精子の凍結保存(精子凍結)のメリットやデメリット│子供の影響も解説

公開日:2022.11.09
更新日:2022.11.24

精子凍結保存とは

精子凍結保存とは、精子の備蓄を目的として、マイナス196℃の液体窒素タンク内に保存することをいいます。不妊治療の一環として、精子備蓄の必要性が認められた場合に凍結保存するケースがほとんどです。

精子凍結保存はどのような方に勧められるか

精子凍結保存の目的は、大きく分けると2つあります。
1つ目は、不妊治療のためです。
夫が海外駐在で、卵子のベストなタイミング(排卵の時期)に帰国できる保証がない場合には、精子凍結保存は必須になります。また、夫の急な出張や体調不良など、色々な状況を想定して予め精子を保存しておくことも重要です。
さらに不妊治療の現場では、精子の数が少なく、一回の射精では受精に必要な精子数が得られないケースもあります。そのような場合にも治療前に精子を備蓄する目的で凍結保存技術が生かされます。

2つ目は、未婚男性も含めて癌が見つかり、手術や放射線・化学療法をする場合です。これらの治療は癌細胞を殺すことが目的ですが、同時に精巣における精子形成機能(造精機能)を強く傷害する可能性があります。そのために、治療を開始する前に精子を凍結保存するという手段が取られます。

実際のところ、射精毎に精子数は大きく変動しますし、採卵当日に緊張の余り射精できなくなる方や、上手に射出できず精子数が極端に少なくなる方もおられます。当方では、そのような場合も想定し、全ての男性に治療前に高品質精子を選別した上で保存して、凍結精子によるback upをしております。

精子凍結保存のメリット

上述しましたが、精子を凍結保存しておくことにより、不妊治療において夫が不在でも妻の排卵期に治療を実施(同調)できるメリットがあります。つまり、射精と排卵の同調が不要になります。また、不妊治療において乏精子症(精子数が少ない)上手に採精できなかった場合においても、治療前に精子を凍結保存することにより充分な精子数が得られるメリットがあります。

さらに、未婚男性も含めて、手術や放射線・化学療法の治療により造精機能が障害される可能性がある場合には、治療前に精子凍結保存できることは治療後のquality of lifeの観点からも極めて重要です。

その他、逆行性射精、精路閉塞(特に人工精液瘤設置例)、脊髄損傷による射精障害などの精液採取困難例に対しましても、各々の症例に適した方法で精液を採取することにより、精子の凍結保存が可能になります。

このような数々のメリットがありますので、精子凍結保存に対する臨床的な要望は高まる傾向にありますが、精子の品質を低下させることなく凍結融解できる高精度な技術を持っている施設は極めて少ないという現状にあります。

精子凍結保存のデメリット

人間の一般的な細胞は、細胞膜という袋の中にある細胞質という溶液に色々な器官が浮いているイメージです。一方で、オタマジャクシ形の精子の頭部には核、すなわちDNAがぎっしり詰まっており、細胞質(溶液)の部分は極めて少ないという特性がありますので、細胞質が多い卵子に比べて精子は凍結に向いている細胞になります。

しかし、精子の品質は個人差が大きいため、精子に見合った最適な凍結融解を可能にする技術を提供しなくてはなりません。正直なところ、精子凍結に関わる一連の技術には施設格差があり、デメリットは凍結融解の過程において精子の妊孕能(精子の品質)が低下する点にあります。

その他、以下のような問題点・リスクがあることを認識した上で、精子凍結保存のメリットを生かして有効活用することが望まれます。

1 未婚者が精子凍結保存を希望した場合
最終目的を不妊治療に用いることとすると、積極的に結婚相手を探すよう努力しなくてはならず、パ-トナ-の負担も考えると難しい問題もあります。
未婚者の場合、多くは凍結中止となることから、「精子凍結保存は既婚者に限る」という意見もあり、今後の検討を要する課題が残されています。

2 未成年者が精子凍結保存を希望した場合
未成年の希望者の場合、個人の権利を考えると凍結の契約は避けられないのが現状ですが、ほとんどが両親の意向で行われていますので、将来的には本人の意思を明確化した再契約の必要性が生じます。

3 高齢者が精子凍結保存を希望した場合
60歳以上の高齢者の場合、精子凍結保存する意義・必要性を一層明確化しなくてはなりません。多くは本人の強い希望で凍結保存をすることになりますが、結果として凍結中止とになるケースが殆どです。

4 契約者死後の精子の取り扱いの問題
死後精子を用いた不妊治療で子供が誕生したことによりトラブルが生じる可能性もあり、そのリスクを回避するためにも「死後精子の不妊治療への使用は禁止すべき」であり、契約に「精子凍結保存は本人の生存中に限る」という条項がありますが、現状では法制化されるには至っていません。

精子凍結の凍結方法について

精子を凍結保存する際には その前に、「凍結保存に向いている精子のタイプなのか否か」を見極める精密検査をすることが前提になります。その結果、向いていない場合は、臨床応用の意義が低くなります。一方で、向いているタイプならば、あらかじめマイナス196℃の液体窒素内の環境に耐えうる高品質な精子を選別した上で、以下に解説するような点に十分配慮することで、精子凍結保存の技術成果が得られます。

一般的に、細胞を凍結する際に細胞内に氷の結晶ができてしまうと、細胞は壊れてしまいます。例えば、水を凍らせる場合でも、中に結晶を作らずに、ひび割れもさせないためには高度な技術が必要です。同じように、精子を凍結させる際にも、細胞保護剤を用いて精子を壊さないように脱水、氷晶形成を抑制させる技術が必須になります。また同時に、蘇生率を向上させるために、精子細胞表面を被覆して細胞膜の障害を防ぐ配慮も必要になります。

もちろん、精子凍結が上手くできても、治療に用いる際には凍結した精子を解凍しなければなりません。精子は凍結時と融解時の至適温度の変化率が異なっておりますので、精子融解技術も凍結と同様に細胞膜障害に配慮した高精度な技術が要求されます。

正確な知識がないと「凍結した精子を治療に使えば妊娠できて当たり前」と思ってしまいますが、精子の品質を低下させることなく、高品質を保持した状態で凍結、解凍することができなければ、その技術の臨床的な意義は失われてしまいます。

精子凍結の保存期間

精子を凍結保存する期間は施設によって異なります。世界保健機関(WHO)や日本産科婦人科学会で明確な基準を設けているわけではありません。

保存できる液体窒素タンクの容量にも限りがあるますので、保存期間を1年間に限定している施設もありますが、希望に応じて期間延長の更新手続きをしている施設も多いかと思います。

まとめ

黒田IMRの精子精密検査では、選別した高品質精子が凍結して解凍した後に、どの程度 生き返るか、つまり凍結保存に耐える力を精密に調べます。『高品質な精子の選別』という観点から言えば、凍結保存技術は細胞膜が弱い運動精子を排除する手段になります。
高度な精子選別技術に凍結保存を組み込むことにより、融解後に生き残る精子が例え僅かでも、ひたすら備蓄しておけば、精子を節約できる高効率体外受精法(人工卵管法)により、顕微授精を回避できる可能性が高まります。ただし、解凍後に全ての精子が運動性を失う場合は、現状では採卵当日に採取した精子の中から品質管理できた精子(顕微授精に用いても安全な精子)を選別して顕微授精に展開せざるを得ません。

監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
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