最適な禁欲期間とは│精子をためるのは妊活で良いことなのか?

2022.04.14
最適な禁欲期間とは│精子をためるのは妊活で良いことなのか?

最適な禁欲期間とは

成熟した精子をある程度の数、射精するには一定の禁欲期間が必要になりますが、個人差も大きく、一概に何日の禁欲期間がよいと言い切ることはできません。正確に言えば、各個人の精子の品質に見合った適正な禁欲期間(3日~5日)があるということです。

禁欲が短すぎる問題点

初診でお見えになられた際に「質の良い精子を造るために、禁欲期間を短くするようにいわれました」という声をよく耳にします。しかし、毎日射精するように禁欲期間が短いと精子濃度(1ml中の精子数)は下がり、また写真のような精液の中に未成熟な精子が目立つようになります。

つまり、禁欲期間が短すぎても駄目で、精子にも消費期限があるということです。

禁欲が長すぎる問題点

せっかくうまくできた精子でも、禁欲期間が長くなると、射精を待つ間に精子を包み込んでいる膜(細胞膜)に傷がつき、精子の頭の中に収納されているDNAに傷がつき(写真は、精子DNAが損傷し、DNA fiberが切れて顆粒状に拡散している)、運動性が失われます。

つまり、禁欲期間が長すぎても駄目で、精子にも消費期限があるということです。

損傷した精子を増やさないために出来ること

過度なストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、飲酒、喫煙習慣、長期禁欲、放射線、抗がん剤等、造精機能に悪影響を及ぼすと考えられる後天性の環境因子を排除するように心がけることは大事です。しかし、すでに別のコラムで解説していますが、損傷した精子(異常精子)の殆どは、先天性の遺伝子異常により誘導されますので、身近な生活習慣等の問題を改善できたとしても、精子の損傷が劇的に改善することの方が極めて少ないというのが真実です。

運動

過度な運動をすると、活性酸素が増え過ぎた状態が(酸化ストレス)になり、細胞のDNAや細胞膜、動脈の内膜等を傷つけることがあり、その結果、老化やがん、心臓の病気に繋がる可能性が生じます。しかし、私たちの体の細胞には、活性酸素で傷ついた細胞を修復したり、排除してくれる仕組みがありますので、何事も過度にならない限りは心配しないで大丈夫です。
日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、適度な運動を心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

以下に例を出して、解説したいと思います。

医療現場では、2~3気圧の酸素を満たした容器内に患者が入って体内酸素濃度を上げる、高気圧酸素療法という治療法があります。このような大気の10~15倍も濃い酸素の中で1時間の治療を行っても、成人の抗酸化防御システムはキャパシティーが十分に大きいので、活性酸素中毒は起きません。
また、42キロを走り抜くマラソンランナーに目を向けて考えてみましょう。日々の練習は勿論、本番の大会で激しく呼吸を繰り返して走り抜く結果、体内に大量の活性酸素が発生し、一部の細胞のDNAに傷がつきます。細胞は、活性酸素で傷ついたDNA部分を切り取り、修復します。その結果、活性酸素で壊れたDNAの破片は、ランナーの尿の中に排泄されますが、男子マラソンランナー皆が男性不妊になるという話は聞きません。つまり、少しくらいの激しい運動負荷では、酸化ストレスに神経質になる必要はありません。

飲酒

いくらお酒を飲んでも酔わない方がいらっしゃる一方で、採血する際のアルコール綿の消毒で皮膚が発赤する方もいらっしゃいます。両者の間には大きな違いがあります。

具体的に解説しますと、みなさんがよく耳にする二日酔いは、アルコールの分解が間に合わず、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇することが原因です。アセトアルデヒドは細胞傷害性が高いので、精巣にも悪影響がある可能性は否定できませんが、アルコール分解能においても個人差が大きいので、一概に二日酔いになってもどの程度 精子に影響するかはわかりません。また、造精機能が正常な方は、極めて余力がありますので、多少の飲酒は関係ないかも知れませんが、精子の形成を担う精巣は、正常な組織において1日量の細胞産生量が最も多い組織になりますので、この点を踏まえますと、細胞の形成に毒性を有する物質は、真っ先に精巣への影響を考えなくてはならないことは事実です。

一般的に過度の飲酒は、肝硬変や痴呆、発がん性等の関連が知られていますが、最近では、缶ビール1日に1-2本でも、長期間にわたる飲酒により脳の萎縮が起きるとのニュースがありました。当然のことですが、常識的な飲み方をお勧めします。

食生活

活性酸素を減らそうと、サプリメントを飲んでいる人も多いかと思いますが、活性酸素には4種類あり、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化物質で全ての活性酸素に対応できるものはありません。ですから、特定の活性酸素に対応する抗酸化物質を高濃度に含むサプリメントを飲むより、様々な抗酸化物質を含む緑黄色野菜(パプリカ、ほうれん草、ブロッコリー等)やお茶、大豆などをバランス良く取る方が効果的です。
日常生活を送る中で発生する活性酸素や酸化ストレスの範囲では、バランスよく、多くの品目を摂取するように心がけていれば、精子の異常に直結する心配をする必要はありません。しかし、遺伝子に問題があることが精子異常を誘導している場合は対象外になります。

サプリメント

医薬品は「病気の診断、治療、予防に使用することを目的とした薬品」と法律で定められていますが、サプリメントは医薬品以外をいい、あくまでも「補充」を意味し、「食品」と定義されています。
外来で話している患者夫婦の大半は、「医薬品には専門家に管理してもらわないと危険なイメージがありますが、サプリメントは自然のものだから自分で管理できて安心です」といいます。確かに医薬品には必ず副作用がありますし、よく効く薬ほど副作用も強く、使い方を間違えると大変危険ですので、専門家による管理が必要です。一方で、サプリメントは食品ですから、自身の判断で食べてもさほど危険がありませんが、逆に言えば、あまり効果を期待できないということです。

① 亜鉛は精子を増やすの?

亜鉛は、鉄の次に体内に多い必須微量元素で、細胞の増殖に不可欠です。前立腺液の中の亜鉛濃度は、血清(血液が凝固した時に上澄みにできる淡黄色の液体成分)の300倍以上で、精巣では盛んに精子が形成(細胞増殖)されています。そのような点から、亜鉛を摂取することにより精子が増える?といった発想が定着しています。
不妊治療施設で「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、亜鉛のサプリメントを摂取していますが、あまり知られていない注意点があります。それは、亜鉛の過剰摂取が、銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)や貧血など、様々な健康被害を招くという点ですので、長期摂取はお勧めできません。
通常の食事をしていれば、1日10ミリグラム程度は摂取していますので、亜鉛の欠乏や、逆に亜鉛の過剰摂取を心配する必要はありません。亜鉛をはじめとする必須微量元素は、少しの過剰摂取でも中毒に結びつく危険性がありますので、多くの品目を食す(偏食を避ける)という食事習慣が、一番安全かつ簡単な摂取法になります。

②アルギニンは精子を増やすの?

亜鉛サプリメント同様に、「精子が少ない」といわれた男性の多くの方が、精子サプリとして注目されているアルギニンを取られています。精子のDNAを構成するタンパク質のプロタミン内におけるアルギニンの占める割合が高いという点から、アルギニンを摂取することにより精子が増える?といった発想になったのでしょうか。
しかし、アルギニンは、非必須アミノ酸に分類され、体内で造ることができます。つまり、アルギニンは、通常の食生活をしていれば体内で過不足なく造られますので、サプリメントとして摂取する必要がありません。アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。

③ コエンザイムQ10は精子を増やすの?

細胞内小器官のミトコンドリアは、ブドウ糖を水と炭酸ガスに分解してエネルギーを作りますが、その最終工程で活性酸素を必要とします。精子サプリとして注目されているコエンザイムQ10ですが、活性酸素と水素から水を造る反応を助けます。
コエンザイムQ10が加齢とともに減少することから、アンチエイジングサプリメントや、抗酸化作用に着目した造精機能(精子形成)改善サプリメントとして利用されていますが、加齢により減るのは、必要とするエネルギー基礎代謝が減るからです。
コエンザイムQ10は、もともと体内で必要とされるエネルギーに合わせて生成、分解できる物質ですので、積極的に摂取する必要もないというのが真実です。コエンザイムQ10をたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。

結論、サプリメントで「精子は増えません!」

「精子の状態が悪い」といわれた妊娠したい夫婦が、「これを飲めば精子が増える」という情報に心を動かされる気持ちはわかります。
しかし、繰り返しお話してきましたが残念ながら、精子異常の背景には遺伝子の問題(先天異常)が関与しているケースが殆どですので、サプリメントでどうにかなる問題ではありません。

インターネット情報は、「できること」を強調しがちです。「できないこと」もたくさんあることを知ってください。

ブリーフよりトランクス?

一般的に造精機能を維持するためには、精巣上体を含め、精巣の周囲が体温より低いことが必須であることから、ぴったりとしたブリーフで体温を高めることが良くないという考え方が定着し、「精巣にはブリーフよりも通気性の高いトランクスがいい」という話は良く出てきます。熱を貯めないというイメージではブリーフよりトランクスの方が良いように感じますが、ぴったりのブリーフ着用の方が、みなさん不妊だという話は聞いたことがありません。

ノートパソコンが精巣に悪影響?

また、日々の診療の中で、ノートパソコンを膝において作業することにより、精巣の周囲に熱が貯まり、造精機能に障害を与えるのではないか?という質問も多いですが、最近のノートパソコンは省電力であり、発熱は最小限に抑えられています。パソコン自体の熱の影響よりも、同じ姿勢で長時間のパソコン作業をすることによる下半身の血行不良が生じる可能性があり、この血行不良が精子を造る精巣に悪影響を及ぼすのかもしれません。あまり長時間にならないように気をつけて作業すれば、さほど神経質になる必要はありません。

生活改善をしてもNGな場合も

ここで、繰り返しになりますが、不妊治療の現場において問題になるケースの大半は、先天性の遺伝子異常(先天異常)が原因で精子の形態異常が重篤になっている奇形精子症ですので、治療が困難になるケースが多く、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません。

また一方で、楕円頭部の運動精子、すなわち一見 精子の形が正常で「奇形精子ではない」と認識できる運動精子の中に、通常の顕微鏡では検知できない異常、「隠れ造精機能障害=隠れ精子形成障害=隠れ精子異常」が潜んでいるケースも多いのも事実です。この隠れ精子異常の背景においても、遺伝子の問題(先天異常)が関与していますので、このような場合も、食生活を改善するとか、適度な運動をするとか、そのような身近な環境を整えても残念ながら効果を期待できないということです。

このように精子の問題には遺伝子異常が関与している場合が殆どです。前述しましたが、精子奇形のみならず、精子異常の原因になる遺伝子異常は、『新生突然変異』といわれ、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起きます。その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので、大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。

まとめ

妊活を考えた方へのメッセージですが、精子の質を調べる精密検査をなるべく早い時点でやりましょう。その結果により、方向性が見えてきます。
詳細は、精子機能検査の項目を参照ください。

監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
日経woman

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