黒田IMRは
です
精子側の技術に特化した黒田IMRの技術についてご理解いただけますと幸いです
当サイトお越しの方へ
精子検査は、治療方針を決定する上で極めて重要です。一般的な精子検査(精子濃度、運動率、頭部形態など)では、精子の詳しい情報を得ることができません。当院では、精子DNA鎖の微細な損傷、頭部空胞、細胞膜正常性など、受精や胚発生に関わる重要な機能を詳細に把握することができる『精密検査』を行います。
検査は自費となりますが、不妊治療の保険適応には回数制限がありますので、治療前に精子詳細情報を得た上で方針を決定された方が効率的です。
不妊原因の半分を占める男性不妊の約90%は造精機能障害(精子形成障害:精巣で精子を造る能力が障害される病態)であり、その場合、精子数の減少のみならず、多様な質の異常(DNA損傷を含めた精子機能異常)を伴います。顕微授精には、受精させるのに必要な精子はたったの1匹ですみますし、人為的に精子を穿刺注入して容易に授精させられるというメリットがあります。しかし一方で、顕微授精では、例えばDANが傷ついた、精子機能に異常がある精子でも人為的に授精させてしまうというリスクを伴います。言い換えれば、顕微授精という技術は、精子の量的不足(精子数が少ない)を補うことはできますが、精子の質的低下(DNA損傷を含む精子機能の異常)を克服することはできません。
したがって、安全性の高い顕微授精は、次の二点に絞られます。
DNA非損傷精子の選別技術を開発する過程で重要な発見がありました。それは、精子数、運動率が低くても意外とたくさんのDNA非損傷運動精子が得られる場合もあり、逆に精子数、運動率が高くてもほとんどがDNA損傷運動精子である場合もあるということです。
日本産科婦人科学会雑誌 Vol 61,No.6, N-189, 2009
4.不妊症一般精液検査は精液や精子の量的性状を示しているだけであり、必ずしも精子の質的性状(受精能力)を直接反映するものではないことに留意する
先体は精子頭部の前半部を覆う袋状の小器官で、その中には卵子に侵入する際に必要な加水分解酵素が入っています。この酵素が卵子と接着するときに放出されることにより、精子が卵子に侵入できるようになります。この一連の仕組みを「先体反応」と言いますが、言い換えれば、先体反応を起こすことができた精子が卵子に接着して侵入できるということです。
ですから、顕微授精に用いる精子は、先体反応を起こすことができた精子が選ばれることが必須になります。この先体反応の発現機構は、私の博士論文のテーマですから、いわば「黒田メソッドの原点」ともいえるものです。
先体反応、すなわち精子の卵子接着機能の検査では運動している(生存確認できる)精子において
を観察しなくてはなりません。
下図1では、人工的に赤く着色した先体部分が、先体反応を起こしていく過程で外れていく(赤い部分が剥がれていく)様子です。
下図2は、黒田メソッドにより分離した先体反応を起こす前の(先体が外れる前の)精子の先体部分を緑色で、核部分を赤色で特殊染色したものです。
図1…先体反応を起こしていく過程
図2…先体を緑、核を赤で特殊染色(「不妊治療の真実」幻冬舎より)
私は、先体の解剖学的な特性を利用して、精子の生存性を確保したまま先体反応の機能を解析できる検査法(コンカナバリンA法)を確立しました。 本法は、先体反応により露出された先体内膜上に出現したアスパラギン結合高マンノース型糖鎖を蛍光色素でラベル化したコンカナバリンAで組織化学的に特異染色した検出法です(下図3参照)。
下図3は、黒田メソッドにより分離した先体反応を起こした後の(先体が外れた後の)精子の蛍光染色像です。
図3 先体反応を起こすことができた精子の蛍光染色像
DNA損傷には色々なパターンがあります。2重鎖切断、片側開裂、酸化的損傷、化学物質による塩基修飾など多様です。その中でも、最も細胞致死性が高くなるDNA損傷は、言い換えれば、最も修復が困難となるDNA損傷は2重鎖切断です。そこで、ARTにおける精子品質管理の観点から安全なARTを目指すには、個々の精子の非特異的DNA損傷、とくにDNA2重鎖切断の初期段階を定量的に検出する方法の確立が必須です。
これまで数種類のDNA断片化検査法が報告され、受精率、妊娠率、流産率などの臨床結果との相関が報告されてきましたが、これらはDNA切断の初期段階の検出には不向きでした。そこで、私の精子研究班では、電気泳動法によりDNA断片の長さおよび数を泳動度の差、断片量として定量的に検知できることに着目し、個々の精子におけるDNA断片化を高精度に検出できる方法を確立しました。
下図1は、高精度に選別したDNA非損傷精子の電気泳動像です。数十本の均一なDNAファイバーが連続性に伸張しています。
下図2は、DNAが高度に損傷したDNA損傷精子の電気泳動像です。DNAファイバーの連続性がなく、切断されて顆粒状に見えます。
図1…DNA非損傷精子(DNA断片化陰性精子)
図2…DNA損傷精子(DNA断片化陽性精子)
精子頭部と尾部をつなぐ首の部分を中片部といいます。そこにはエネルギー(ATP、詳細は省きます)を産出するミトコンドリアが存在し、主として精子運動との関連が指摘されていますが、この中片部には胚分割に重要な役割を果たす中心体と呼ばれる小器官も存在することから、中片部形態が卵子分割に影響することも研究されています。
私は、精子中片部の形態観察は、精子運動のみならず胚分割に重要な意味を持つ可能性も踏まえ、精子精密検査の項目に加えております。
射精精子の中片部の形状は様々ですが、下図のように高精度に選別した運動精子では細く真っ直ぐな形状をしたものがほとんどです。
楕円形の正常頭部形態を有した運動良好な精子の中にも、先体の下の部分に穴が開いている状態のもの(頭部空胞化精子)も含まれ、空胞の数や大きさ、その割合は個人差が大きいのです。(以下の図1・2・3を参照ください)。
私の精子研究班では、精子頭部の空胞化している部分のDNA密度が低いことを明らかにしましたが、頭部空胞とDNA損傷との因果関係は不明です。その詳細に関しましては現在研究中ですが、精子精密検査の項目に加えております。
ここでは、見かけだけでは精子品質(機能)を評価することはできないということを繰り返し強調したいと思います。
下図1は、広く用いられている染色法ですが、あくまでも精子頭部形態だけを観察することを目的としている染色法ですので、先体や頭部空胞を観察することはできません。
図1…精子頭部形態のみ観察可能な染色法であり、先体や頭部空胞の観察は不可能な染色法
下図2は、黒田メソッドを用いて先体反応を起こす前の(先体を有している)精子を選別したものを染色したものです。精子頭部の前半部をcap状に覆っている先体部のほとんどが染色されていることからも、先体を有した先体反応未誘起精子が分離精製されていることが確認できます。
下図3は、新たに開発した希薄染色法を用いて、精子頭部空胞を観察したものです。
図2と図3は、同一視野、すなわち同じ精子を示しております。 図2にお示しした精子頭部形態および先体の状態も非常に良好でしたが、図3から先体の下の部分に高い頻度で頭部空胞を認めることが解ります。
この結果は、頭部形態が正常な運動精子であれば良好精子とみなす、従来の精子評価指標では不十分(不適切)であることを示しております。だからこそ、精子機能を詳細に調べることが重要であり必須であることがご理解いただけたことと思います。
図2…図3と同一視野先体 反応を起こす前の(先体を有している)精子の染色像
図3…図2と同一視野 精子頭部形態と先体の状態が非常に良好(図2)でも、先体の下の部分に多数の頭部空胞(図3)を有している場合もある
→詳細は顕微授精の間違った認識