳)では10.3%、50代以上では0%です。皆さんもご存じのように女性の年齢が上がるに伴って妊娠率は下がりますので、個人差がありますが、女性はなるべく早い時点で治療を開始することが望まれます。
一方で、男性側の精子の質の善し悪しが妊娠率に大きな影響を与えます。あまり知られていませんが、精子の質は加齢に影響されるというよりは、生まれつきの問題が直結しています。ですから、男性は治療開始前に精子の質を調べられる精密検査(詳細は後述)を実施されることが望まれます。
補足になりますが、日本生殖医学会では、上述した日本産科婦人科学会で報告されている数値より一層高い妊娠率を謳っています。しかし正直なところ、顕微授精で高い確率で妊娠できるのでしたら、治療現場には顕微授精を繰り返して成果に繋がらないご夫婦が極めて少ないはずです。また生殖補助医療の受精法の8割を占めている顕微授精で妊娠できる確率が高くなるのでしたら、結果として日本の出生率も上がっていることでしょう。
「平均妊娠率」とは?何を意味するのか?
妊活中のご夫婦は「生殖補助医療技術で、どのくらい妊娠できる確率(妊娠率)が上がるのだろうか?」、また「高い妊娠率を掲げる医療機関は、どこなのだろうか?」など、どうしても「妊娠率」という指標に頼らざるを得ない気持ちになるかと思います。これは当然のことでしょう。そこで「平均妊娠率」とは? その数値を どのように理解することが正しいのか、また自分たちにとって上手な妊活に繋がるのか・・・について解説します。
結論から申し上げれば、「自分たち夫婦が妊娠できる確率」と「学会や施設が掲げている平均値として出している妊娠率」は、不妊である原因や背景によって大きく変動しますので、鵜呑みにしない!こと、大事なのは「自分たち夫婦」が妊娠できる確率=「個別」妊娠率を正確に把握することになります。
もう少し解りやすく解説します。
まず・・・不妊になる原因は、夫婦毎に大きく異なり、その背景も多種様々です。通院されているご夫婦皆さんが、同じ不妊原因なわけがありません。
一言で「精子が悪い!」といっても、「悪くさせている原因がどこにあるのか?」「またどの程度悪いのか?」についても様々です。
また治療が開始されますと、妻の年齢が着目されがちです。勿論、女性は加齢に伴って妊娠率が低下しますが、若くても背景は多様ですので、多角的な視点から不妊原因を明確化しなくてはなりません。
その他、治療歴は長いのか、これまでどのような治療を受けてきたのか、どうして治療成果に繋がらなかったのか等々、夫婦が抱える背景も男女とも多岐にわたります。
【結論1】不妊症は夫婦それぞれが持つ複数の不妊原因が複雑に絡み合った結果として起きてきますので、自分たち夫婦の不妊原因が「軽症なのか?」「重症なのか?」により妊娠率は0%から100%にまで変化するということです。
通院されているご夫婦皆さんが、同じ不妊原因なわけがありませんので、夫婦の不妊の状態により、不妊治療の「方法」も「リスク」も「妊娠率」も一律同じにはなりません。
皆さんと同じ治療をしているから安心!ではなく、皆さんと一律同じ治療をしていて大丈夫? 皆さんと同じ方法が、自分たち夫婦の不妊原因を克服できる適正な治療法なのか?・・・ということに疑問を持って下さい。
言い換えれば、皆さんと一律同じ治療を行っても、自分たちに適正な方法でなければ妊娠しません。つまり、皆さんと同じ治療を行っても、妊娠率は夫婦毎に大きく異なるということに気づいてください。
言い方を変えれば、自然に妊娠できるご夫婦、もしくは治療が容易な不妊原因を有するご夫婦に顕微授精を施すことにより、高い受精率と妊娠率を実現できますので、施設の平均妊娠率は上がります。一方で、治療が困難な不妊原因を有するご夫婦は、顕微授精を繰り返しても妊娠できる可能性は低いまま成果に繋がらず治療が難航しますので、施設の平均妊娠率は下がるということです。
【結論2】施設が掲げる平均妊娠率は夫婦にとっては無関係であり、自分たち夫婦が妊娠できる確率=「個別妊娠率」が何%なのか?ということを正確に見極めることが重要ということです。
施設が掲げる「平均妊娠率」に惑わされないで! 自身たちの不妊病態に「最適な治療法」を「安全に提供」してもらう!ことが「成果に繋がる」可能性が高くなること、上手な妊活になるということです。
顕微授精の成功率を下げている原因は?
黒田IMRは開院して25年になりますが、その間に多くの不妊治療歴が長いご夫婦が相談にみえました。その大半は、顕微授精を10回以上、中には30回以上繰り返されておられ、なかなか成果に繋がらないという、顕微授精反復不成功のご夫婦です。
ご夫婦にお話を伺いますと「精子の状態が悪いので顕微授精をしましょう」「1匹でも精子がいれば顕微授精で妊娠可能です」と説明を受けて、治療法として顕微授精が勧められて実施され、結果にならないと また同じ治療が繰り返されて・・・といった経緯のご夫婦ばかりです。結果として、顕微授精を繰り返している内に妻の年齢も重なり、当院受診時には40歳半ばになられているケースが少なくありません。とても心痛むことです。
繰り返しになりますが、顕微授精で妊娠率が上がるのならば、顕微授精反復不成功にはなりません。また生殖補助医療の主流になっている顕微授精で妊娠率が上がるのならば、日本の出生率も上がっているはずです。ということは、顕微授精をしても妊娠率が上がらない原因があると言うことです。
冒頭で、顕微授精に用いる1匹の精子を選ぶ基準には、科学的な根拠がないままに「見た目で主観的に元気に泳いでいる」精子を 1 匹 ピックアップして卵子に注入しているとお話しました。また一方で治療現場では、なぜか?科学的根拠もないままに「生殖補助医療の高度化に伴って妊娠率が向上する」と強調してきた背景があります。そのような背景からでしょうか? 顕微授精まですれば妊娠できる?といったイメージが定着しています。
しかし実際の現場では「顕微授精をしても妊娠しないのならば、これ以上の方法はないので、顕微授精を反復せざるを得ない!」という状況になっており、顕微授精反復不成功でご苦労されているご夫婦が山積みになっています。ということは結論から申し上げれば、世間一般で言われているほどに顕微授精の妊娠率は高くないということです。その原因を掘り下げていきましょう。
顕微授精までしているのに「妊娠しない!」のは、なぜ?
科学的な根拠がないままに「見た目で主観的に元気に泳いでいる精子=運動精子」を 選んで顕微授精に用いている現況を繰り返しお話してきましたが、実は、運動良好な精子の中に見えないところに隠れ潜んだ「多様な異常をもった精子」が混在しています。この異常精子を『隠れ異常精子』といっていますが、一般精液検査で用いる普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)では見えないため、見逃されてしまいます。
黒田IMR院長を含む精子研究チーム(詳細は、黒田IMRのホームページを参照ください)は、この隠れ潜んだ精子異常を正確に検知することができる分子生物学的な高度な検出法を開発しました。この方法で当院に相談にみえる顕微授精反復不成功の方の精子を調べてみますと、その8割に隠れ異常が発覚します。結論から申し上げますと、顕微授精反復不成功の原因、つまり顕微授精の成功率を下げている原因には、見逃された隠れ異常精子の存在が大きく影響しているということです。
それでは・・・
隠れ異常がある精子が顕微授精に用いられた場合に、なぜ妊娠率が下がるのでしょうか?
その答えは・・・
隠れ精子異常が起きてくる背景には『新生突然変異』という遺伝子異常が関与しています。具体的に説明しますと、精子が形成される過程で起きてくるDNAのコピーミスになりますが、親から受け継いだ遺伝子の突然変異ではなく、個体において突発的に新しく発生してくる遺伝子異常になります。要するに生まれつきの問題(先天性)が隠れ精子異常を発症させているということです。顕微授精は その先天性の遺伝子異常を克服することは不可能です。ですから本来であれば、隠れ異常のない運動精子が卵子に注入されることが大前提になりますが、一般精液検査で隠れ精子異常が検知されず見逃されたまま顕微授精に供されても成果にはならないということです。
【結論】顕微授精反復不成功の方を対象に、私たち研究チームが開発した分子生物学的な手法で解析すると、その8割に隠れ異常が発覚したという結果は、
◎ 隠れ異常が見逃されたまま顕微授精が反復された事実と
◎ 顕微授精が隠れ異常の背景にある遺伝子異常を克服できない事実を裏付けています。
妊娠の邪魔をする隠れ異常精子の「最も怖い点」について
隠れ精子異常には秘められたリスクがあります。中でも最も怖い点を解説します。
隠れ異常がいったん発症してしまうと、生まれてくるお子さんが男の子の場合には垂直伝播(隠れ精子異常が息子に遺伝)する点です。
さらに怖い点は、精子DNA等が傷ついた隠れ異常精子が見逃されたまま顕微授精に用いられ、人工的に授精が可能になり、姙娠出産に至った場合に、出生児に何かしらの異常が発現するリスクがあるという点です。
あまり表面化していませんが、顕微授精には本来であれば受精できない、もしくは受精すると危険な精子でも人工的に授精させてしまうリスクがあります。だからこそ、事前に隠れ精子異常の確認と隠れ異常精子の事前排除が安全な命の誕生に向けて必須になるということです。
まとめ
不妊治療においては、とくに女性にとっては「時は金なり!」です。また不妊治療は「健康な命を誕生」させるための医療ですので「安全」が何よりも優先されなくてはなりません。
現在、顕微授精をかなりの回数繰り返されてもなかなか成果に繋がらないご夫婦は、是非とも黒田IMRの隠れ異常を検知できる精子精密検査を受けにいらしてください。もしかしたら隠れ精子異常が見逃されているかもしれません。黒田IMRは、異常精子を積極的に排除する高度な技術にも特化しています。ご一緒に現状から脱却できる一歩を踏み出しましょう。