男性の妊活は何から始めるべき?上手な妊活の事例も紹介

公開日:2022.06.07
更新日:2022.07.08

妊活前に男性が最初に行うべきことは?

男性が妊活に向けて最初に行うべきことは、精子の精密検査になります。なるべく早く専門施設を受診して、科学的根拠に基づいた精子詳細情報を取得(把握)しておくことが、「上手な妊活の入り口戦略」になります。

精液検査の採取手順とは?持ち込みの場合に気を付ける事も解説:新しい精液検査│これまで見逃されてきた、隠れた精子異常を見極める

 

そもそも不妊症とは、妊娠を希望する生殖年齢にある夫婦が避妊せずに1年間 性行為を試みても妊娠しない場合を言いますが、昔から「なかなか妊娠できない、不妊である」となると、女性の問題(責任)とされてきました。実際のところ、女性が30歳後半~40歳代になると自然と妊娠し難くなり、また女性の社会進出に伴って晩婚化・晩産化が進んでいる背景もあることも事実ですが、現在では不妊になる原因の約半数は男性側(精子の問題:詳しくは後述)にあり、男女半々です。つまり、不妊は女性だけの問題ではありません。

パートナーと方針をたてる

不妊治療は経済的な負担が大きいことから、2022年4月より保険化されましたが(医療機関によっては自費診療)、女性側の精神的、物理的な負担は避けられません。それらの負担を軽減させるためにも「上手な妊活」をすることが重要です。具体的に言えば、妊活に向けて最初に行うべきことは、男性側の検査、すなわち精子の検査になります。

精子の検査といっても通常の顕微鏡で精子数や運動率、大まかな頭部形態を調べるといった、見た目だけの簡単な検査ではなく、分子生物学的な高度な手法で精子の中に隠れた多様な異常(隠れ精子異常)を見極めることができる精子精密検査を行うことが極めて重要になります。

精密検査で科学的根拠に基づいた精子詳細情報が得られることにより、精子側から「不妊治療が必要か、不要か」という治療適応の有無が明確になります。また治療が必要になった場合には、「どのような治療法が安全かつ最適なのか」という個別化プランが具体化しますので、その後の展望(治療の見通し・妊娠の可能性)を見据えて方針を検討できるという意味で効率的です。

しかし逆に、重度な精子異常が明らかになり、精子側から「安全な治療の土俵に乗ることができない=治療断念」という厳しい結果が出ることもあります。思ってもいなかった事実を伝えられた場合は、例外なく混乱し、心の葛藤、絶望は想像を絶するものがあり、サイエンスの観点だけでは割り切れない「心の問題」を整理する時間も必要なります。しかし治療現場では、長期にわたる不妊治療反復不成功という「辛すぎる終わりのない不妊治療」を経験して高額な経済投資をした後に重度な精子異常が発覚し、夫婦の関係が混乱状態に陥るケースが多いのも事実です。

多面的な視点から、「上手な妊活」に向けて最初に精子精密検査を行い、科学的根拠に基づいた詳細情報を取得(把握)することが「入り口戦略」になります。

精液検査

不妊原因の約半数は男性不妊ですが、その約90%は精子の形態や機能に問題がある精子異常です。しかも精子異常の中でも、隠れたところに異常が潜んでいる「隠れ精子異常」が多く、その背景には遺伝子の問題が関与している場合が多いというのが真実です。

一般的に精子の問題は、卵子の老化と同様に加齢に伴い悪化するように報道されていますが、上述したように実は、精子異常の背景には遺伝子異常(先天異常)が関与している場合が多いため、卵子と違って加齢の影響は低いというのが真実です。ですから、不妊治療において、いくら妻の治療がうまくいっても、夫に問題があれば妊娠率は上がりません。男性不妊(精子)の問題は、不妊治療において最も深刻な問題になります。だからこそ、治療を開始する前の段階で精子精密検査を実施していただくことが極めて重要になります。

標準的に行われている現行の精液検査では、普通の顕微鏡で主に精子濃度(1ml中の精子数)、運動率(運動している精子の割合)、精子頭部の形態(見た目の精子の外見的な頭の形)を観察しますが、隠れ精子異常を見極めることはできません。

一方で、私ども精子研究チームで開発した分子生物学的な精子精密検査法では、精子の見た目のみならず、隠れた精子異常の観察を可能にしました。本法により、科学的根拠に基づいた正確な精子詳細情報を開示できるようになり、精子側の視点から、治療に伴うリスクや夫婦に安全で最適な個別化治療を実践するための戦略の具体化、ならびに治療の見通し(妊娠の可能性)をある程度予測できるまでになりました。

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ですから、「上手な妊活」のために、不妊治療を開始する前に精子精密検査を実施していただくことをお勧めします。

風しん抗体検査

風しんは、風しんウイルスの飛沫感染で引き起こされる急性の発疹性感染症です。強い感染力を持ち、ヒトからヒトへ感染が伝播します。成人で発症した場合は、高熱や発疹が長引き、また強い関節痛を認めることもあり、小児より重症化する傾向にあります。脳炎や血小板減少性紫斑病等を合併すると更に重症化しますので軽視できません。

特に妊娠している女性が、妊娠20週頃迄に風しんウイルスに感染すると、眼や心臓、耳等に障害をもつ(先天性風しん症候群)子どもが生まれてくる可能性が高くなりますので、注意が必要です。妊娠1ヶ月で感染した場合は50%以上、妊娠2ヶ月では35%程度と報告されていますので、妊娠する前に風しんウイルスの抗体価を検査しておくことは重要です。妊娠中の女性は予防接種を受けることができませんので、風しんウイルスの抗体価が陰性もしくは低い場合にはワクチン接種をお勧めします。

事例:上手な妊活の進め方

20歳代の若い夫婦の「ちょっと待てよ!」「悪い精子をむりやり顕微授精で授精させて本当に大丈夫なの?」という気づきと、その意識に沿った迅速な行動が、上手な妊活に成功した事例を紹介しましょう。

当院受診前に某不妊治療クリニックで一般不妊検査を受けたところ、医師からは妻には「異常なし」と言われた一方で、夫の「精子の状態が悪い」ので「顕微授精じゃないと妊娠できませんよ!」と説明された夫婦の事例です。説明を受けた夫婦は、ふと「ちょっと待てよ!」、「悪い精子をむりやり顕微授精で授精させて本当に大丈夫なの?」という不安を感じたといいます。担当医師に疑問点を聞いてみたところ、「大丈夫ですよ!」の一言だけ。科学的根拠に基づいた説明は全くなかったとのことです。一層不安になり、「本当に問題ないのですか?」と再度尋ねると、「いやなら止めましょう」と言い返され、何とも納得がいかない医師の説明に憤りを感じ、必死にネット検索をしたといいます。

当院のホームページで「見た目だけでは精子品質の良し悪しは判らない」、元気に泳いでいる精子でも隠れた異常をもっている場合(低品質精子)もある一方で、一見 数が少なくて元気なさそうに見える精子でも良質の精子(高品質精子)である場合もあるという事実を知ったといいます。その後 当方を受診して精子精密検査を実施された結果、まさに後者のケースであり、確かに精子数は少なめでしたが、品質は良好で(隠れ精子異常率は極めて低く)、精子DNA構造を始め、受精に関わる精子機能の正常性が高いタイプでした。そこで妻の年齢も20歳代で若く、妻側の不妊検査の結果にも異常が認められず、妊孕性が高いと判断しましたので、6ヶ月間 自然に性交を取る方向で指導しました。その結果、指導3ヶ月目で自然妊娠し、既に健常児の出産に至っています。

この事例では、若夫婦の「ちょっと待てよ!」「本当に大丈夫?」という気づき行動が、顕微授精を回避しました。その迅速な判断が、経済的・精神的・時間的な負担が大きい不妊治療をしないで自然妊娠できたという、上手な妊活を成功させたのでしょう。

事例:男性側の不妊原因を早期に掴めて人生の軌道修正ができた

夫婦の「ちょっと待てよ!」「このまま同じ治療を反復していて本当に大丈夫なの?」という気づきと、その意識に沿った迅速な行動が、人生の軌道修正に成功した事例を紹介しましょう。

当院受診前の某不妊治療クリニックで「顕微授精を3回 繰り返したが、3回とも複数の卵子が採取できても全く授精せず(受精率0%)、結果として1回も胚移植にならなかった(胚移植率0%)」という顕微授精反復不成功の事例です。前医では、妻が30歳後半ということで「卵子の老化が原因で授精しない」という説明を受けていたといいます。しかし夫婦は、顕微授精の利点は「1匹の運動精子がいれば人の手で授精を可能にさせて妊娠させられること」と説明されていたので、「3回も顕微授精を反復しているのに3回とも全く授精しなかったことは何かおかしい!」という考えに辿り着き、当方の精子精密検査を希望し、受診されました。

精密検査の結果、精子DNA構造の安定性は高いタイプでしたが、一方で精子頭部の内部構造を解析したところ、ほぼすべての運動精子の先体(精子頭部の前半部を覆う袋状の小器官で、その中には卵子に侵入する際に必要な加水分解酵素が入っている)が欠損している「先天性先体欠損精子」であり、かつ頭部に空胞が認められる「頭部空胞精子」でした。これらの隠れ精子異常の背景には遺伝子の問題が関与していることから、受精率0%を繰り返させた原因は卵子の老化ではなく、遺伝子異常(先天異常)に起因する可能性が高いという見解に至りました。残念ながら、顕微授精は遺伝子異常を治す技術ではありません(先天異常には対応できません)ので、治療は困難(治療断念)と判断しました。

この事例では、夫婦の「ちょっと待てよ!」「本当に大丈夫?」という気づき行動が、顕微授精反復治療からの脱却を可能にし、人生を軌道修正することできました。子供を持たない人生への切り替えになりましたが、夫婦の迅速な判断がなければ、引き続き顕微授精反復不成功という「辛すぎる終わりのない不妊治療」に陥っていたかもしれません。

顕微授精のリスクとは?│事例や子供への影響について

精子の質を高めるには?

妊活に向けて健康的な食生活や適度な運動をすることは大切ですが、不妊治療の現場では、見た目は良好な運動精子でも隠れ異常(具体的には、精子DNA損傷率や受精に関わる機能異常率が高い等)が認められる場合が多く、その精子異常の背景に遺伝子の問題が関与しているケースが殆どです。そのような場合は、正直なところ食生活を改善するとか、適度な運動をするとか、生活習慣の見直しや薬やサプリメントで改善を期待することはできません。

精子が生成されるサイクルとは?健康的な精子の生成で気を付けること

精子異常の原因になる遺伝子異常は、『新生突然変異』といわれ、2万個以上のヒトDNAにおいて、精巣で精子が造られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で突然変異が起き、しかも、その遺伝子の突然変異は、精子1匹ごとに異常な箇所が異なりますので、大変複雑になります。このことが、男性不妊の治療を困難にさせています。

まとめ

不妊になる原因の約半数は男性側(精子異常)にあり、男女半々です。つまり、不妊は女性だけの問題ではありません。夫婦それぞれの役割分担を認識した上で、妊活に向けて協力して進めていきましょう。なるべく早い時点で精子精密検査を試みて、科学的根拠に基づいた詳細情報を取得(把握)してくことが、「上手な妊活の入り口戦略」になります。

監修者│黒田 優佳子

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監修者│黒田 優佳子

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長。不妊治療で生まれてくる子ども達の健常性向上を目指して「高品質な精子の精製法および精製精子の機能評価法の標準化」と共に「次世代の不妊治療法」を提唱し、日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

出版
不妊治療の真実 世界が認める最新臨床精子学
誤解だらけの不妊治療

主な監修コラム
不妊治療について
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