元気に泳いでいる精子でも見えないところに異常がある
『隠れ異常精子』の存在を知っていますか?
世間一般では、精子に関する情報に関しては、真偽のはっきりしない不確実な情報が溢れています。不妊治療の現場では、普通の顕微鏡(位相差顕微鏡)で見て「精子の数が十分にあり、元気に泳いでいれば問題なし」つまり「運動精子ならば、良好精子であり、精子異常なし」といったイメージが定着していますので、運動精子が不妊治療に用いられています。
しかし私たち精子研究チームが、治療に安心して用いることができる、安全な精子(高品質な精子)を選別する技術開発を進める中で、運動良好な精子の中にも、見えないところにDNA(遺伝情報)や先体(卵子と受精する際に重要な役割をするところ)や細胞膜(精子を包んでいる膜)が傷ついていたり、頭の中に空胞(穴)が開いていたり、多様な異常が隠れ潜んでいる精子が多いことが明らかになりました。これを、私たち研究チームは、『隠れ異常精子』と呼んでいます。つまり、運動精子でも見えにところに異常があるということ=「元気に泳いでいる」だけでは精子の質を保証できないということ=「元気に泳いでいる」だけの指標で選んだ運動精子を用いた治療は安全であるとは言い切れないということです。
運動良好な精子の中にもDNA鎖が切断され、
遺伝情報に問題が生じてしまった隠れ異常精子が含まれている
運動良好な精子の中にも先体が損傷され、
受精できない隠れ異常精子が含まれている
運動良好な精子の中にも細胞膜が損傷され、
2次的にDNAも傷ついてしまった隠れ異常精子が含まれている
運動良好な精子の中にも頭部内に空胞(穴)がある
隠れ異常精子が含まれている
結論から申し上げれば、この隠れ異常精子の存在が男性不妊治療を難航させる原因になりますし、治療に伴うリスクにも繋がります。しかしこの重要な問題が、現状の男性不妊治療の現場において直視されていないまま「運動精子=良好精子」という認識で顕微授精を始めとする生殖補助医療に用いられている点に大きな問題点があります。
ですから、健康な命を誕生させる不妊治療においては、治療開始前に隠れ異常精子の存在の有無を確認しておくこと、隠れ異常が認められた場合には事前に隠れ異常精子を排除しておくことが必須になります。
隠れ異常精子の『怖さ』を知ってください
命を誕生させる不妊治療において、隠れ異常精子の怖い点は4つあります。
- 不妊男性の精子には、隠れ異常の発症率が高い傾向が認められる点。
- 隠れ精子異常が起きてくる背景には『新生突然変異』という、親から受け継いだ遺伝子の突然変異ではなく、個体において突発的に新しく発生してくる遺伝子異常が関与している点。
解りやすくいいますと、精子が形成される過程でDNAのコピーミスが起きてきますが、そのコピーミスがそのまま残った形が、隠れ異常に繋がると考えていただきたいと思います。男性であれば、どなたでも運悪く、新生突然変異による隠れ精子異常が発生するリスクがあります。 - 隠れ精子異常は、一般精液検査で用いる「位相差顕微鏡」という、普通の顕微鏡では検知されませんので、見逃されたまま、隠れ異常を持った精子が顕微授精に用いられている可能性がある点。
- 顕微授精という技術は「あくまでも精子の数が少ない」という、精子の量的な不足を補う技術であり、隠れ精子異常の背景にある新生突然変異という『遺伝子異常』を克服できる技術ではない点です。
ですから、本来であれば、隠れ異常のない運動精子が卵子に注入されることが大前提になりますが、一般精液検査で隠れ精子異常を検知できず、見逃したまま顕微授精に用いても、残念ながら結果には繋がらないというのが、顕微授精反復不成功の原因・理由です。多くのご夫婦が辛い状況から脱却できないでおられます。
正直なところ、顕微授精反復不成功の方を対象に、私たち精子研究チームが開発した、隠れ精子異常の存在を検知できる分子生物学的な手法で調べてみますと、その8割には隠れ異常が発覚します。この結果は、隠れ精子異常が見逃されたまま顕微授精が反復されている事実と、顕微授精が隠れ精子異常の背景にある遺伝子異常を克服することはできない技術である事実を裏付けています。
さらに隠れ異常精子の最も怖い点が2つあります。
1. 隠れ異常がいったん発症してしまうと、生まれてくるお子さんが男の子の場合には垂直伝播(親から子に遺伝)する点。
2. 精子DNA等が傷ついた隠れ異常精子が見逃されたまま顕微授精に用いられ、人工的に授精が可能になり、妊娠、出産に至った場合に、出生児に何かしらの異常が発現するリスクがあるという点です。あまり表面化していませんが、顕微授精には、受精できない精子や受精すると危険な精子でも人工的に授精させてしまい、生まれてくる子供に悪影響を及ぼす可能性・リスクがあります。
ですから、健康な命を誕生させる不妊治療においては、事前に
- 隠れ異常精子を「いかに精液中から排除できるか」
- 隠れ異常のない精子が「精液に何%含まれているのか」
を正確に調べることに意義があります。すなわち「精子の問題をいかに解決できるか!」が不妊治療の鍵になるということです。
私たち精子研究チームが開発した
- 隠れ異常精子を取り除く『高度な精子選別技術』
- 隠れ異常精子の有無を検知できる、分子生物学的な手法による『高精度な精子検査法』
により、黒田IMRでは、治療開始前に精子の「質の保証」と「量の確保」を可能にしますので、結果として『治療の安全性と成果の向上』に繋がります。
院長からのメッセージ
顕微授精反復不成功という、終わりのない不妊治療に陥らないためにも、治療開始前に『高精度な精子検査法』を受けて、隠れ異常精子の有無を調べてください。そして、もし隠れ精子異常が明らかになった場合には「早い時点で見つかってよかった」と捉えてください。
黒田IMRでは、「どのような種類の異常なのか」「どの程度の異常なのか」等に関する科学的根拠に基づいた詳細情報を 写真を見ていただきながら解りやすくお伝えします。その上で、その方の精子のタイプに合った的確な安全治療指針を組み立てます。
つまり、精子側から安全な治療の「適正化・効率化・個別化」を図ることができますので、最終的に治療の回り道をしないで成果の向上に繋げる(時間・気力・体力・費用を節約する)ことができます。ここに最初に精子精密検査を実施する意義があります。女性の精神的・肉体的・時間的な負担が大きい不妊治療を「適正に効率よく」進めてください。
【豆知識】精子の老化について:卵子と同様に「加齢とともに精子も老化する」という話もよく耳にしますが、精子の老化は、言い換えれば、精子異常の増加(精子の質の低下)のことです。本ページで解説したように、その主な原因は『新生突然変異』という遺伝子異常ですので、卵子と違って「精子は加齢の影響は低い」というのが真実です。