精子が生成されるサイクルとは?健康的な精子の生成で気を付けること

2022.04.27
精子が生成されるサイクルとは?健康的な精子の生成で気を付けること

精子が生成されるサイクル

思春期を迎えると、精巣の中で精子の元になる細胞の細胞分裂が開始され、精子が造られ始めます。オタマジャクシの形の精子が造られるまでにおよそ74日を要しますが、造られた精子は未だ未成熟の段階にあり、精巣の横にある精巣上体に移動して成熟を進めていきます。
写真は、成熟精子になる前段階の未成熟な状態にある精子(左)と、最終的に成熟した状態になった精子(右)です。

未成熟な精子と成熟した精子

精子を含む白濁液のことを精液といいますが、日々の診療をする中で、精液はあらかじめ精巣内に蓄えられていると誤解している方が多いような印象を受けます。しかし実際のところは、精液は精巣内に蓄えられているわけではなく、射精をする時にできるのです。もう少し詳しく解説しますと、射精をする際に精巣上体で成熟を進めている精子を含む分泌物を、前立腺やその後ろにある精嚢腺の分泌液が押し出して、その結果 それらが混ざり合って精液ができるのです。

射精回数による誤解

初診でお見えになられた際に「質の良い精子を造るために、禁欲期間を短くするようにいわれました」という声をよく耳にします。しかし、毎日射精するように禁欲期間が短いと精子濃度(1ml中の精子数)は下がり、また写真上の左写真のような、成熟精子になる前段階の未成熟な精子が目立つようになりますので、禁欲期間が短すぎてもよくありません。つまり、成熟した精子をある程度の数、射精するためには、一定の禁欲期間が必要になります。

不妊生活での禁欲期間について

禁欲期間が短い場合には、精液中に未成熟な精子(写真上の左写真)が目立つようになることをお話しましたが、一方で禁欲期間が長くなった場合は、せっかくうまくできた精子でも、精子を包み込んでいる膜(細胞膜)に傷がつき、その結果 精子の頭の中に収納されているDNAが損傷され、運動性が失われます。ですから、禁欲期間が長すぎてもよくありません。つまり、精子にも消費期限があるということです。

実際のところ、適正な禁欲期間はどのくらいなのでしょうか。個人差も大きいので、一概に何日の禁欲期間がよいと言い切ることはできませんが、各個人の精子の品質に見合った適正な禁欲期間(3日~5日)があります。

健康的な精子を作るためには

インターネットや雑誌には「〇〇を飲めば、精子が増える」といった情報があふれている影響もあり、不妊治療で受診した夫婦の大半は様々な「精子サプリ」を飲んでおられます。同時に、「精子が少ない」「精子の動きが悪い」と言われご夫婦からは、様々な質問を受けます。

「適度な運動は必要なのか?」「どんな食事が良いのか?」「精子を増やすためのお勧めの薬やサプリメントは?」「禁欲期間をどのくらいとれば良いのか?」「ブリーフよりトランクスの方が良いのか?」「ノートパソコンを膝において仕事をすると精巣に悪い影響があるのか?」「タバコやお酒はやめた方がいいのか?」「酸化ストレスは精子に悪い影響があるのか?」等々、以下に回答を記載いたします。

食生活

活性酸素を減らそうと、サプリメントを飲んでいる人も多いかと思いますが、活性酸素には4種類あり、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質で全ての活性酸素に対応できるものはありません。ですから、特定の活性酸素に対応する抗酸化物質を高濃度に含むサプリメントを飲むより、様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)やお茶、大豆などをバランス良く取る方が効果的です。

日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、バランスよく、多くの品目を摂取するように心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。
しかし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

運動

過度な運動をすると、活性酸素が増え過ぎた状態(酸化ストレス)になり、細胞のDNAや細胞膜、動脈の内膜等を傷つけることがあり、その結果、老化やがん、心臓の病気に繋がる可能性が生じます。しかし、私たちの体の細胞には、活性酸素で傷ついた細胞を修復したり、排除してくれる仕組みがありますので、何事も過度にならない限りは心配しないで大丈夫です。

日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、適度な運動を心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

サプリメント

医薬品は「病気の診断、治療、予防に使用することを目的とした薬品」と法律で定められていますが、サプリメントは医薬品以外をいい、あくまでも「補充」を意味し、「食品」と定義されています。

外来で話している患者夫婦の大半は、「医薬品には専門家に管理してもらわないと危険なイメージがありますが、サプリメントは自然のものだから自分で管理できて安心です」といいます。確かに医薬品には必ず副作用がありますし、よく効く薬ほど副作用も強く、使い方を間違えると大変危険ですので、専門家による管理が必要です。一方で、サプリメントは食品ですから、自身の判断で食べてもさほど危険がありませんが、逆に言えば、あまり効果を期待できないということです。

① 亜鉛は精子を増やすの?

亜鉛は、鉄の次に体内に多い必須微量元素で、細胞の増殖に不可欠です。前立腺液の中の亜鉛濃度は、血清(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分)の300倍以上で、精巣では盛んに精子が形成(細胞増殖)されています。そのような点から、亜鉛を摂取することにより精子が増える?といった発想が定着しているのです。
不妊治療施設で「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取していますが、あまり知られていない注意点があります。それは、亜鉛の過剰摂取が、銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招くという点ですので、長期摂取はお勧めできません。
通常の食事をしていれば、1日10ミリグラム程度は摂取していますので、亜鉛の欠乏や、逆に亜鉛の過剰摂取を心配する必要はありません。亜鉛をはじめとする必須微量元素は、少しの過剰摂取でも中毒に結びつく危険性がありますので、多くの品目を食す(偏食を避ける)という食事習慣が、一番安全かつ簡単な摂取法になります。

②アルギニンは精子を増やすの?

亜鉛サプリメント同様に、「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、精子サプリとして注目されているアルギニンを取られています。精子のDNAを構成するタンパク質のプロタミン内におけるアルギニンの占める割合が高いという点から、アルギニンを摂取することにより精子が増える?といった発想になったのでしょうか。
しかし、アルギニンは、非必須アミノ酸に分類され、体内で造ることができます。つまり、アルギニンは、通常の食生活をしていれば体内で過不足なく造られますので、サプリメントとして摂取する必要がありません。アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。

③ コエンザイムQ10は精子を増やすの?

細胞内小器官のミトコンドリアは、ブドウ糖を水と炭酸ガスに分解してエネルギーを作りますが、その最終工程で活性酸素を必要とします。精子サプリとして注目されているコエンザイムQ10ですが、活性酸素と水素から水を造る反応を助けます。

コエンザイムQ10が加齢とともに減少することから、アンチエイジングサプリメントや、抗酸化作用に着目した造精機能(精子形成)改善サプリメントとして利用されていますが、加齢により減るのは、必要とするエネルギー基礎代謝が減るからです。

コエンザイムQ10は、もともと体内で必要とされるエネルギーに合わせて生成、分解できる物質ですので、積極的に摂取する必要もないというのが真実です。コエンザイムQ10をたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。

結論、サプリメントで「精子は増えません!」

「精子の状態が悪い」といわれた妊娠したい夫婦が、「これを飲めば精子が増える」という情報に心を動かされる気持ちはわかります。

しかし、繰り返しお話してきましたが残念ながら、精子異常の背景には遺伝子の問題(先天異常)が関与しているケースが殆どですので、サプリメントでどうにかなる問題ではありません。

インターネット情報は、「できること」を強調しがちです。「できないこと」もたくさんあることを知ってください。

ブリーフよりトランクス?

一般的に造精機能を維持するためには、精巣上体を含め、精巣の周囲が体温より低いことが必須であることから、ぴったりとしたブリーフで体温を高めることが良くないという考え方が定着し、「精巣にはブリーフよりも通気性の高いトランクスがいい」という話は良く出てきます。熱を貯めないというイメージではブリーフよりトランクスの方が良いように感じますが、ぴったりのブリーフ着用の方が、みなさん不妊だという話は聞いたことがありません。

ノートパソコンが精巣に悪影響?

また、日々の診療の中で、ノートパソコンを膝において作業することにより、精巣の周囲に熱が貯まり、造精機能に障害を与えるのではないか?という質問も多いですが、最近のノートパソコンは省電力であり、発熱は最小限に抑えられています。パソコン自体の熱の影響よりも、同じ姿勢で長時間のパソコン作業をすることによる下半身の血行不良が生じる可能性があり、この血行不良が精子を造る精巣に悪影響を及ぼすのかもしれません。あまり長時間にならないように気をつけて作業すれば、さほど神経質になる必要はありません。

生活改善をしてもNGな場合も

ここで、繰り返しになりますが、不妊治療の現場において問題になるケースの大半は、先天性の遺伝子異常(先天異常)が原因で精子の形態異常が重篤になっている奇形精子症です。先天性の精子異常ですので、治療が困難になるケースが多く、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません。

また一方で、楕円頭部の運動精子、すなわち一見 精子の形が正常で「奇形精子ではない」と認識できる運動精子の中に、通常の顕微鏡では検知できない異常、「隠れ造精機能障害=隠れ精子形成障害=隠れ精子異常」が潜んでいるケースも多いのも事実です。この隠れ精子異常の背景においても、遺伝子の問題(先天異常)が関与していますので、このような場合も、食生活を改善するとか、適度な運動をするとか、そのような身近な環境を整えても残念ながら効果を期待できないということです。

このように精子の問題には遺伝子異常が関与している場合が殆どです。前述しましたが、精子奇形のみならず、精子異常の原因になる遺伝子異常は、『新生突然変異』といわれ、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起きます。その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので、大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。

まとめ

妊活を考えた方へのメッセージですが、精子の質を調べる精密検査をなるべく早い時点でやりましょう。その結果により、方向性が見えてきます。
詳細は、精子機能検査の項目を参照ください。

監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
日経woman

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